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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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10/11

ヂュウ、もしくは、夜のカケラとワタクシと。

 この夜が生涯忘れられないものになることは察しがついていた、“混頓(ボール)の世界”に足を踏み入れることはそれなりの覚悟が必要だと考えていたからだ、この私の人生における新手の快楽には代償があるとも考えていた、私は自身が知的な男だとは自惚れはしないが、常々冷静に努めることに関しては強くある自負があった、それが私の人生を足らしめていた。そんな私だからこそ冷静さに基づいた感が働いたのだ、この快楽、混頓(ボール)には代償があると。


 シーンズの瞳には熱狂が静かに宿っていた、しかし、シーンズ自身はその熱狂を飼い慣らす知性を持ち合わせていた、だからこそ見抜けた、見抜いた部分があったのだろう、私と混頓(ボール)は相性良く、“生涯の唯一の友”となり得ることを、そして、それらの理由を引っくるめた時にシーンズが最初に説明したことは混頓(ボール)の中毒性、依存性についてだった、やはり混頓(ボール)の快感には代償がつきものだった、しかし、シーンズはそれすらも見抜いていた、私がその代償と上手く付き合えるかどうかを、シーンズは語る。


混頓(ボール)に取り憑かれた奴らならウンザリするほど見てきたよ、自身の名前はおろか、存在意義だとか、そもそもの自我だとか認識だとかが全て“溶けて”いくんだ、混頓(ボール)と共に生きていくっていうのはそういうことなのさ」


 しかし、シーンズは更に語る、それは混頓(ボール)の快感とその代償を支配しようとしたものから混頓(ボール)に飲まれて人生を潰して行くといったものだ、要するに混頓(ボール)と共に歩める人間だけが混頓(ボール)の快感と代償を真に支配することができる、このバランス感覚を常に素面で保つことができるかが最大の要点となると。


「ジョニサン、君ならできるだろう、これは友情だとか信頼だとかそんな手にして触れることのできない曖昧な価値観を媒介させた結果の言葉じゃない、僕の経験上の確信と呼べるものから算出した意見だ」


 言動の冷静さに対してシーンズの瞳にはやはり熱狂が静かに、更に強く宿っていた、シーンズは珍しくジャケットの内ポケットからラッキーストライクを取り出しブラッククラックモデルのジッポーで火をつけた。


「今や煙草は男のシンボルだよ、君も一本どうだ?」


 と、シーンズは私に煙草を勧めて来たが私に喫煙の習慣はなかったので、その誘いを単純に断った、シーンズは「そうか」とだけ言って煙草とジッポーをジャケットの内ポケットにしまい込むと煙草を燻らせながらシーンズはより混頓(ボール)そのものについて話を始めた。


 混頓(ボール)に必要なものは魔法とアイテムのたった二つである、高度な呪文や薬学が必要なものもあるが、シーンズの使いこなす5つの混頓(ボール)は基本的でシンプルなものらしく、それらは聖竜信仰教(ドラゴレイダ)の信仰に基づいた魔法とどこの薬局でも入手できるアイテムで成り立つものだ、また、魔法を使いこなすにはその宗教各々の洗礼が必要であり、信仰する宗教によって使用できる魔法にも限りがある、しかし、重複した信仰によって複数の魔法を使用することは背徳とされ、どの宗教でも禁止されている、この世界にある宗教は大きく分けて4つある。この世界で最も信仰を集めている「光教(オルラレイダ)」、主に南部の国で信仰を集めている「発神会(ラッシ・ジャー・メン)」、エスティス大陸方面で広く信仰されている「金来徒道(コンライ・ロード)」、最も複雑な戒律を持ちながら根強い信仰を集める「自点院(マイントイン)」が所謂この世界における四代宗教である、シーンズの信仰する聖竜信仰教(ドラゴレイダ)はこの中でも光教(オルラレイダ)の源流としてある宗教で厳格故に今や田舎や北部の国で細々と信仰を集めているものだ、その他にも肉体的な鍛練に重きをおいた「律厳社(リゲンシャ)」、ハイクラスの魔法習得を目的とするエリート思想集団の「天法典録団(ハイソロジアンズ)」等、1940年代の先進国並みのテクノロジーを根底で支えているのが魔法によるエネルギーであり、その魔法の多様性を司るのがこれ等の宗教である。


 シーンズが信仰する聖竜信仰教(ドラゴレイダ)は古の厳格な宗教故に使える魔法もまた“近代魔法”以前のものに限られており、基本的な呪文が揃ったものである、私は神らしい神などは一度も信じたことは無いが、シーンズから受ける混頓(ボール)の薫陶の過程において彼と同じ聖竜信仰教(ドラゴレイダ)の洗礼を受けることにした、また聖竜信仰教(ドラゴレイダ)は厳格と言ってもシーンズのように混頓(ボール)を嗜む者もいるのだから気持ちとして自分に宗教的な何かが課せられるものではなかった、それはシーンズも知っていたし、シーンズは自分の信仰するものがこの世界においては微弱な思考の一端にしか過ぎないことを嘆くような夢想家でもなかった、この世界における宗教の在り方は社会を支えるエネルギーとしての魔法という現実的な要素を張らんでおり、信仰心そのものも実に資本主義的なドライさを持って為されていたのだ。

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