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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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25/29

ニヂュウゴ、もしくは、別れの夜から別れの朝に突き抜けるダケ…

 キーンとの最後の一週間はあっという間に過ぎてしまった、互い長い別れになるだろうと、よく酒を飲んだし混頓(ボール)もしこたま嗅いだ、朝が来ても星空を眺めているような生活をした、そして、土曜の夜は互いの“お別れパーティー”だった、私は首都のイベロへ、キーンはグランツェード地方の魔力発電所へ、アパートメントのリビングのソファーに寝そべりながら互いに最後の酒を酌み交わし、一年間にあった事を話し合った、ギルドで引き受けたとんでもない仕事の依頼の思い出話等もした、ラジオで聴いた思い出の曲や映画の話もした。


「あの映画は良かったなぁ、何だっけ見習い天使が出てきてさぁ」とキーンはその夜少しばかり奮発したウイスキーを飲みながら言った、「「素晴らしき哉、人生」だろ、良かったな、私はヘンリー・フォンダの映画も良かったな」と言うとキーンは興奮気味に「「荒野の決闘」だろ?」と答えた、私はキーンに注がれたウイスキーを飲んで言った、「けれどもやはり、「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」だよ、あの映画を観て強く感じたよヴォードビリアンの様な精神を我々混頓中毒者(ボール・ジャンキー)はどこかに持っておかなきゃいけないってね」そんな風に言うと「それは悲劇であり喜劇だな」とキーンは言った、私はグラスを高く掲げてて「ジェームズ・キャグニーに乾杯!」と言ってみせた。


 悲劇と喜劇が折り重なり、人生の輪郭は陰影を帯びて来る、観客は誰か、時に友人か、時に恋人か、時に自分か、混頓中毒者(ボール・ジャンキー)は人生というステージに降り立ったヴォードビリアンだ、生粋の演者だ、演じずにはいられないのだ、それは運命(さだめ)だ、混頓中毒者(ボール・ジャンキー)はひたすらその運命(さだめ)に抗う事ができないのだ、いや、人は誰しも運命(さだめ)から逃れる事などできやしないのだ、誰もが人生の運命(さだめ)の掌で演じるヴォードビリアンのような側面を持ち合わせている、我々、混頓中毒者(ボール・ジャンキー)はその側面と向き合って生きているだけにしか過ぎないのだ。


 その土曜の夜だけは私もキーンも混頓(ボール)を吸引しなかった、酒を飲んではいたが、互いに寝室で真っ当に睡眠時間を取ったのだ、それでもその夜寝室で私は一人“ヴォードビリアンの様な精神”なるものについて考えた、それは人生を輝かせるものなのだろうか、ある種の降伏者(サレンダー・マン)として精神状態を表したものではないのかとも考えた、どのみち私もキーンも明日旅立つのだ、私は思考のスイッチを落として身体の動きを止めた、やがて深い眠りについた。


 翌朝、私もキーンも何故だか無口になってしまった、今の事やこれからの事を考えるに起き抜けの頭では追い付かないものがあった、私は何気にラジオのスイッチを入れた、朝のニュース番組が放送されていた、「勇者一行が魔王の三大配下の一人である暗黒点のダミルズとその闇魔道士部隊をケイムルーン渓谷にて討伐」と流れてきた、私もキーンも勇者一行の話題には大して興味がなかった、今、この瞬間も勇者一行が魔王率いる軍勢と戦っているのだというリアリティーや緊張感が無かった、それでも私はそんなニュースを聞いて朝の沈黙を破るように「THIS…IS」とエドワード・ロスコー・マローの物真似をしてみせたのだ、するとキーンは笑ってみせて「似てないよ」と言った、私もキーンもそれから何かしらを考えることを止めた、モーニングを食べる為に近所のダイナーへ行き、ホットドッグを食べたりやはり不味いコーヒー等を飲んだりしながら「8時間労働制」やリズム・アンド・ブルースについての話を互いに適当にした。


 一年とちょっとで住み慣れたニルサン地区のアパートメントと別れる時が迫った、それはつまりキーンと別れる時が迫ったということでもある、私はキーンに別れの挨拶をしたが今生の別れではないと付け加えてセンチメンタリズムを押し潰したし、私自身もキーン自身もこれが今生の別れとなる等とは考えていなかった、またキーンはスティーブンスなる男に電報(テレグラム)を打ったことを伝えてくれた。


「本当にお別れの時間だ、今まで有り難う」と私が言うとキーンは「此方こそ一年の間、有り難う」とだけ言った、シーンズとの数日も実に濃厚だったが、キーンとの一年は更に濃厚なものだったと言えた、それはキーン自身にも言えることだったと思う。


 私はアパートメントを後にすると振り返ること無く駅のある場所へと向かった、ここから暫く鉄道での移動となる、首都のイベロまで2日と半日、この陸路を一つの旅行かのような気分で行こうと私は考えていた、この世界での生活も十分に馴染んで来ており、そういった余裕も生まれていた、それにしても、この世界のこの国の首都のイベロとはどんな街なのか、また自身にとって未開の地での生活が、人生が始まる、全ては“人生を輝かせる”為に。


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