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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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ニヂュウハチ、もしくは、破滅への手引きをする死神ことワタクシ

 “獣の嵐”は私がシーンズから授かった5つの混頓(ボール)のレシピのうちの一つだが、初めて吸引したのはキーンと共に行動していた時だった、そのレシピはいたってシンプルなものだ、“倍根角(ばいこんかく)”という攻撃力をアップさせるアイテムと攻撃力をアップする魔法をひたすら交互に3回掛け合わせ、最後に防御力を上げる魔法を包み込むように掛けると魔法科学反応で透き通った結晶だけが残る、これがギルドの依頼の仕事の中でもハードな戦闘が絡む場合はよく吸引していた混頓(ボール)の、その名も“獣の嵐”だ、とにかく全身に力が沸き起こり、一晩中戦っても平気な身体になる、少しの怪我なら痛みを伴わない興奮状態となり、その戦闘能力は爆発的にアップする代物だ、しかし、その反動は凄まじく、吸引後の翌日は丸一ベッドから起き上がることすら困難になる程の疲労感に打ちのめされる、“ゾーン・トリッパー”はひたすら身体的な興奮度を上げるだけのものでパーティーにも常用されたりするが、“獣の嵐”は局地的な戦場で兵士が吸引するような完全戦闘型の混頓(ボール)である。


 私はマークライトという男と出会う為にスティーブンスに手引きを頼んだ、スティーブンスは今いる木造のアパートメントの一室を“集いの場”とするように勧めてくれた、マークライトの住む場所は電話はおろかその他のインフラも整備されていないような粗野な小屋で、日頃は専ら混頓(ボール)と喧嘩に明け暮れているような生活をしていた、真っ当な稼ぎもなく、粗方場末のバーの用心棒などをして日銭を時折だが稼いでいた、スティーブンスはマークライトを住みかの小屋まで呼びに行き、30分もしないうちに連れて来ることができた、その素振りや目のギラつき、マークライトは火を見るより明らかに末期の混頓中毒者(ボール・ジャンキー)だった、私はこの男を救おうとは思わなかった、寧ろマークライトがどうなろうが知ったことではなかった、それほどまでにマークライトには死人に近いものしか感じられなかった、私はこの男を利用し、ここ、スラムでの私の在り方をスティーブンスに示したかっただけだった、その為にこのマークライトという男に“獣の嵐”を施し、「ソリッド・フィスト」で優勝させる必要があった、しかし、実際にマークライトという男を見て優勝は不可能のような気もしていた、それ程までにマークライトは深刻な混頓中毒者(ボール・ジャンキー)であった。


「俺を、早く、チャンピオンにしてくれ、頼む…」

 

と力無さげに呟くマークライトのその姿を見ると最早バーでの用心棒すら勤まらないだろうというのを感じた、私の雷撃の魔法でも殺せるのではないかと思える程に追い詰められ、弱りきっていた、しかし、それでも私はこの痴人に対して冷静かつ明確に接してやった。


「私の名前はジョニサン・ノイズ、君の新しい伝承者(メスマー)だ、安心するといい、必ずチャンピオンにしてやる」


するとマークライトは震えがら私にしがみつき、膝から崩れ落ちた。


「頼む、頼む、俺を、チャンピオンに…」


 その日は禁断症状を押さえる程度に“スクリュー・アップ”を施して家へ帰るように言った、「ソリッド・フィスト」大会まで2日程の日にちが空いた、それまでに禁断症状が出るようならまた“スクリュー・アップ”を施してやるとも言った、禁断症状の治まったマークライトは見違えるような男だったが、混頓中毒者(ボール・ジャンキー)などとはそんなものであると私自身が知っていたことなので差ほど驚きはなかった、私は“スクリュー・アップ”が効いて勇ましい男となったマークライトに契約をさせた、それは「ソリッド・フィスト」の優勝賞金をスティーブンスへの支払に当てること、また、優勝までに私が施した混頓(ボール)の料金もその優勝賞金から支払うことというものだった、“スクリュー・アップ”特有の万能感に支配されているマークライトに契約書を書かせるのは容易かった、背筋まで伸びたマークライトは一人で歩いて家まで帰ることが出来た、最後にアパートメントのドアを閉める時に私を指差して「信じている!」とまで良い放った、しかし、私にとってマークライトのような混頓中毒者(ボール・ジャンキー)の信頼など無意味に等しかったし、そんなことも分からずに混頓(ボール)の世界にどっぷりと浸かったマークライトの浅はかさを心底下げずんだりもした。


「いいのかい、“あんな約束”をして、更に契約書まで書かせてたな」

 

と言ったのはスティーブンス、それに対して私は


「“入社試験”みたいなものさ、必要だろ?君との関係を築く上で」


と答えた、実際にその役割りもあったと思った、スティーブンスは煙草にマッチで火をつけてそれを吹かしながら「なるほどね」とシンプルに納得したような素振りを見せた、しかし、スティーブンスは全てを見通していた、“そういう魅力”がスティーブンスという男にはあった。

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