ハチ、もしくは、追究の狂気を嗅ぎ分けて進む、ワタクシはイヌ
シーンズの屋敷に辿り着いた時の事を思い返すとシーンズの根本的な人柄を感じずにはいられない、汗と嘔吐物にまみれ、クラッカーの返り血やらで汚れた私を笑顔で迎え入れてくれたのだ、彼は何の迷いもなく私を抱きしめ「お疲れ様」とだけ呟いたのだ、私は彼に仄かな友情以前の人間的信頼をその心象の一つに持つことができた。
メイドが熱い風呂を沸かしてくれており、私は素朴ながらに設備の確りと行き届いたフルバスルームで疲れを癒すことが出来た、浴槽の中でシーンズについてぼんやりと考えてしまった、彼は、彼自身はとても孤独な男なのではなかろうか、それは彼が若くして村の村長である父親をクラッカーによって亡くし、理想のリーダー像を求められつつもその裏で細々と聖龍信仰教として生き、混頓だけを生涯の友としていた人生、彼、シーンズが私に混頓を“スクリュー・アップ”を教えた理由も幾分と分かる気がしてきた。
私はシーンズが私に授けた“スクリュー・アップ”の混沌と興奮が忘れじの体験となっていることを認識していた、より混頓について知りたい好奇心があった、シーンズだってそれを望んでいる部分がある筈である、それによりシーンズの孤独が幾分と埋められるのであれば良いことでもあるし、見返りとして私の好奇心が満たされるのだから、その関係性は高い位置で良好かつ対等なものとなる。
また、この異世界にやってきてまともな人間関係や伝手を持たない私が小さくとも村一つを束ねる財力を持つ男とそう言った関係性を持つことは今後のここでの生活を考えても重要とも言えるのだ、ベントナイト石鹸で体を洗い、清潔に甦った私はタオルで体を拭き、用意された衣服に着替えた、上質なシャツに身を包み実に気分が良くなった私はシーンズの待つ屋敷の中央にある開けたリビングへと向かった。
「改めてクラッカーの討伐、お疲れ様、心よりの感謝をスナジ村の代表として贈らせてもらうよ、今日はもう遅いから休むといい、明日の朝、村人たちの前でクラッカーの討伐成功を報告させてもらうとしよう」
シーンズは暖炉の前で私の手を強く握りながらそう言った、私にしてみれば一世一代の大仕事ような一夜ではあったが、それでも私は冷静に努めつつシーンズの手を強く握り返しながら「済んでみればなんてことはなかったよ、君の“スペシャルな呪文”も効いたしね」と言った、シーンズは既に私の考えが読めていたのだろう、先ほどは「今夜はもう遅いから休むといい」などと言ってはいたが、実際のところは一晩中話し込みたいことがあった筈である、その点で私自身もまたシーンズの考えが読めていたのだ、私にせよシーンズにせよクラッカーの討伐成功などの話題などは既に“過去”にしか過ぎなかった、最早私彼も回りくどい言い回し等はしたくなかった。
「シーンズ、単刀直入に言おう、混頓についてもっと教えてくれないか?俺にとっても“生涯唯一の友”ってやつになりそうなんだ」
暖炉の火を見つめつつシーンズは口元だけで静かに笑ってみせた、そして目線を私に向けるとその顔が統一された笑顔であることに気付いた、私はメイドたちも眠りに着いた広く静かな屋敷の中で何かしらの音を求める様に深い呼吸をした。シーンズは再び暖炉に目線を向けて「そうだな…“先程の部屋”で話そうか」と言った、私は彼、シーンズの聖竜信仰教としての顔を見せる秘密の部屋に向かった、部屋を訪れるのは2度目ではあったが、相変わらずの異空間の様子に私はやはり圧倒されていた、シーンズはりんごを使ったシュラブをグラスに注ぎながら「少しゆっくりしようか」とだけ呟いた。
シーンズが首都のイベロの大学に通っていた頃は世界大恐慌の時代だった、そこで彼は地元の社会運動の界隈の人間が出入りするダイナーに入り浸るようになった、そこで出会った数人の人物らから混頓ついて薫陶を受けたという。そのダイナーに集まる若者を束ねるのがダグ・ルールーという年齢的にも幾分と上の男で、当時まだ学生だったシーンズに強い影響を及ぼしたという。ダグは魔法の才能に秀でた男であり、これといった信仰を持たずに様々な魔法を使うことができた、そして薬学にも精通しており、彼は様々な魔法と薬草やアイテムを混頓することで多様な快楽をもってして人間を操ることもできた。無政府主義的とも言えるその在り方に異論を唱えるものも少なからず存在はしたが、ダグのカリスマ前では誰もが閉口せざるおえないのであった、「先ずは、そんな話さ」りんごのシュラブを飲み干してシーンズは言った、




