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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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3/11

サン

 ギルドに依頼を出したのはスナジ村の村長だったらしい、しかし、幾分遠方である事と仕事自体のリスクに対しての報酬があまりに安いとふんだ人間は多く、サヴァロのギルドに一ヶ月ほど投げられていた案件だった、そこに食い扶持に困窮した私が現れたのだ、どのみちクラッカーに食い殺されたとて名無しのホーボーだ、私の命は容易く見積もられ、容易く宛がわれたのだ。


 スナジ村はサヴァロと比べれば閑散として文明的にも遅れの雰囲気がする過疎化した村だった、村の東には小さくとも綺麗な川の流れがあり、北側に山を、南に平原持っていた、私は夜行列車で西側からこの村へとやって来た。朝の8時過ぎとあってまだ肌寒く、それでも朝もやも晴れたばかりで空気の香りに周辺の草木や土の匂いが混じり心地よかった、ギルドで渡された数枚の書類の中にあった地図を頼りにスナジ村の村長の家の前に辿り着いた、村長の家は村でも一番古く、尚且つ立派なものだった。サヴァロのエインター地区と呼ばれる住宅街の小銭持ちが暮らす屋敷程度には立派だった。


「サヴァロのギルドから来ました、ジョニサン・ノイズです」


 私は"この世界"に来てから幾つかの偽名を名乗っていた、ハドソン・クーパー、ライジ・ベンソン、ダフ・ドーソン等を名乗った、しかし今の私には名前など何ら価値を持たぬものだった、その時、その気分で私は名前を変えていたが、ギルドにて登録証を書く際にこのジョニサン・ノイズというシンプルな偽名を思い付いた。ジョニサン・ノイズ、これが"これからの"私の名前だ。


「いやぁ、ようこそ、こんな辺鄙な場所へと来て頂きありがとうございます、村人一同あなたには感謝していますよ」


 村長は思った以上に若い男だった、まだ30代半ばぐらいではなかろうか、スラリとした体型でそれでも顎ひげをたくわえており、固い表情からは年齢より老けて見えた、名前をシーンズといった、また彼と私は年齢が近い事もあり打ち解けやすい印象を互いに受けていた、そして、話を聞くにシーンズの父親である先代の村長もクラッカーの被害に合って亡くなったそうだ、話しによればクラッカーは夕暮れ時から村の周辺を彷徨くらしい、また、視力は低くその分嗅覚が異常なまでに鋭い魔物(モンスター)で、見た目はやはり巨大なオオカミの様で鋭い牙は雄の牛を一撃で仕留めるほどのものだという。数年前に流れ者のように現れてからスナジ村の周辺に住み着いて、村人や家畜を時折襲っては被害をもたらしていた、また村の名産品であるりんご農家にも甚大な被害を及ぼしたりもした、それから考えあぐねながらも村議会での話し合いの末にギルドへの依頼を要請し、私がクラッカー討伐に派遣されたというわけである。


 スナジ村とクラッカーとの事情をシーンズから幾分聞き理解した後に私はシーンズの屋敷の一室を借りて夕暮れ時までを過ごした、幾分寝不足だった私は夜行列車で話をした男から餞別として渡されたりんご酒を少し飲むとそれだけで深い眠りに落ちて行った。元々が慣れない夜行列車での移動であって身体は既に疲労していた、眠りは深く夢すら覚えずに私は次の目覚めを向かえた、既に時間は16時を過ぎていた、部屋の窓から夕日が射し込むのを感じた、窓に近づき外を眺めると村の中心地ある広場を見ることができた、そこにはまだ女や子供や老人たちがいたし男は勤め先から戻ってきた様子だった、まだクラッカーの脅威が本当にあるのかという疑問が思い浮かぶほど平和な光景でもあった、部屋のテーブルに置いてあったりんごは村の名産品のものだろう、私は喉の渇きと空腹からかぶり付いた、りんごの蜜は口と喉を甘く濡らし少しの空腹を埋めた、ベッドに腰を掛けてクリーム色の壁を眺めながらぼんやりと考えた、私が"この世界"へとやってきた意味であったり、眼前の問題としてあるクラッカー討伐のことであったり、今後の人生そのものについてだ、幸い転生前の世界についての未練は一つとしてなかった、私は心身共に孤独な人間だったし、それが不幸とも幸福とも考えてはいなかった、ただ日々をぼんやりとぼんやりと過ごしていただけだった、それが"この世界"へとやってきた途端に変わってしまった、かつてのようなぼんやりとした生活を取り戻すがために活動的にならざるおえかなったのだ、それは私の人生観においては若干の悲観ではあったがそれらを霧散させる強靭な現実として今はクラッカー討伐があった、いくらギルドから支給されたジャケットの効果があったとて、剣や銃をろくに触ったこともない私に魔物(モンスター)なんぞを倒すことができるのか、しかし、もはやこうして命を削るより食い扶持が思い当たらない私にはどうする術もないのだから困りようもないほど追い詰められている事実まであった。


 私は部屋を出て右側に真っ直ぐ伸びる廊下を歩いた、そうして屋敷の中央にある開けたリビングに入るとシーンズと二人のメイドが軽い談笑をしていた、三人が私に気付いてシーンズが「少し早めの食事にしましょうか」と言った。すると二人のメイドは会釈をしながら「畏まりました」と言った、私は「なんだか気を遣わせてすまない」とだけ言った、もしかするとこれからの食事が私の人生最後の晩餐となるのかもしれないとまで考えたがそれでも私は平然を努めた、私自身の精神の水面に波を起こすのは私自身の行いによるものだろうと元々から考えていたからである、だからこそ私は冷静を努めた。


 シーンズと二人だけのリビングで私たちは少し砕けて話をした、私は私が緊張に囚われないような振る舞いの一つとしてのものだったが、シーンズは私の胸の奥にある緊張を見抜いていた、シーンズ自身は若くして村長を勤める男であり、だから確りと人間を見据える目があったのだ。


「ジョニサン、緊張しているね?僕には分かるよ」


暖炉側のソファーに座りながらシーンズは言った、クラッカーに関することに対して彼は私を冷やかすような雰囲気ではなく本心から気の毒ないし心配の様子で私に言ったのが分かった。


「村長様に嘘は付けないな」


それでも私は嘯き気味に言った、それはシーンズが全てを見通していることを知っての発言だった、シーンズは少し微笑みながら首を横に振ってみせた、やはり全てを見通しているのだ。


「リラックスするための良い、"スペシャルな呪文"がある、食事の後に僕の部屋へと来てくれないか」


 この時のシーンズの誘いを断れば、そもそもギルド稼業なんぞに手を出さなければ、私の人生はまた違ったものになっていたのかもしれない、だからと言ってこの時の自分の決断を後悔はしていない、シーンズの提案に私はシンプルに答えた


「ありがとう、楽しみにしているよ」


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