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シーンズと村議会のメンバー数人が集まり幾分早めの食事会は開かれた、特産品のりんごを使った料理があり、他にも素朴ながらに肉や魚や野菜を扱った料理がたくさん振る舞われた、私にしてみれば異世界転生後のこの世界でありついた初めてのまともな食事だったし、なんと言っても人生最後の晩餐になるかもしれない食事でもあった、私はそれを健啖家の如く腹に沈めるようによく味わい食べ尽くしてみせた。
スナジ村の人々はやっとクラッカー討伐に現れたギルドの使者である私を本心から有難いと思っているのが分かった、シーンズだけではなく村議会の連中の話を聞いていてそれがよく分かった、期待をされる重みと命の危機に複雑な思いがしたが、私はそれでも終始、気丈に振る舞い食事会を旺盛な場所にすることにしていた、その中で時折シーンズと目が合うと彼は静かにかつ私を憐れむようにして目を背けた、それでも食事会は一時間程度で終わり、その時間も過ぎれば開けたリビングにはシーンズと私だけになった、シーンズは煙草を燻らせながらこの村の四方に広がる花鳥風月それぞれの素晴らしさを素朴に語ってくれた、村の東に流れる川の美しさ、こと秋の紅葉の頃の美しさについて語った後に数秒沈黙が浮いた、煙草の吸殻を暖炉へ捨てるとシーンズは立ち上がり「さて、約束通り、ジョニサン、君に"スペシャルな呪文"を授けるよ」と爽やかな笑顔で言ってみせた。
シーンズの部屋はその趣味の異様な信仰形態そのものを表現していた、サヴァロの街にせよ今いるスナジ村にせよ1940年代当初の先進国並の文化を保っているというのに、シーンズの部屋にはそれらの文化レベルとは不釣り合いな竜をモチーフとした剣や盾や甲冑等が大量に飾られていた、「家は代々厳格な聖竜信仰教でね、それに伴い魔道士の家系でもあるんだ」シーンズは部屋の中央にあるこれもまた竜をモチーフにした玉座のような装飾がされたソファーに座りながら言った。
聖竜信仰教はこの世界で信仰を強く集めている4つの宗教のうちの一つ光教の源流となっている宗教でその厳格さ故に信者の人口はかつてより減っているとされる古の宗教であり、未だに田舎等に行くと細々とその信仰を目にすることができるものである、また、其々の宗教における洗礼の儀式により使用できる魔法の属性等を決めることができ、宗教は魔法そのものが万物のエネルギーとして発展したこの世界において社会的な影響力にも通ずるものがあるのだ、そして、この世界での魔王とは宗教や信仰の垣根を無視した独自の理を持ち、全ての魔法を統べる者として存在する無神論の悪しき権現であり、それはこの世界における無政府主義者と呼ばれる存在でもあった。
「この村の大半が発神会か光教でね、僕の家のような厳格な聖竜信仰教はどうしても奇異な目で見られてしまうんだ、だからこうして秘密裏に信仰を捧げ続けているというわけさ」
どこか儚げなまでに悲しい表情をさせながらシーンズは言った、シーンズ自身の人生はこの信仰の他にもクラッカーによって亡き者とされた父親から引き継いだ村長の役割もある、そう考えるとシーンズの見た目よりも年の重ねたような風貌にも納得がいく、私は自身がこれといって信奉するものを持たないものであることをシーンズに明かした、この世界における宗教についてはてんで無知であることもだ、彼はそんな私に驚きつつもサヴァロの街から来た先進的な無神論者であって魔王の賊徒などではないと信じてくれた。また、この今の時代は魔法の力を旧来的なものとしつつ、テクノロジーこそが新時代を築く光であると信じる人間が徐々にではあるが増え始めた頃でもあった、宗教と魔法に支配された社会に対する不満が人々を現術テクノロジーの信奉へと向かわせた部分もあった、私はそう言った意味からもシーンズから見るに現術主義者という風に見えたのかもしれない、そして、シーンズは振り払うように話を続けた、あくまでこの部屋の、空間の主導権は彼にあった。
「まぁ、兎も角これから見せる、君にかける"スペシャルな呪文"には宗教も主義も関係無い、僕が首都のイベロの大学に通っていた時に覚えたものでね、なに、人よれば若気の至りかお遊び、けれどもまた別の人によれば生涯の友とも呼べるようなものになる"呪文"さ」
私は彼の抽象的な説明から何かを掴もうとして問いかけてみた。
「で、シーンズ、君にとってのその"呪文"はどうなんだい?」
シーンズは竜の装飾がされた玉座のようなソファーから立ち上がり、背後にある机に腰掛けて言った
「どちらだと思う?」
彼のちょっとした悪戯に私は少し笑いながら言った。
「質問を質問で返されると困るね」
シーンズも少し笑いながら、そして、答えた。
「生涯唯一の友人さ……」




