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第四話

遅筆すぎています(汗)

どうぞよろしくお願いします。

 ゴルティ侯爵家の年若い執事見習いが広間に入ってきたとき顔色がなくこわばっていた。


 まさか見習いとは言え侯爵家の執事が顔色一つ制御できないとは。


 主人の現況を顧みられない愚か者と、いつものように怒鳴りつけようとしたが、視線の端に女侯爵の笑顔が入り、思いとどまった。

 

 「い……いったいどうした!このような場に……!」


 「も……申し訳ございません。皇宮から派遣された方がお出でになったもので……」


 「……あら、もう到着したのかしら。思ったより早かったのね」


 「……な……なにが……」


 絞り出した声は掠れ、力なくこぼれた 。


 ある種の緊張感が作り出した静寂な広間に扉が開かれた音が響いた。


 普段なら気にもしない音なのに、不意に縛られていた糸が切れたような認識が広間に広がった。


 

 見習い執事が開けた扉から数人の男性が入ってきた。


 マチルダには記憶にない人物たちだったが、広間にいる人たちには顔なじみだったようだ。


 マチルダは思った。

 あの人たち誰かに似ている?んん……そうだ!辺境伯様の補佐をしている文官のラルフ様だ。

 銀縁眼鏡に歩幅のそろった歩き方。

 雰囲気がそっくり。皇宮の文官貴族の方かな?


 貴族の婚姻は皇帝の御前会議で決まるために解消するにも書類提出がいる。

 その書類を整えるために――少しでも不備があれば突き返されるからね――第三者である皇宮の記録課の文官に私的に頼む家が多い。

 記録課の文官の副業にしている、下位貴族が多いと……そうだラルフ様に聞いたんだ。



 「ご家族と団らん中にごめんなさいね、サリオス伯爵」


 「とんでもございません、ヴァルメイル侯爵閣下のお声掛けですから。どこへなりとも参上いたします」


 サリオス伯爵と呼ばれた――今入ってきた集団の先頭に立っていた――男性は、女侯爵へ優雅に一礼した。


 「さて、お久しぶりです、ゴルティ侯爵」


 「……サリオス伯爵、たかが婚約解消の書類作成には、下位貴族が来るはずだろう?司法省付記録課のトップである卿が、なぜここに?」


 「たかが、婚約解消?ですと?」


 響くバリトンで、わざと一語一語区切りながら言葉を口にした。


 毒蛇と、影で恐れと共に噂されるサリオス伯爵は、意図的に人を不快にさせる話し方をする人物だ。


 「ゴルティ侯爵の認識がどうなのか私のような矮小な人間には分かりかねますが、今回は皇帝陛下、そして議会の決定に背く可能性を含む事案だと判断され、私が出張ることになった――それだけのことです」


 「!……まさか、皇帝陛下に背くなど!ただ息子は浅慮なだけで……」

 

 「あら?まだ御子息の若気の至りとでもおっしゃるのかしら?」


 パチンと音をさせて閉じた扇を、ゴルティ侯爵に向けた。


 「なぜ、サリオス伯爵の到着がこれほど早いのか、まだお分かりにならないの?」


 「な……なぜ?……ま……まさか……」


 ゴルティ侯爵は額に浮かぶ汗を拭わずにはいられなかった。


 「貴方、先ほど北辺境のボレトーデ伯爵と、あちらの隅で密会なさっていたわよね。それに……ボレトーデ伯爵が慌ただしくお帰りになったのは、ノードセプオン公への報告のため――そう仰っていたでしょう?」


 ゴルティ侯爵は、足元から力が抜け、身体を支える感覚が失われていくのを覚えた。


 ノードセプオン辺境伯の側近の一人であるボレトーデ伯爵が、北辺境軍の重鎮であるアルシーヌ伯爵家との軋轢を、報告せずに済ませるはずがない。

 

 「……ノードセプオン=シュタインブルグ公爵ファビアン・ロレンス様が当該事案の緊急性を鑑み、皇帝陛下との直通連絡魔術具を開放されました」


 なぜ私が出張る事になったのか――これでお分かりでしょう?


 追い詰めた獲物を見て舌なめずりする様な笑みが、サリオス伯爵の口元に見えた。


 「それでは、この広間で一部始終をご覧になられていた皆様に聞き取りから始めさせていただきます」


 サリオス伯爵は、引き連れてきた部下たちを予定通りに、それぞれ持ち場につかせた。


 一番年若く見える部下が、胸の位置で持っている黒い木箱を恭しく、近くの円卓に置いた。


 皇家の家紋の封蝋に一礼。

 少し震えて見える手には、刃を潰した金色に光る小さなナイフが握られていた。


 周囲からは見えないが、その小さなナイフの柄にも皇家の家紋が彫られていた。


 金色に光るナイフの潰された切っ先を、黒い木箱の封蝋に当てると煙と共に封印が解かれた。


 カタンっと軽い音と共に、木箱の上蓋が跳ね上がった。


 黒い木箱の蓋の開いた口に、サリオス伯爵はこちらも皇家の封蝋が押された紙片を複数枚投げ入れた。

 

 次の瞬間、片手の平に乗るほどの小さな光が、いくつも木箱から飛び出してきた。


 一つ、また一つ、とゴルティ侯爵家に招待された人々の目の前に、浮かんだまま止まった。


 「ひっ!」


 広間のあちらこちらから、小さな悲鳴が上がり、目の前の小さな光を振り払う貴婦人もいた。


 「わ……私たちが、何故こんな罪人みたいな扱いを、されないといけないの?!」


 口の端だけを持ち上げた笑みを作っていたが、三日月のような瞳には一切の笑みを宿していないサリオス伯爵が、パンパンと軽く手を二拍打った。


 「落ち着きなさい。その魔術具は、強制的に自白を引き出す用途のものではありません。どうぞ、ご安心を」


 皇宮文官も多いこの場だ。一度はこれを目にした者もいるはずなのだが――サリオス伯爵はそう前置きして、言葉をつづけた。


 「初めての方がいらっしゃるということで、説明いたします。こちらは録音魔術具です。危険なものではありません」


 と、サリオス伯爵に皆さんに説明を、と話を振られた部下の一人が口を開いた。


 「皆様、これからお名前を呼び上げます。その後は指定された場所で各々質問にお答えください」


 


 


読んでいただきありがとうございます。

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