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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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7/11

シチ、もしくは、ケダモノの血と肉とワタクシと。

 全体的な風貌だけなら狼なのだろう、しかし、その黒く重厚優美な動きとそれに伴った外見とするならばリンカーンのコンチネンタルのような赴きを有していると言える、それでもしかし、目付きばかりは今宵の月光を受けて鋭く光っており、自然動物の中において互いとしてその目を合わせたいとは思えぬ畏怖を感じるものだ、また閉じた口ですら両サイドから二本の牙を隠せずにおり、四つ足で歩行する度に鋭くも太い爪が地面を捕らえていた、これがクラッカーである、私にこの巨烈とも言える獣を殺す事ができるのか、不安と興奮入り交じる感情が次第に汗となり額から鼻を伝い零れ落ちる。


 また、クラッカーは獣である、しかしして無知ではない、その風体にそぐわぬ程の臆病な動きを時折見せては今この夜闇を行く者で自身を脅かすものはいないのだと確信しているのだ、そこに比べて不安と怯えに苛まれながらも興奮する私の方がまだ獣染みた存在ではなかろうかと思う。


 私はクラッカーがりんご酒が染み込んだタオルを鼻で突っついているのを見てチャンスが間近に迫っている確信と同等の距離で緊張が迫っていることを感じていた、異常なまでの興奮と緊張、全身の血液の流れが早まるのを感じる、ブローニングハイパワーをぐっと握るその手ですら汗ばんでいるのが分かる、しかし、何という事だろう、この瞬間こそが快感であるような錯覚を私は享受している、この悪しき背徳の快感こそが例の“スクリュー・アップ”のもたらしたものなのだとしたら私はとてつもない底無し沼へと足を踏み入れたという気持ちがある、既に私は冷静ではないのだ、あぁ、こうして内なる自身を感じている間にもクラッカーはりんご酒の染み付いたタオルをその鼻で弄び初めている、しかし、チャンスは、チャンスはまだか、だが、必ずや、必ずやそれはやって来る筈だ、アルコールは自然界に置いては未知の物質である、獣らがその生涯で嗅ぐことの無いであろう物質である、それを十分と染み込ませたタオルをその嗅覚で嗅いだのなら“一溜りも無い”筈である、私の狙いが正しければクラッカーにとってのりんご酒の香りは芳醇なる劇薬だ、さぁ、クラッカーよ、存分にりんご酒の染み付いたタオルを嗅げばいい、興奮と緊張の快感が支配的に私の本来の人格を蝕んで行くのが分かる、私が私ではなくなって行くのが分かる、これこそが“スクリュー・アップ”の本来の効能なのか、無謀なまでの、根拠も慢心すらも伴わぬ勇気と呼ぶにはあまりにも過激な造形の感情が私を変えて行く、クラッカーがりんご酒の染み付いたタオルから垂れているりんご酒を舐めている、さすれば効果覿面だろう、私は私を引き留める能力が萎んで行くのを感じている、息は荒く、汗にまみれ、私は、私は…その時だったクラッカーがよろけたのだ。


「今だ!!」


 私はブローニングハイパワーを構えながら突然と立ち上がり笹藪から飛び出すとクラッカーの脳天目掛けて引き金を引いた!狙いが、弾丸の軌道が見えるように予測できる、凄まじいまでのアドレナリンと“スクリュー・アップ”の合致が私の脳内で奇跡を起こしているのだ、一撃が眉間に命中、二発目は右の眼球を貫いた、三発目がやや左側ながら頭部を捉えて貫いた!三発の銀弾はクラッカーの頭部周囲を的確に捉えて見せたのだ、それでも油断はしない、私は直ぐ様ブロードソードを抜くとそれをクラッカーの脳天に振りかざした。


「くたばれ、獣!!」


 瞬時瞬間の最中の斬殺劇である、かち割れた頭から大量の返り血を私に浴びせその場にクラッカーはその黒く優美な巨体を倒して見せた、しかし、全身に吹き付けられた血液は生臭く、私はその場で嘔吐をぶちまけた、それでも私の全身に滾るものは払拭されず、依然として異常な高揚感に支配されたままであった、それでも数分と肩で息をして私は冷静さを取り戻そうとしていた、血と汗と嘔吐とりんご酒の香りにまみれた長い夜の終幕を感じつつ私はシーンズの元へと帰ろうと思った、クラッカーの死体の処理は村の人間に任せれば良いだろう。


 相変わらず月ばかりが大きくあってこの夜を照らしている、身体の芯の部分から疲労感が蔦が伸び絡まる様に私を捕らえようとしている、それを感じて私はやっとのことで冷静さを取り戻し始めていた、それにしてもこうして見ればなんて静かな夜なのだろう、ひたすら異常な感覚で過ごしていた私にはその夜の静寂が何よりの勝利の喝采のように思えた、巨大で明るいばかりの月の方向に歩けば村へと辿り着くだろう、残りのりんご酒を飲み干すと朧気な意識を静寂に流すようにして私は歩き始めた、そして、不意にすっかりとこの世界の習わしや在り方に染まった自分の滑稽さを考えると何故だか虚しくもなった、それでも私が歩いていれたのはギルドから支給されるであろう幾ばくかの金に期待していたからだったのかもしれない。


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