第2章番外 新しい家
(承前)
ペントハウスのダイニングは、朝の光が柔らかく差し込んでいた。
上海のスカイラインが、ガラス越しにぼんやりと広がっている。
時計は7時半を少し回ったところ。
パントリーでは、小猫がエプロンを着けて、
トースターのタイマーを確認していた。
トースターがチン、と鳴る。
「おはようございます、お嬢様!……あ、奥様!」
妻は寝室から出てきて、髪を軽くまとめながらパントリーへ向かう。
「旦那様は少し焦げ目がついたほうが好きなのよ」
小猫が焼きたてのパンを皿に盛り、
卵をスクランブルして、
ベーコンをカリカリに焼いたプレートを並べる。
シンプルだけど、丁寧に作られた朝食。
コーヒーの香りが部屋に広がる。
そのとき、寝室のドアが開く音がした。
昊天が、シャツの袖を軽くまくりながら出てくる。
髪は少し乱れていて、眼鏡をかけていた。
いつもの完璧な総裁モードじゃない。
妻と目が合うと、
「おはよう」
静かな声。
妻は少し照れくさそうに、
「おはよう」
小猫は慌てて、
「おはようございます、旦那様!」
「……お前は朝から騒がしいな」
そういいながらも、昊天はコーヒーを一口飲んで、
「うまいな」
小猫の顔がぱっと明るくなる。
妻はフォークで卵を突きながら、「本当に……いいんですか?小猫をこちらに置いても?」
昊天は淡々と、
「菲菲に話はつけてある。
身辺調査も済ませた。
問題ない」
小猫は涙目になって、
「ありがとうございます……!」
妻は昊天の横顔を見て、
胸の奥が温かくなるのを感じた。これまでの修羅場が、遠い記憶のように思える。
昊天はコーヒーを飲み干して、
「今日は午後から出かける。俺のことは気にせず好きに過ごせ」
静かに立ち上がり、書斎に消えた。
明るい日差しがダイニングテーブルに輪を描いていた。




