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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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21/29

ニヂュウイチ、もしくは、誤算による苦難と歓喜の狭間で踊り狂エ。

 その日はギルドの仕事を4件もこなした日だった、その4件目というのが私とキーンは珍しくサヴァロの街の郊外にある廃墟に住み着いた魔物(モンスター)の駆除依頼だった、私とキーンはその魔物(モンスター)がダイアモンド・ベアという強力な魔物(モンスター)だとは知らされておらずに引き受けた仕事だった、依頼書には「吸血蝙蝠(ヴァン・バット)“らしき”魔物(モンスター)」と記載されていたのだ、これには私もキーンも難儀苦戦をさせられた、ダイアモンド・ベアは物理攻撃が一切効かない上、雷撃の魔法で地道にその強靭な体力を削るしか戦法が残されていなかった、それでも私とキーンはダイアモンド・ベアをどうにか廃墟の外にまで誘き出すと距離を取りながらキーンは準中段の雷撃の魔法を使い、私も覚えたばかりの初歩的な雷撃の魔法でどうにか応戦した、キーンにせよ私にせよその日は既に3件の依頼をこなしていたので疲弊してしたが、それでも魔力が尽きる前にダイアモンド・ベアを雷撃の魔法で仕留めることができた、私たちは直ぐにギルドへ戻りクレームを入れた、すると大元の依頼主である廃墟を解体しようとしていた業者のミスであることが分かると、その対応は迅速化した、なんと依頼料の倍増しにポーションとエーテルが1ダースずつ届けられた、私とキーンは思わぬ収入に歓喜してみせた。


 その日の夜は大宴会となった、キーンはワイルドターキーのボトルに口づけをし、私も生ハムのハモン・セラーノに舌鼓を打った、真空管のラジオも買ってみせた、そこから大音量でベニー・グッドマンやチャーリー・パーカーが流れれば疲れも吹っ飛んだ、上機嫌に次ぐ上機嫌な宴は一晩中続いた、キーンはこの中で一つ提案をした。


 「ポーションとエーテルが手に入ったし、君が習得した魔法があれば“ウォーター・パズル”を試すことができるがどうだろう?」


 私も私で酒で上機嫌になっていたし、“スクリュー・アップ”と“インスタントラブ”以外の刺激を欲していた、私は「いいね、試してみようか」と切りの良い返事をした。


 2つのポーションに対して一つのエーテルと石化を解く“軟天糖(なんてんとう)”を混ぜる、それを初歩的な火属性の魔法で炙る、そこに残ったブルーの粉状のものが“ウォーター・パズル”である、その香りは見た目とはまた違ったイランイランやジャスミン、薔薇等のフローラルノートな香りがする、ポーションやエーテル、軟天糖(なんてんとう)にも無い香りは魔力の籠った火で炙るからこそ出るものだ、キーンは「では」とだけ言って“ウォーター・パズル”を吸引してみせた、私も続いて一気に吸引してみせた。


 脳の奥からイメージの波がやって来る、それらは7色にも見えればモノクロームの色合いにも見える、やがて波は広がり一つの線となる、その線がまた波打つ度にノイズが鳴り響く、そのノイズの一つ一つが自然の音によって形成されたものだ、時に木々の揺れる音、時に鳥の囀ずり、川のせせらぎ…決まった形を持たない(ノイズ)の連鎖、それらの源泉を辿れば見えるのは色の不確かな泉、その視界と感覚が砕けた水の中に落ちて行く、深い、確実に深い場所に連れ去られて行く自我、それは止めどなく、止める気など無く連れ去られて行く、どこまでも、どこまでも、連れ去られて行く、躍動無き流動の中にあるのは抵抗無き意識、感情無き感動、どんどんと自分の中にあるものが抜けて空虚に近付く、水の様に色も形も持たなくなっていく悦び…


 これまでの人生で積み重ねてきたものが溶解して全身の穴という穴から抜け落ちたような感覚だった、それは単なる空虚などではなく、生まれ変わるような、精神の一新を感じるものだった、それでも飛来してきたかのような巨大な虚脱感に全身を支配されている、それは酒の影響もあったのかもしれない、とにかく私にせよキーンにせよ、まるで夜をぶっとばすようにして朝を越え、正午のど真ん中にその身を投げ出されていた、異常な喉の渇きを感じて台所で水を飲み干した、凄まじいと言えるまでの潤いを全身に感じる、続いて空腹を感じ棚に置いてあったコーンブレッドを貪り食うといつも以上にコーンの甘味を感じ驚く、窓を開け放つとその驚きは更に続いた、見たことが無い程の青い空、木々の緑が鮮烈を極めている、そして、尚且つ空気の色や風の流線を感じることができたのだ、これが“ウォーター・パズル”の影響なのだろうか、私はキーンを起こし、この状況を直ぐ様伝えた、それほどまでに私は驚愕と感動にうち震えていた、キーンはうっすらと目を開けていた、そして、ニヤリとしながら「“それ”が“ウォーター・パズル”だよ」とだけ呟いた。


 私は「これが、“ウォーター・パズル”…素晴らしいな…」と言ってアパートメントを飛び出した、今、この時、この身体で正午の風を肌に感じればどうなるかを知りたかった。


 

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