ニヂュウロク、もしくは、地下世界の車窓から眺める街、そして、新たなる出会いの予感とか
私は最新のディーゼル機関車に乗って大陸を2日と半日かけて横断した、乗客に話し掛けられることもしばしばあったが、私は自らを「まぁ、旅人のようなものです」とだけ名乗った、通り過ぎる町の景色はどれもが均一ではなかった、駅の売店でビールや地酒やプレッツェルやギラデリ・チョコレートを買ったりもした。
壮絶な光景も見た、勇者一行と魔王率いる部隊の戦の跡地となった町を通り過ぎたのだ、それはまるで爆撃機でも通り過ぎたかのような地獄絵図ではあったが、それでも勇者一行は魔王率いる部隊の殲滅に尽くしたと言われ感謝されていた。
眠らない工業都市を通り過ぎた、そこでは肉体労働者に混ざり工場のエネルギー源を支える魔道士たちが疲れた、しかし、逞しい顔付きで列を作って歩いていた、この世界では魔道士や戦士や僧侶が一目で分かるような服装をしている訳ではなかったが、肉体労働者に混ざる魔道士らは明らかに雰囲気が違って見えた、それは私自身の魔法の熟練度による賜物なのかもしれないと思えた。
それからも病める町、貧する村の数だけ、健やかなる町と豊かな村を見た、駅にいた靴磨きの少年が客の紳士に株や投資の話を熱心にしている光景も見掛けた、ディーゼル機関車の窓は一つの映画を映すようにして様々な光景を乗客の私に見せてくれた。
やがてそうこうしている内に私を乗せたディーゼル機関車は首都のイベロへと辿り着いた、人口は約百五十万人、七つの行政区に別れた大陸の西側に位置するこの大都市はサヴァロの街とはまた違った様子を呈し、この世界の混沌を煮詰めたような街だった、まず2月に魔王率いる翼竜部隊の襲撃を誤認して、国の対空魔砲による大規模な迎撃があったが、実際に翼竜部隊は確認されておらず、この混乱によって民間人数名が亡くなった、6月には天法典録団の過激派による南部に位置するカウメイン地方出身の発神会の信者ばかりを襲い、暴行を加えるという事件が続いた、また、街の北部に位置するセルミーヤ地区は勇者と魔王との“対戦”景気により、より大きな街へと働き口を求めた結果として大陸内外からの移住者が増えて巨大なスラムと化していた、また、この世界では人種というよりは出身地に伴った宗教による差別や貧富の差があり、そう言った点でのヒエラルキーならば天法典録団の過激派はその頂点にあった、天法典録団はこの世界の宗教の中でも選民意識に基づいたような宗教集団で、ハイクラスの魔法習得を目的とするエリート思想が根源にある、かの勇者一行に同行する大魔道士であるバンシー・バンシーも幼少の頃からこの天法典録団で教育を受けて育ったという、聖竜信仰教でマスターできるような魔法は勿論、この世界の四大宗教で修められる魔法の大半がマスター可能な宗教であり、規模だけならば四大宗教には劣るが、マスター可能な魔法等の観点から世界最高峰の宗教と言える、天法典録団の過激派とはその中の一部に位置する人々で自らを「天法典録団・核点」と名乗っているような宗派の連中であり、その他の一般的な天法典録団とは分別されている。
私がキーンの紹介で今から会おうとしている男、スティーブンス・“ワイルド”・カーターは両親が生粋の天法典録団で、幼少の頃に天法典録団の施設で育てられたがそこの職員の男にレイプされてから施設を脱走し、発神会に改修した過去を持つ天法典録団崩れの男だった、ちなみに彼をレイプした施設の職員は大雨の夜に“何者かの手によって”ナイフで滅多刺しにされた後に火属性の魔法で焼き殺されていたというがスティーブンスは当時12歳で尚且つ施設を抜け出した後だったので容疑者にならなったという、また、キーン曰く、スティーブンスという男は「魔法、薬学についても天才中の天才、“本物”」であり、イベロ一帯のアンダーグラウンドにおける混頓を一新させたような“発明”をいくつかしているらしい、それは、ここ数年の発神会の連中が吸引する混頓のトレンドのいくつかは彼、スティーブンスの手によって仕掛けられたという事実が物語っているだとか、キーンとの関係は私より以前の相棒でニルサン地区のギルドでもその実力は有名だったらしいが、ある日を境に忽然と姿を消して半年後にキーンの元に所在を記した手紙が送られてきたのだそうだ、既に混取締からもチェックされており、際どい男ではあるが、その手法は常に鮮やかで学ぶものは多い筈だとキーンはスティーブンスを私に紹介したのだった。




