ヂュウシ、もしくは、旅路の果ての新たなる出会い
サヴァロの街へと戻ると私はやはりみすぼらしいただの男に戻っていた、それでもギルドへ出向き成功報酬を受け取ると気持ちは幾分違ったがそんな事に気持ちを割いている暇は無いと私は考えた、ギルドの受付の男が次の仕事を斡旋しようとしたが、私は今回の件で懲りたと言うような半分本心の話をしてジャケットや武器を返却した、報酬は様々な経費も引かれており、手元に残ったのは1万と4000“エン”程度だった、それはこの世界において一月暮らすには幾分と心許ない金額だった、私はその足でシーンズに教えられた住所を頼りにキーンという魔道士の男のアパートメントへと向かった、キーンはサヴァロの東側に位置する住宅街であるニルサン地区に住んでいた、私は幾つかの通りを横断し、幾つかの地域を通過し、途中で昼の空腹を憶えダイナーでチリビーンズとクラッカーを食した、ダイナーの椅子に誰かが読み捨てた新聞があり、何となく目を通すとそこには「勇者一行サルヴェート山脈に巣くうドラゴンを倒す」と書いてあった、マスタングやヘルキャットが大空を飛び回るこの時代に脅威となるようなドラゴンを倒す勇者一行とは何者なのか、勇者や魔王についての疑問は一向に拭えないままだった、また私の考え癖が出てしまったようだ、今はキーンという男に会うことが先決である、私はダイナーを出てキーンの住むアパートメントのあるニルサン地区を目指した。
ニルサン地区はアパートメントが多数建ち並ぶ住宅街だった、 まだ真新しいアパートメントが多く、そのデザインは実にシンプルなものばかりだった、その一角にはドラッグストアもあり、ソーダ・ファウンテンにはこの地域の若者らが屯していた、実に今さらながらサヴァロの街はそれなりに大きな街である、首都のイベロに続く第二の都市と言っても過言ではない規模と人口を誇っている、私はそんなことを思い出し、生活基盤が整えばイベロへと移り住むことも良いのではなかろうかと考えた、キーンのアパートメントはそんなニルサン地区に溶け込んだ一般的な鉄筋コンクリートのアパートメントだった、ドアチャイムを鳴らすと直ぐにその男はドアを開けて現れた、色白で澄んだグリーンの瞳を持つが顔付き自体はごく平凡な男のそれだった、癖毛の髪を肩まで伸ばしてはいたが、そのヘアスタイルが魔道士のそれとは結び付かないもので灰色のシャツと私と同じぐらいボロボロの何色か分からないジャケットを着ていた、「こんにちは、よく来てくれた、キーンだ」そう言って彼は私の手を握った。
「まぁ、先ずは入ってくれ、君のことはシーンズから聞いているよ、クラッカーを倒したんだってね、
やるねぇ」
互いの距離を縮めようという一般的な気遣いをするその性格に悪意は無く、私は彼の案内されるがままに家の中へと入った、元々が家族住まいのためのアパートメントだったのだろう、男一人で住むには家の中は寂しいぐらいに物が無かった、また、シーンズと同じ聖竜信仰教でありながら、それらしい飾りや置物類も無く、私の思い描く魔道士らしさというものは凡そ無かった、それでもキーンは魔道士である、このニルサン地区で一番近いギルドに“一応”登録だけはしており、サヴァロの街と近郊を縄張りとした賞金稼ぎをしている、このアパートメントはその稼業の一環で賞金の代わりに手にしたものらしく、歴代何人かのルームメートもいたらしい、彼の仕事の手伝いとはそのルームメートをしながらのギルド稼業のことを言っているのだろう、折角、先程足を洗ったばかりのギルド稼業にまた手を染めなくてはいけないとは実に因果なものではあったが、場数を踏んでいるキーンが一緒ならばそれなりに心強いと思い、その仕事内容や私に渡される報酬の点でも了承し、私は無事このアパートメントの一室を根城とすることができた。
次に洗礼についての話をした、このニルサン地区には聖竜信仰教の寺院は無く、2区画北へ行った所にあるハロナイト地区にあるらしい、また、洗礼の儀式は毎週火曜日と金曜日にあるらしく、今日が水曜日であることから明日1日はどうしても待たなくてはいけなかった、また、シーンズの紹介であるということからキーンには物事を隠さず話すことが良いと考えていた私は、聖竜信仰教に入信し、魔法を会得する理由を混頓の為だとということを正直に話した、キーン自身は厳格な聖竜信仰教ではあったが、同時にシーンズ同様に聖竜信仰教が滅び行く古の信仰であることを覚ってもいたし、何より混頓を“生涯唯一の友”としているような孤独を背に持つ男であった、キーンは私の魔法の練度に合わせて吸引する混頓のレシピを増やして行くと言った、私もそれで良いと言った、私はここで焦ってはいけないと考えていた、魔法の習得自体が未知のものであったことが私を慎重冷静にさせていた。




