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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第1章 出会い

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第1章(5)とけあう温度

### 昊天 & 妻視点


帰宅したのは、夜の10時すぎだった。

タワーマンションのエントランスを抜け、

専用エレベーターで最上階に着くまで、

二人ともひと言も喋らなかった。

けれど、

リムジンの中で生まれた小さな揺らぎが、

そのまま二人の空気に残っていた。


昊天はジャケットを無言で脱ぎ捨てる。

妻は後ろからゆっくりと彼を見つめていた。

「昊天さん……」

呼ばれた瞬間、昊天の肩がわずかに揺れた。

リムジンでの“あの言葉”が、

まだ胸に残っている。


——「言えない。」

——「お前が……重い。」


重いのは負担ではなく、

心を動かす存在だという証だった。

妻は、震える息を吸う。

今夜だけは逃がしたくない。

昊天は躊躇した。

目を逸らす。

喉がひくりと動く。

沈黙が落ちる。

時計の秒針だけが淡く響く。

妻が、静かに言った。

「さっき……言ってくれたよね。

私のこと、重いって。」

昊天の指がわずかに動く。

「……忘れろ。」

「忘れないよ。」


その言葉に、昊天の呼吸が乱れる。

妻は続けた。

「重いって……嫌じゃなかった。

昊天さんが、私のことを……ちゃんと“感じてくれてる”って思って」


昊天は顔を伏せた。


(どうして……そんなふうに、

俺の言葉を……受け取れる)


自分は、ただ怯えていただけなのに。

妻はそっと、

彼の袖口に触れた。


「……昊天さん、

私はあなたの邪魔をしたいんじゃない。

ただ……一緒にいたいだけ。」


昊天はたまらず立ち上がった。

距離を取ろうとするように。

だが——

数歩進んだところで、動けなくなった。

背中越しに感じる。

追いかけてこない優しさ。

待ってくれている静けさ。

逃げる理由が、

少しずつ薄れていく。


(……こんなふうに扱われたこと、

俺は一度もない)


昊天はゆっくり振り返り、

妻を見た。

その瞳の奥に、

自分を責める色がないことが、

何より苦しかった。


「……お前は……どうして……」


言葉が続かない。

妻は微笑んだ。

涙が光るように見えた。


「だって、あなたは——

“選んでくれた”から。」


昊天の胸の奥が、

ひどく熱くなる。

そして——ついに。

彼は妻のそばに戻り、

そっと腕を伸ばした。

一度触れたら終わりだ。

後戻りできない。

それでも、今夜だけは。


昊天は妻を抱き寄せた。

初めて、

ためらいのない力で。

妻は驚いたが、

すぐにその胸の中で目を閉じた。


心臓の音が、

近い。

温度が、

確か。


昊天は震えていた。

抱きしめながら、息を殺していた。


「……離れられない。」


その小さな声は、

今までで一番“素直だった”。

妻は胸の中で囁いた。


「離れなくていい」


昊天は目を閉じた。

妻のやわらかい唇の感触。


驚いて目を見開くと

「これでおあいこ」

妻がふふと笑う。

逃げることも、

拒むこともできなかった。

ただ、

この温度に浸りたかった。


そのままもつれあい、ソファに深く沈み込む。

さらさらという衣擦れの音。

押し殺すような声。

うめき。

ふたつの影がかさなる。


しばらくして妻の呼吸が落ち着き、

彼の胸で静かに眠り始めたころ。

昊天はそっと彼女を抱き上げ、

寝室へ運んだ。

ベッドに寝かせたあと、

迷った末に——

隣に横になった。

妻の寝顔を見つめ、

心の中で小さく呟いた。


(……離さない)


そしてまた、

怖くなった。

でも今は、

この夜を壊したくなかった。

二人がとけあう夜は、

静かに深く流れていった。

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