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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第1章 出会い

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第1章(2)近づく努力


——新婚初期


### 妻視点


結婚して数週間。

新しい住まいの朝は相変わらず静かだった。

昊天は夜明けより早く出る。

妻は目が覚めて隣を見るたび、

整ったシーツだけがそこにある。

機械のように正確な生活。

呼吸のように距離を置く夫。

それでも妻は、少しずつ“家らしい形”を作ろうとした。

朝食を用意する。

パンと卵と、昊天が一口だけ飲むコーヒー。

食卓の上には、

夫婦のために並べた皿が二枚。

昊天がその皿に手を伸ばしたことは、

一度もなかった。


「昊天さん、今日は夕食……ご一緒できる?」

小さな勇気で声をかけた夜もある。

「仕事だ。」

短い返事とともに、背を向けて歩き去る。

冷たいというより、

痛いほど“何も入っていない”声だった。


(嫌われているわけじゃない……

でも、私という存在が、

昊天さんの生活にはまだ“置き場がない”)


妻はそう思い、

小さく息を吐いて笑った。

結婚と恋愛は別——そう割り切って嫁いだはずなのに、

人は不思議だ。

静かな日々の中で、

“一緒に食卓を囲みたい”という

ありふれた願いが生まれてしまう。


旅行の提案をしたこともある。

昊天は手を止め、

彼女を一瞥し、

すぐ目を逸らした。

「……必要ない。」

必要ない。

その言葉は鋭くはないのに、心の奥に落ちて痛みをつくる。

妻はもう一度微笑み、

頷いてみせた。

「……ごめんなさい。無理に言って」

その声音の優しさが、

昊天の胸をわずかに刺したことに、

妻は気づかない。

昊天はただ、

書斎に逃げ込むだけだった。


---


妻は夜のリビングで、

ひとり静かに紅茶を飲んでいた。

食卓の片隅、

スイスの湖の写真が載った小さな雑誌を閉じる。

メイドが昼間置いていったもので、

自分が開いたわけではない。

ただ、

“綺麗だな”

とそう思っただけ。

昊天はスイスのボーディングスクールを卒業したと人づてに聞いた。

昊天の過ごした土地を知りたいと思った自分は、無謀なのだろうか。

あの人の心は固く閉ざされていて、

鍵は自分ではないのだと分かっている。

それでも——

諦めきれないのはどうしてだろう。

窓の外では、

夜景が宝石のように瞬いている。

その光のなかで、

妻は両手を胸に置き、静かに呟いた。

「……焦らないで。

嫌いにならないし、

逃げられても……

ちゃんと待ってるから」

届かないと知りながら、

優しい声で。


---


### 昊天視点


書斎の扉の向こう。

昊天は机に突っ伏し息を乱していた。

(どうして……あんなに、近づこうとする)

妻の優しさも、努力も、

昊天には“痛み”に変わって届く。

自分が人を幸せにできるなど、

とうの昔に諦めた。

失わせるだけだと思っている。

結婚も、家同士のため。

家族を演じればいい。

距離を保てばいい。

妻を巻き込まなければいい。

それだけの話だったはずなのに——


(あの目で、見ないでくれ)


自分を信じようとする目。

自分に触れようとする手。

自分の過去を知ろうとする声。

すべてが怖かった。

逃げるように仕事を詰め込み、

帰宅も遅くする。

書斎に籠り、

妻の気配だけを感じながら夜を過ごした。


---


翌朝。

また、食卓に二つの皿が並んだ。

そのうち一つが使われる日は、

まだ来ない。


でも——

いつかその日が来る。

それが、この家での日々の唯一の救いだった。

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