うちの娘を悪役令嬢にはさせません
私の娘、フリージア・グランヴィルは十二歳。
もうすぐ王立学校に入学し、卒業までの六年間ヒロインをいびり倒す悪役令嬢になる予定だ。
「フリージア、帰ってきたなら一言声をかけてちょうだい」
侍女と街へ出かけていた娘は、私をちらりと見ると、気のない返事をしてすぐに背を向けた。
「ええ」
「ちょっと待って、フリージア。午後のお茶にしましょう。あなたの好きなアップルパイもあるのよ」
「無理ですわ。今忙しいので」
娘は美しい青髪をなびかせて行ってしまった。
あのサラツヤのストレートヘアは、最近巷で大流行している魔法椿のオイルを毎晩欠かさず塗って生まれたものだ。
そして高価で品薄なそのレアアイテムは、侯爵未亡人であるこの私ローレル・グランヴィルが、コネと財力を駆使してやっと手に入れたもの。
ヘアオイルを私におねだりするときのフリージアは、「お願い、お母様」とかわいらしく笑ってみせた。
だが、たった今見せたあのそっけない態度の方が通常運転である。
「……昔は小さなお口いっぱいにアップルパイを頬張って、三回もおかわりしたのに……」
天使のようだったフリージアは一体どこへ行ってしまったのだろう。
いや、それよりも、もうすぐ娘が悪役令嬢になってしまうことの方が大問題だ。
つい先週、私は雨上がりの庭園で滑って転んで花壇のレンガに頭を打ちつけ、前世で読んでいた漫画『魔法使いと虹色の恋』のことを思い出した。
そして、この世界がその漫画の舞台であること。
さらに、漫画のヒロインであるアマリリスに嫉妬してありとあらゆる嫌がらせをした挙句、ギルバート王太子殿下に婚約破棄され断罪される悪役令嬢こそ──私の愛娘、フリージアであることに気がついたのだ。
荒唐無稽な話だが、頭を打ったショックで私がおかしくなっているのならその方がマシだ。
夫のカートが若くして病気で亡くなる間際、「ローレル、あとは頼む」と託されたグランヴィル侯爵家と、忘れ形見の双子のフィンとフリージア。
漫画の筋書き通りの断罪によってそのすべてを失うことなど、断固阻止しなければならない。
けれど………………肝心のフリージアは、絶賛思春期中だった。
私が産んだ双子のうち、兄のフィンは小さな頃から穏やかで友人も多く、なんでもそつなくこなす優等生だ。
けれども妹のフリージアはどちらかというと気分にむらがあり、反骨心が旺盛なタイプ。
同じ双子でも、フィンは思春期などどこ吹く風というほど変わりがなく、フリージアは完全に思春期まっただなかである。
これまでも私はさりげなくフリージアに「王立学校ではお友達とは仲良くするのよ。気に入らない子がいても嫌なことをしては駄目よ」とか「殿下の婚約者だからといって、殿下に近づく子にヤキモチを焼いたりしないようにね」などと言ってみた。
だがそのたびにうるさそうに「わかってますわ」とか「同じことを何度もおっしゃらないで」とだけ答え、娘はさっさと私から離れていくのだった。
フリージアはいい子だ。
動物や小さい子には優しいし、悪いことはしないし、誕生日や記念日には必ず私やフィンに贈り物をくれる。
だが同時に、理不尽な状況や困難には徹底的に立ち向かう性格なのである。
それなのに対話もままならないこの状況では、フリージアとわが家の行く末が心配でならなかった。
***
春。
フィンとフリージアは王立学校に入学した。
前世でいう中高一貫校のような、王侯貴族向けの学校だ。
今年入学した子どもたちは、だいたい中学一年生に相当する。
入学式のあと、巨大な講堂にやんごとなき新入生の保護者たちが集められた。
先生方の指示のもと、さっそく保護者の中からクラス役員決めが行われる。
社交や家政や領地経営で忙しい皆様が手を挙げしぶる中、私はまっさきに挙手をした。
クラス役員は、学校行事の手伝いや会計などの事務仕事、広報活動などを担当する。
担当によっては堂々と王立学校を訪れ、フリージアたちの様子を見守ることができるのだ。
私にとってはまさに役得である。
役員たちは担任の先生から一通りの説明を受けたあと、それぞれの分担を決め、隅に控えていた各々の執事たちによって連絡先が共有された。
そして上品な挨拶を交わしあい、解散となった。
「レディ・ローレル!」
「まぁ……ラドクリフではありませんか」
声をかけられて振りかえると、私の実家の領地の騎士団で従騎士をしていたラドクリフがほほえんでいた。
私の二つ下で、昔は線が細かったけれど今はがっしりと長身で、騎士服が板についている。
懐かしさに私も顔をほころばせた。
「お久しぶりですね。お子様がご入学されたのですか?」
「いえ、僕はまだ独り身で……今はギルバート王太子殿下の護衛騎士をしております」
「まあ、そうでしたの。花形の護衛騎士をしているなんて、さすがはラドクリフですわ。昔から強かったですものね」
私の言葉に、ラドクリフは頬を赤くした。
周りの貴婦人たちから注目を集めるほど美丈夫の騎士になっても、照れ屋なところは相変わらずのようだ。
「レディ・ローレルはクラス役員になられたのですね。昔からお嬢様は聡明でお優しい方でしたから、これ以上なく適任かと」
「あら、私はもう『お嬢様』ではないし、そんなに褒めても何も出ませんわよ?」
「本心なのですが……」
ラドクリフはまだ何か言いたげだったが、担任に呼ばれて名残惜しそうに去っていった。
フリージアは殿下と同じクラスだ。
殿下の護衛騎士である彼とは、また会う機会もあるだろう。
クラス役員になれたという今日の成果に満足して、私は帰路についた。
***
五月。
学校の広場で新入生のオリエンテーションが開催されることになり、クラス役員の私もお手伝いに行くことになった。
当日の朝、私は屋敷の壁に掛けられた亡夫カートの肖像画に語りかけた。
「うまくいくように見守っていてね、カート……」
絵の中の彼は、いつものように穏やかにほほえんで私を見下ろしている。
そのとき、背後で足音がした。
振りむくと、駆け去っていくフリージアの後ろ姿が目に入った。
花と風船で飾られた王立学校の広場で、新入生オリエンテーションが始まった。
侍女と従者たちは手際よくピクニックランチのセッティングをしている。
そのあいだ、生徒たちはジェスチャーゲームをしたりダンスをして、親睦を深めるのである。
私はクラス役員内で広報の担当となった。
オリエンテーションの様子を記事にして、学校新聞に寄稿する役目。
ゲームをする令嬢令息たちの輪から少し離れて立ち、帳面に魔法ペンでメモしていく。
フリージアもフィンも友達と楽しそうにしていて、ほっとした。ちなみにこの二人は別々のクラスだ。
輪の反対側では、護衛騎士のラドクリフが直立不動で殿下を見守っている。
ふと目が合ったので、私はラドクリフにほほえみかけた。
とたんに、彼はえもいわれぬ幸福そうな笑顔を私に向けた。
気づいた生徒たちが一斉にざわついた。
「おい、見たか? あのどんな悪戯をしても動じない護衛騎士が笑ったぜ」とか、「まあっ、『吹雪の騎士』様があんな笑顔をお見せになるなんて……!」とか色々と言われている。
彼は普段、一体どんな風に仕事をしているのだろう……。
ジェスチャーゲームは大盛り上がりで終わった。
次は全員で輪舞を踊る時間だ。
その昔、自分がここの学生だった頃を思い出す。
あのときはドキドキしながら、カートと踊る順番を心待ちにしていたわね。
今日の私はあらかじめ、この世界のヒロインであるアマリリスの近くにポジショニングをしていた。
庶子であり、去年成金男爵家に引き取られたばかりの彼女は、まだダンスを習っていない。
そのため漫画『魔法使いと虹色の恋』では輪舞でまごついて転び、隣にいたフリージアのドレスの裾を破ってしまうという失態を犯すのだ。
王立学校に入って初めての野外イベント、しかも婚約者であるギルバート殿下も同じクラスとあって張り切っていたフリージアは激怒する。
それ以降、フリージアによるアマリリスへのいじめが始まり、見かねた殿下がヒロインに手を差し伸べ恋に落ちる……という暗黒の未来へのレールが敷かれてしまうのだ。
ダンスをすると聞いて困っている様子のアマリリスに、私は優しく声をかけた。
「ねえ、そこのあなた。すみませんが、ちょっと手を貸してくださらない?」
「あ、はい……」
アマリリスが生徒たちの輪から外れ、私のそばへ来る。
私は従僕たちに運んでもらった重い魔法撮影機のカバーをしゅるんと外した。
「これは風景や人物をリアルな絵として残せる魔法道具なの。でも一人では操作が難しくて……」
「それはすごい道具ですね! 私でよければ、喜んでお手伝いします」
かわいらしい大きなピンクの瞳をきらきらさせ、アマリリスは快活に答えた。
思わず胸がきゅんとする。いい子だわ……。
「ありがとう。でも、ごめんなさいね? せっかくのオリエンテーションなのに、邪魔をしてしまって」
「いいえ、むしろ助かりました。お恥ずかしいですが、ダンスなんて一度も踊ったことがなくて……」
「あら、そうなの。では今度の週末、うちへいらしたら? 私でよければお教えするわ」
「いいのですか!?」
アマリリスはパッと頬を紅潮させた。
とっさに出た言葉だけれど、私はダンスなら得意だし、これをきっかけにうちのフリージアと仲良くなってくれたら万々歳だ。
「もちろんよ。あとで空いているお時間とご住所を教えてくださる? 馬車で迎えに行くから」
「はい、ありがとうございます!」
花が咲くようなアマリリスの笑顔に、私もうれしくなった。
他の生徒たちが当たり前にできるダンスが自分だけできないという事実に直面して、きっと内心は不安だったのだろう。
足の不自由な母親を持つ彼女は幼い頃から働きづめだったから、城下町のお祭りのダンスさえ経験したことがないのだと、漫画の回想シーンを読んだ私は知っていた。
そのあとは輪舞も撮影も順調に進み、昼食の時間になった。
従僕と侍女たちが美しくセッティングしたガーデンテーブルの席に着く生徒たち。
漫画では、ギルバート王太子殿下は婚約者であるフリージアの隣に座るはずだったが、チェアの脚がガタついていたため、すみっこにいるアマリリスの隣の席に移動することになる。
この日のためにひそかに殿下の好みをリサーチし、何度も侯爵家の料理長とメニューを相談し、完璧な二人分のランチを用意してきたフリージアだが、その努力は報われない。
それどころか殿下は、アマリリスの庶民的なサンドイッチを味見したとたんにすっかり気に入ってしまうのだ。
そして今日から卒業までの六年間、フリージアは嫉妬の炎に苦しむことになる。
「うちの子にそんな思いはさせないわ……!」
アップルパイを幸せそうにほおばる小さなフリージアを思い出し、拳を握りしめる。
私はあらかじめ、殿下のガーデンチェアを別のものと交換するよう、セッティングの際に侍女に頼んでおいた。
そのときに脚がガタつかないか確認もしたので、殿下は問題なくフリージアの隣にお座りになるだろう。
私は鬼気迫る表情で殿下を凝視した。
護衛騎士ラドクリフが戸惑ったような視線を私に向けているのが感じられたが、気にしている場合ではない。
そのとき、ガタッと大きな音がした。
腰を下ろそうとしたとたん、殿下のチェアがバラバラに壊れてしまったのだ。
彼は大きくバランスを崩した。
「殿下っ!!」
ずっと彼を注視していた私が一番に気づいた。
さっと駆け寄って腕を伸ばし、その体を抱き止める。
「大丈夫ですか、殿下!?」
「あ、ああ……ありがとう、グランヴィル侯爵夫人」
「お礼には及びませんわ」
にっこり笑い、殿下をそっと地面に立たせる。
私にお礼を言ってくれた殿下は、ほんのりと耳を赤くしていてかわいらしい。
漫画の中のギルバート殿下は十八歳の長身美形王子様だけれど、今の彼は私の息子のフィンと同じ、十二歳の細身の少年だ。
まだまだ私でも受け止めることができてよかったわ。
「殿下! お怪我は……」
血相を変えてラドクリフが走ってきた。
殿下は笑って答えた。
「無事だ。グランヴィル侯爵夫人が、まるで護衛騎士のように私を助けてくれたからな」
「そ、そんな……」
「レディ・ローレル、お礼を申し上げます。護衛騎士の私がついていながら面目ありません」
「いいえ、気にしないで。こんなこと、誰にも予想できないのだし」
ラドクリフの名誉のために言っておくと、彼は主に外部から侵入する不審者を警戒していたので反応が遅れただけである。
どうやら座面にひびが入っていたようだが、まさか学校の備品に危険が潜んでいるとは誰も思わないだろう。
というか、殿下のチェアを取りかえるよう指示した私のせいよね……。
結局、チェアは無残に壊れ、フリージアの隣の席は消失してしまった。
フリージアは青ざめた顔で、テーブルの上に並んだ二人分のランチを見つめている。
殿下がアマリリスの隣の席に移ることを予感しているのだろうか?
私も胸が痛くなった。
ああ……どうあがいても、運命を変えることなどできないの?
「あの、どうぞこれをお使いください」
当のアマリリスの声がした。
そちらを見ると、彼女は華奢な体で、重いガーデンチェアを運んでくるところだった。
急いでラドクリフがチェアを受け取り、礼を言う。
私はあっけにとられてそれを見ていた。
元々、アマリリスの隣には誰も座らない予備のチェアが用意されていた。
だからこそ漫画では、殿下がそちらの席に移動することになったのだ。
でも……まさかアマリリスが、そのチェアを自分で持ってきてくれるなんて……。
その予備のチェアは、今度こそガタついても壊れかけてもいない、普通に使えるものだった。
今度こそ、フリージアの隣に殿下が座る。
フリージアは「ランチを多めに作ってきたので、よろしければどうぞ」と彼に勧め、二人で仲良く食べ始めた。
私はそれをちらりと横目で確認して、安堵しながらアマリリスにお礼を言った。
「ありがとう、アマリリスさん。とても親切なのね」
「いえ、グランヴィル侯爵夫人。お役に立ててよかったです」
か、かわいい……!
ニコッとうれしそうに笑う顔がまた、たまらないわ……!
ランチが終わると使用人たちによる撤収作業が始まり、生徒たちはフリータイムとなった。
だだっ広い広場をそぞろ歩くもよし、草花を摘むもよし、グループで集まってお喋りをするもよし。
気の合った相手と仲を深めるには絶好の時間である。
きょろきょろとわが子たちを探すと、フィンは男子学生数人と集まって楽しそうに話をしている。
フリージアはというと……いたいた。
…………草むらのすみっこで、一人でしゃがみこんでいる。
えっ……あの子、一人で何をしているのかしら?
まさか、もう五月なのに、仲がいい友達が一人もいないの?
サーッと私の顔から血の気が引いていく。
あの子が悪役令嬢になるのを阻止することで頭がいっぱいで、そういえば最近フリージアの話をちゃんと聞いていなかった。
もしかして、孤立しているのはあの子の方だとか……?
私はそっと娘に近づき、声をかけた。
「フリージア、何をしているの?」
彼女はパッと振りかえり、手に持っていた何かを後ろに隠した。
「お、お母様……別に、何もしてませんわ」
「そう? 具合でも悪いのかと思って」
私もしゃがんでフリージアに目線を合わせ、ほほえんだ。
気まずそうにさっと目をそらされる。
「どうせまた『皆さんと仲良く』とおっしゃるんでしょう?」
「……いいえ。無理をしなくてもいいわ」
思い返してみれば、前世で一人で漫画を読む時間も、私にとっては大切な時間だった。
誰かと仲良くすることを無理強いしても、きっと意味はないのだろう。
静かな草むらで風に吹かれていると気持ちがいい。
私が何も言わないでいると、フリージアはぽつぽつと話しだした。
「……最近、勉強のしすぎなのか、よく頭痛がするんですの。それもあって、人と長時間話していると疲れてしまって……」
「え? あなた、そんなに勉強しているの?」
「そうですわ。うちにはお父様もおりませんし、私は殿下の婚約者ですし、王立学校でいい成績を取らないわけには……というか、『忙しい』とこれまで何度もお母様に言いましたよね?」
じとりとにらまれ、あわてて誤魔化すような笑みを浮かべる。
「最近、あなたをお茶に誘っても断られたのはそういう理由だったのね。言ってくれれば、紅茶とアップルパイをお部屋へ持って行かせたのに」
フリージアは頬に手を当て、ため息をついた。
「アップルパイはカロリーが高いので控えているんですの。王太子妃には美しさも求められるでしょう? それなのにさきほどは殿下のチェアが壊れてしまって……もし殿下が席を移ってしまったら、二人分のランチを私一人で食べなければならないのかとゾッとしましたわ」
「それで青くなっていたの!?」
前世の名残りなのか、子どもたちには幼い頃から「出された食事は残さずいただきなさい」と言い聞かせてきた。
そのため、真面目なフリージアはランチを残さず食べなければ……と青ざめていたようだ。
別に「殿下を取られたくない」と思っていたわけではないらしい。
まだ娘は悪役令嬢への道を歩み始めていないと知り、しゃがんだまま、ほっと息を吐く。
そんな私に、娘が何かを差し出した。
顔を上げると、その手には四つ葉のクローバーが握られていた。
「?」
「……お母様は、最近なんだかお疲れのようですし……その、お父様もいなくて、寂しいでしょうから……」
「これを、私に?」
フリージアは小さくうなずいた。
小さな緑色の、まるで宝石のような四つ葉のクローバー。
私はそれを、娘からそっと受け取った。
大人になると涙もろくなるというのは本当だ。
目を潤ませながら、優しい娘に笑いかける。
「ありがとう、フリージア。大切にするわね」
照れたようにそっぽを向いて、フリージアはまた小さくうなずいた。
「フリージア、ここにいたんだね。そろそろ解散式の時間だよ」
「殿下! わざわざ呼びに来てくださったんですの? うれしいですわっ!」
弾かれたように立ち上がり、フリージアは私と話すときとは全然違うトーンの声でそう言った。
そしてギルバート殿下と並んで、みんなのいる方へ歩いていった。
ぽかんとそんな娘を見送っていると、なんだか笑いがこみあげてきた。
元気そうで何よりだわ。
「レディ・ローレル、われわれも行きましょうか」
「ええ、ラドクリフ」
ラドクリフが差し伸べてくれた手を取って立ち上がり、フリージアたちのあとについて、解散式へ向かう。
広場はいつの間にか眩しい夕日に照らされていた。
フリージアと殿下の横顔も、金色の光に染まっている。
そんな二人を遠目に見て、クローバーをしっかりと握りしめながら、私は心の中で亡き夫に話しかけた。
ねえカート、何があっても私たちの娘を悪役令嬢なんかにはさせないわ。
それに……きっとあの子も、そんな未来は望まないわね。