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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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ニヂュウシチ、もしくは、その男、ワイルドにつき

 スティーブンス・カーターの住みかはかのスラム街を内包するセルミーヤ地区に隣接したラニャール地区のそれも北部に位置する際どい場所にあった、それは伝承者(メスマー)としての仕事がしやすい場所というわけであるが、やはり治安もあまり良くない場所でセルミーヤ地区への入り口付近の北部ともなれば殆ど危険地帯と変わらぬ場所だ、私自身、護身術としての魔法をいくつかは体得していたが、それでも傲ることなく身構えてセルミーヤ地区の北部へと足を踏み入れた、キーンに紹介された住所を頼りに歩いて行くと、街の様子はその本性を現し始めた、通りには潰れた車がそのまま放置されており、行き交う人々の目は老若男女問わず荒んだものだった、野良犬も増え始めた、道路にはゴミが散乱し、インフラが整っていないであろう悪臭が充満していた、古びた木造の建物が増えはじめてきた、宗教的な混濁具合ならサヴァロのハロナイト地区よりも混沌とした佇まいを見せていた、それほどまでにここら辺一帯は大陸内外より様々な信仰を持った労働者が流れ込んできているのだ、また、人々には生活を楽しんでいるような余裕は感じなく、ただ、ただ、冷たい現実としての人生を重たい石のように積み重ねて行くだけだった、そんな場所にあって私の混頓中毒者(ボール・ジャンキー)としての人生は遂に来る所まで来たし、伝承者(メスマー)としての始まりも感じさせるものがあった。


 スティーブンス・カーターの住む家は木造の二階建てのアパートメントの一室にあった、ドアをノックすると「OK、入ってくれ」と実に警戒心の無い返事が返って来た、私がドアを開けると細く短い廊下があり、その廊下の突き当たりの部屋から声がしたので私はそこへ向かった、左手にキッチンがありその前に置かれた食堂テーブルに仰向けになって上半身を裸で寝そべっている男いた、黒い髪を肩まで伸ばして無精髭もある、左手の甲にはスカルの力強いオールドスクール・タトゥーが彫られている、この男こそがスティーブン・“ワイルド”・スカーターだった、男はたった一言「すまない、疲れている、」とだけ言った、そのため私は「キーンからの紹介で来た、ジョニサン・ノイズだ」と短めに自己紹介をした、するとスティーブンスは突如起き上がり「君がか、待っていたよ」と言った、そうして立ち上がり私の前に立つとその身長の高さが5フィート10インチ以上はあろうことが分かる、私ですら身長は5フィート8インチ程度しかないので目測ではあるが、それでも実に細く締まった筋骨隆々とした身体をしているのが分かる、また、スティーブンスは自らを“ワイルド”とは名乗らなかった、それはあくまでも彼の通り名にしか過ぎない、確かに私の目の前にいる男の名前は“ワイルド”を冠するに十分な迫力を持っていると言えた、しかし、その目は大きく、純粋な少年のようにきらきらと輝いてもいた、それは彼の魅力を放出させるのに一役かっていた、そう、彼は正しく魅力的な男だった、到底スラムの住人とは思えない活気と輝きをたった一人で担っているとまで言えた、それ程の男だった。


 スティーブンスが私と出会う10分前までは癖の悪い混頓中毒者(ボール・ジャンキー)の始末に追われていたらしい、その男の名前はマークライトと言ってスティーブンスに負けない筋骨隆々の大男で、ここいらのスラム一帯のアンダーグラウンドで独自に流行っているストリート・ファイトの「ソリッド・フィスト」のファイターだ、「ソリッド・フィスト」はルール無用のストリート・ボクシングで混頓(ボール)によるドーピング等は日常茶飯事である、そのため伝承者(メスマー)であるスティーブンスのような存在を頼って来る者は多く存在している、また、スティーブンスは「ソリッド・フィスト」の主催者サイトの人間の一人であった、マークライトは前回の「ソリッド・フィスト」にて優秀な成績を修めたが、あと一歩のところで優勝を逃している、そのために混頓(ボール)によるドーピングにのめり込み中毒者(ジャンキー)となった、また、その生活はやはり他のスラムの住人同様に底辺のもので資金繰りが上手く行かず、借金が嵩み、それでも中毒者(ジャンキー)としての性から抜け出せず問題を起こしたという、スティーブンスはこの件に頭を悩ませていた、マークライトに施した混頓(ボール)発神会(ラッシ・ジャー・メン)であるスティーブンスの手によるもので身体的な興奮度を上げる事に特化した“ゾーン・トリッパー”と呼ばれるものだが、マークライトは混頓(ボール)に依存し過ぎて最早ファイターとしては下降線にあった、しかし、マークライトはそれを理解出来ずに吸引に吸引を重ねてドツボに嵌まって抜け出せなくなっていた、しかも、下手に混頓(ボール)の提供を拒むと暴れだすというのだから手が付けられない。


「出会って早々に面倒を掛けるが、何か良い手はないかね、俺も手を焼いているんだ」そう言ってスティーブンスは右の頬を押さえた、良く見るとスティーブンスの右の頬は幾分と腫れていた、私は少し考えて最良の答えを出そうとした、最良の答えならばそんなマークライトなる男は雷撃の魔法か何かで懲らしめればいいのだが、私はこれからの自身のここでの在り方を考えて、別の案を最良とした。


聖竜信仰教(ドラゴレイダ)の私だったら彼、マークライトに“獣の嵐”を施せる」


「それは試す価値があるのかい?」とスティーブンス。


私は「ある」と即答してみせた。


「“それ”に賭けてみようか」とスティーブンスは言った、それは私にとっても賭けだった。



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