一歳の時に見たお兄ちゃんに恋をして三歳で家を出た、お兄ちゃんと結婚するために
皆さんの初恋は、いつですか?
私の初恋は……一歳の時でした。
そんな訳ない、と思うかもしれません。
でも、本当なんです。
相手は、私の兄。
いいえ、お兄ちゃんでした。
初めてお兄ちゃんを「意識して」見たのが、一歳の時。
姿を目にした瞬間、心臓の鼓動が耳元で鳴り響いたのを、今でもはっきり覚えています。
ええ、その通りです。
皆さんの想像通り、耳元に心臓があったんです。
それからのお兄ちゃんとの生活は、私の寿命を半分ほど縮めたと言っても過言ではありません。
とにかく、身体がおかしくなってしまったんです。
お兄ちゃんの顔を見るだけで心拍数は常に百八十オーバー。
言葉を交わせば熱が出る。
ベッドで寝込めば、看病に来てくれる優しいお兄ちゃん。
濡れたタオルを替えられるたびに心拍は跳ね上がり、
おでこに乗せられたタオルは、砂漠の砂みたいにすぐ干からびていました。
幸せ地獄。
矛盾した言葉だけど、私にはこれ以上ないほどしっくりきます。
お兄ちゃんと一緒にいられて幸せ。
でも、毎日高熱で頭はクラクラ。
一歳の私の身体には、あまりにも荷が重すぎました。
――そして、三歳になった私は考えます。
いっそ、お兄ちゃんと結婚してキスをすればいいんじゃないか、と。
それは人としての絶頂。
人生における最高潮の瞬間。
そこまで辿り着けば、この身体に起きている異常も止まるはずだし、お兄ちゃんとも結婚できる。
一石二鳥。
今になって思えば、実に合理的な発想でした。
私は勇気を振り絞り、お兄ちゃんの前に立ちます。
「朔お兄ちゃん!! 凛のこと、好き?」
本当はプロポーズして、結婚して、キスまでする予定でした。
でも恥ずかしくて、言葉が喉でつかえてしまったんです。
「ああ! もちろん、お兄ちゃんは凛のことが大好きだよ」
言葉は刃物だ、と誰かが言っていました。
全くその通りです。
お兄ちゃんの声。
表情。
手の温もり。
すべてが私の急所を正確に抉る、凶器でした。
その瞬間、私は頭から湯気と鼻血を噴き出し、三日間寝込みます。
「凛!!!」
心配するお兄ちゃんの声が、心地よく感じられるほど、私はすっかり侵されていました。
三日後、熱が下がり――
久しぶりにお兄ちゃんの顔を見た瞬間、胸が波打つように跳ねます。
髪を切って、前よりずっと格好いい。
元々さらさらだった髪が綺麗に揃えられ、耳元がはっきり見えて、顔全体が輝いているようでした。
言葉より先に、身体が動きました。
私はお兄ちゃんの手を握り、自分の部屋へ引っ張ります。
「どうしたの、凛。急に手を引っ張ったりして」
「あのね……朔お兄ちゃん……私と、結婚してください!!」
静まり返った部屋に、私の声だけが響きました。
お兄ちゃんの顔は、恥ずかしくて見られません。
目を閉じて、返事を待つことしかできなかった。
だって――
以前、お兄ちゃんは言ってくれたんです。
凛のことが大好きだって。
だから、返事はきっと「いいよ」だと信じていました。
「凛……ごめんね。僕たちは、結婚はできないんだよ。兄妹なんだから」
“兄妹なんだから”。
その言葉が、脳裏で何度も何度も再生されます。
そして私は、三歳にして――
人生のどん底へと、真っ逆さまに堕ちていきました。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ふと思いついて描き始めた作品で、皆さんの意見や、考察等を書いて楽しんで頂けると幸いです。




