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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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5/11

 「“混頓(ボール)”を知っているかい?都市部のアングラ界隈のスラングだよ、"混ぜる"っていう意味の"遊び"さ」


シーンズはそう言うと棚から何やら粉末の入った小瓶を3つほど取り出した、私は“混頓(ボール)”なるものを知りもしかなったし、シーンズが棚から取り出した3つの小瓶の違いすらも分からなかった、ただ部屋の雰囲気もあってか今からシーンズが私に見せて、尚且つ"かける呪文"には何かしらの、やはりシーンズが言うところの"スペシャル"なものがあると私は直感的に感じていた。


聖竜信仰教(ドラゴレイダ)は厳格な宗教として知られている、その洗礼から庇護を受ける属性は治癒魔法を中心としたものから火、水、雷、の三大属性までの呪文が揃うがどれも原初的な魔法にとどまっており、信仰する魔道士らの社会的地位や影響力は決して強いものではない、シーンズは表向きはスナジ村の村長のでありながら、裏では聖竜信仰教(ドラゴレイダ)を信仰する魔道士であった。


 シーンズは呪文の詠唱を始めた、机の上に並べられた粉末の入った3つの小瓶に手を翳すと治癒魔法特有の清んだ緑色の輝きが部屋を静かに覆った、原初の治癒魔法は傷を癒す魔法としては初心者が取得する魔法の一つで多くの宗派でも体得できる魔法だ、それを粉末の入った小瓶にかけるとはどういうことなのか、私には理解できなかった。


 私自身この世界へ転生して一ヶ月以上が過ぎていた、その大半を路上生活で過ごし、この世界の事を少しでも知る努力もした、その中で私が目にした奇跡、幻想の類いに魔法があった、ある日のことサヴァロのカイエン通りのゴミ箱の残飯を漁っていると不幸にも数人の若いチンピラに絡まれ暴行を受けた、空腹と疲労と突然の出来事に私は手出しができずに終始殴られ、蹴られた。感覚で分かったのはあばら骨の骨折の類いで、その痛みに耐えきれずに私は無様にその場に倒れ込んだ、奪うほどの財産を持ってはいないと分かるとチンピラどもは呆気なく去って行った、通行人の誰もが路上生活者である私を避けて歩いて行く中で一人の男が足を止めた、今にして思えば男は魔道士だったのだと思う、と言うのも科学技術や文明のレベルが1940年代の先進国程に発達してあるこの世界において、戦士や魔道士や格闘家が一目で分かる服装をしているわけではないからだ、男は私に治癒魔法を唱えて介護をしてくれた、これが私が初めてこの目で見た魔法だった。それは私にとっての奇跡の光景でもあった、精悍な顔付きをした60代ぐらいの白髪混じりの長髪の男だった、上物のダークスーツを身に纏い、10寸ばかりの杖のような棒切れを持っていた。私が礼を陳べようとしたその間に男は立ち去って行った、その後も路上で生きていく上で魔法を何度か目撃した、ある者は先の男のように人助けのために、ある者は犯罪のために使っていた、また、街に灯りが点るのも、蛇口から冷たい水が出るのも元を正せば魔道士らの何らかの魔法によるものだった、魔法の持つエネルギーがこの世界の隅々を確りと支えていることを私は路上から見て理解した、チャンスがあれば会得したいとまで考えていた、また、宗教と魔法と社会の繋がりについてはサヴァロの街の図書館で学んだ、街の図書館は日中は空調が効いており、衛生的な水道設備も備わっていた、サヴァロの路上生活者の中でも図書館を縄張りとできる者は一部だった、私はサヴァロの路上生活者の中でもカイエン通りの縄張りを治める男と偶然にも親しくすることができた。これも偶然にパン屋の裏で拾った大量のパン屑や食パンの耳を分け与えたことから始まった縁だった、その男の手引きで私は日中の図書館の縄張りを手に入れることができた。私はこれを幸いとし図書館の本を読み漁った、この図書館で過ごした時間のお陰で大分私はこの世界を知ることができたのだった。


 話をシーンズとの時間に戻そう、魔法それ自体を体験までしたことのある私だが、治癒魔法を粉末の入った小瓶に唱えたシーンズの行動はやはり理解できなかった、怪訝な表現の私に対してシーンズは悪戯な笑みを浮かべて言った。


「まぁ、そんな顔をするなよ、この小瓶の中身はよくある薬さ、呪文封じを回復する"唱再草(しょうさいそう)"、混乱を回復する"我覚草(がかくくさ)"、それとこいつはキングビーっていうハツカネズミよりデカイ蜂の姿をした魔物モンスターが集めてくる特別な花粉で"シェルパウダー"っていうものさ、痺れに効く薬だよ」


 小瓶の中身を説明されて私はますます理解が遠退いた、一体シーンズが何をするのかがいよいよもって謎だった。


「なぁ、いい加減に教えてはくれないか、混頓(ボール)とはなんなんだ?」


 私は痺れを切らすほどではないにせよ、部屋の異質なドラゴンの飾りやシーンズの謎の行動に幾分の不安感があった。


「怯えることはないよ、もう少しで"完成"するから」


そう言うとシーンズは魔法を止め、其々の小瓶の中身を机の上に置いてあった白い小皿上に少量づつ乗せた、そして、それらを人差し指でさらさらと混ぜ合わせた。


「出来たよ、これは混頓(ボール)の初歩的なもので"スクリュー・アップ"っていうんだ」


そう言ってシーンズは"スクリュー・アップ"の乗せられた小皿を私に差し出した。


「鼻から吸うんだ、まるで勇者の心地になれる」


 私はシーンズにすすめられるままに"スクリュー・アップ"を吸引した、私が恐怖や不安と感じていたものは好奇心へと刷り変わっていた。図書館の本の知識では知り得ない生きた知識が眼前にある、所謂"知への探究心"が私に"スクリュー・アップ"を吸引させのだ。


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