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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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9/11

ク、もしくは、崇拝と蹂躙に宿る悪辣ことワタクシ

 シーンズにとってのダグ・ルールーは正しくカリスマのそれだったが、彼の信奉はそれなりに冷静なものだった、ダグが混頓(ボール)を駆使して人を操る様を横目で眺めつつシーンズは彼の信仰する聖竜信仰教(ドラゴレイダ)が扱える魔法でのみ混頓(ボール)を楽しんだ、それは軈てシーンズが大学を卒業するなりスナジ村に帰り、村長の役割を父親から引き継ぐ日が来る事を予期していたからだった、そういった現実的な思いがある種のブレーキとなり、シーンズ本来の知性を曇らせること無くダグ・ルールーなる男が一部のアングラな社会運動界隈のみでその影響力を持つだと見抜いてみせたのだった。


「ダグ自身は単なるペテン師だったんだよ、彼は程度の低い発神会(ラッシ・ジャー・メン)でしかなくてね、様々な薬学には通じていたけど魔法の大半は“まやかし”にしか過ぎなかった、周りの連中はみんなダグがもたらす混頓(ボール)に惑わされていただけって話さ」


 りんごのシュラブをまた飲み干してから深いため息を一つついた、それは若き日に一瞬でもその信奉心を寄せた相手が単なる程度の低い異教徒のペテン師であったことの絶望を引きずっているかのような深いため息だった、彼もまた若き頃があったということだろう、その事を責めるものはいない筈だ、しかし、彼自身はそんな自分を許す事が出来ずにいる、それはシーンズという男の知性と品位が為す贖罪のため息だったのかもしれない。


 やがてダグ・ルールーは自身の作り得た幻想に操られてしまう、それはつまりは混頓(ボール)に操られてしまったということである、「もう一つの世界へ行く」とだけ言い残し、“信者”数人と共に同じ混頓(ボール)を吸って姿を眩ましたというのだ、私はダグの言った「もう一つの世界」というものに引っ掛かりを覚えた、私自身がある種の「もう一つの世界」から来た身であるからだ、私はシーンズに注がれたシュラブを飲みながら静かに妙な緊張感を持って尋ねた。


「君は“もう一つの世界”を信じているのか?」


私の突然の質問に対してシーンズは鮮やかに答えて見せた。


「そんなもの、意味があるのかね、あったところで今ここにある現実だけが我々の全てだろ?」


私はシーンズのその返答に安心し、同時に納得した、そうだ、以前にいた世界などに未練は無い、もはや見出だす意味も価値も無い、今この世界こそが現実であり全てなのだ、私は“この世界”の住人であるシーンズから現実というものの認識を得たことに満足した。しかし、同時にダグ・ルールーから直接の混頓(ボール)の薫陶を受けることができないこと、そこに全く価値が無いことに幾分とがっかりさせられたのも事実だった。シーンズが私にダグへの興味を誘導したのは単なる悪戯にしか過ぎなかった事実など小さいものだった。


「まぁ、ジョニサン、君の知りたいことはこんな話ではないだろう?」


 シーンズはそれこそ悪戯しい顔をしながら私に言ってみせた、そうだ、私が知りたいことはこれらのことではない、混頓(ボール)そのものについてだ、“スクリュー・アップ”を吸引した時の高揚感をもう一度味わいたいのだ、できるのならばそれ以上の快感をこの手に納め、“生涯の友として”我が人生に迎え入れたいのだ。


 私は既に混頓(ボール)に魅入られていた、先のクラッカー討伐において超人的感覚を得ることも可能なのだと確信していた、クラッカーの討伐成功のポイントは混頓(ボール)にあったとまで思っていた。


「“スクリュー・アップ”、あれは素晴らしかった、正しく勇者の心地だったよ、混頓(ボール)はものによるならば踊り子にもお姫様にもしてくれるのかい?」


 私は冷静に努めながら言葉を発した、しかし、自身の好奇心を抑えることで必死だった、それは中毒者(ジャンキー)の思考ではなかった、私の純然たる好奇心が混頓(ボール)を求めていた、我、人生において最上の体験が混頓(ボール)にはあると考えていた。


 それでもシーンズは私の好奇心が今にも檻から飛び出して牙を剥く寸前にあることを感じていたのだろうか、「前置きはお仕舞いだ」と言って私の座るソファーの隣にぐっと寄って座ってみせてた、シーンズの瞳の奥に私がいることが分かる距離感を持って若干興奮気味に彼は話始めた。


「僕が扱える“ボール”は5つだけだ、一つは先程君に吸引させた“スクリュー・アップ”、その他の4つは“インスタント・ラヴ”、“ウォーター・パズル”、“獣の嵐”、そして、“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”の5つだ、そして、どれも配合が異なり効果も違うものばかりだ」


 その時の私にしてみれば名前からはその配合や効果を想像することすらできない代物ばかりだった、しかし、好奇心の獣の牙を隠し持つ私にしてみればどれもが輝かしい名を冠した宝石のように思えた、私は額をシーンズの額にくっ付けて言ってみせた。


「全て、5つ全てを私に授けてくれないか」


 そこには普段のスナジ村の村長として知的さと品位は無い、ただただ凶暴な目付きを持った男の顔があった、きっと私もそんなシーンズと同じ目付きをしていたに違いない、


 シーンズは「イエス!」とだけ言った、私が今いる世界における“イエス”とは単なる返事か肯定の意味にしか過ぎなかった、少なからず私の知る神などはいなかった。


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