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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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13/15

ヂュウサン、もしくは、別れは再開の始まりであると示唆する新たな出会いに向けて

 シーンズは「やぁ」と言って私のいる部屋へとやってきた、分かりきっていた来訪にも関わらず私は何となく不意を突かれたような顔をして彼を迎え入れた、それほどまでに私は先程の勇者と魔王について考え込んでいる部分があったのだ、私は考えてることを止めてシーンズが持って来たであろう職についての話題に頭を切り替えた。


「先程は楽しい時間だった、その上職の世話までしてくれるなんて感謝でしかないよ」


 私のシーンズに対する感情は率直なものだった、感の鋭いシーンズに何かを下手に取り繕うのは無駄なような気がしていたからだったし、彼との関係性に邪推と呼べる探り会いや駆け引きを入れることは紳士的ではないとまで思っていたからだ。


「スナジ村は元々滅多に客人の来ない平凡な村でね、ジョニサン、君と過ごした時間は僕にとっても実に楽しいものだったよ」


 それはシーンズの本心から出た言葉だったろうし、私としても嬉しい限りの言葉だった、シーンズは改まって職についての話を始めた。


「簡単な仕事だよ、君の事だから察しているとは思うが聖竜信仰教(ドラゴレイダ)の繋がりの職だ、大学時代の友人の魔道士のちょっとした手伝いだよ、魔法の習得にも役立つと思う」


 その魔道士の名前はキーンといった、キーンはシーンズのイベロの大学時代の友人で共にあのダグ・ルールーの元で社会運動に努めてた時期もあり、やはり混頓(ボール)の薫陶を受けていた、しかし、このキーンという男もダグ・ルールーがペテン師の類いであることを早々に見抜き、社会運動から足を洗った、元々は自点院(マイントイン)を信仰していたが、その複雑な戒律とそれに伴う社会的な影響力の強さにも嫌気を差して社会的にも影響力が少なく、宗教的な厳格さに重きの強い聖竜信仰教(ドラゴレイダ)に純粋な宗教を見出だしに改宗し、今は若くしてサヴァロの街で世捨て人のような魔道士となった男である。


「サヴァロの寺院で洗礼を受ける前にキーンを訪ねるといい、君が訪ねることについても電報(テレグラム)を送っておくよ、なに、彼もまた孤独で混頓(ボール)を“生涯唯一の友”とするような男だ、薬学にも明るい男でね、僕より優れた魔道士でもある」


 シーンズはキーンという男をそのように説明した、私は改めて感謝の意をシーンズに言うと「今夜はゆっくり休むといい、明日の別れが実に辛いけれどもね」と言って部屋を去って行った。


 寝支度をしてベッドに入る、それでもやはり部屋で一人になると私は考えた、この癖ばかりはどうにも直らないし、直すつもりもなかった。


 考えたことと言えばそれもやはりキーンという男についてだった、初対面である緊張感などは無かった、ただ、そのキーンという男の孤独について考えた、きっと孤独な人間こそが混頓(ボール)を“生涯唯一の友”とするのだろうと考えた、即ちそれは私自身もまた孤独な人間なのだろうと考えることができた、そうなると私の孤独もまたある種の“癖”のようなものなのかもしれないし、それは私のこれまでの人生の生活の在り方を表したものでその生涯を通して決して消え落ちることのない烙印のようなものなのかもしれないと思った、やがて思考は輪郭を失い実像の痕跡すら失くす、遊動的に流れ乱れる光景、憶えも忘れ去ることもその流れのままに任せるだけの夢、私は眠りの中へと落ちていった。


 十分な睡眠をとった、その証拠に屋敷でも一番最初に目が覚めたと思う、コルゲートの歯磨き粉を使い丁寧に歯を磨き、水道水できりりと顔も洗った、身支度を整えて、メイドの手製の朝食を待つことにした、考え事の癖が幾分と私の頭を何度か過ったが、私は部屋の窓を開け放ち無心で早朝の冷たい空気を肺に取り込んだ、朝露に濡れる木々の葉の緑とその香り、鳥のさえずり、そこに吹く少しの風はまだ今日の気温ではない冷たさだった。


 サヴァロに戻り次第ギルドへ向かい、安くとも対価を受け取り、その足でキーンの住むアパートメントへと向かう、全てはそれからになる、メイドの用意した朝食をシーンズと取りながらそんなことを話しつつ、朝の時間は過ぎていった、いざ出立となると大勢の村人が駅まで駆け付け、私の出発を見届けてくれた、シーンズは村長の顔で「クラッカー討伐成功の電報(テレグラム)はギルドへ送っておいた、君はこの村を救った恩人だ、いつでも帰って来てくれて構わない」と言って強く手を握った次の瞬間に私の耳元で「キーンへの電報(テレグラム)も送った、これは洗礼に必要な紹介状だ」と言って私に一通の封筒を渡したのだった。


 いよいよ私はスナジ村を離れる事となる、短い滞在期間にも関わらず実に濃密な数日を過ごした、私はこの村にまた戻って来ようと思った、混頓(ボール)は“生涯唯一の友”かもしれないが、私にとってはシーンズもまた友と呼べる存在の一人でもあったからだ。


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