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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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イチ

 ある日、私の年齢より二回りは年を重ねたプレス機が巨大な振動音を立てて周りの作業員どもを驚かせた、それが原因で午後からの仕事が潰れてしまった、私は班長の男と“東棟工場から西棟工場”までふらり歩いてプレス機の部品を貰いに行くのに倒れた、多分熱中症か何かの類いだろう、それ程までに暑い日だったのを覚えているし、私は疲労困憊させられていた、そんな日々の工場勤めは苦痛で一杯だったし、ひたすらに油と汗にまみれた日々だった、そこに退屈が上乗せされていた、いつまでこんな日々が続くのか、それらは永遠の苦痛のように思えた、そこから逃れようと踠く気力も無く、安い酒と気休めのギャンブル等で一日一日は消耗されていった、そして、何の思慕や未練らしいものも無ければ、残すような言葉すら無く、私は実に呆気なくその人生に幕を降ろしたのだった、それは私の人生の価値その物を表したような幕切れだったと思う、妥当に退屈で、妥当に無名のまま私は死んだのだった、もしも人生に“役割り”なるものがあるのならば、私はそれを果たさずに死んだ事となるだろう。


 そう、それだけだ、あとは気付けば今いる街、サヴァロのカイエン通りの端にある街灯の下に倒れていた、私は街の警官に行き倒れのホーボーと間違われ、これといった理由も無しに留置場にぶちこまれ、固いばかり大きいばかりのパンと野菜くずが入ったスープを与えられ翌朝には単なる身元不明は無価値なホーボーとして釈放されていた、それでも数日から一週間はサヴァロの街を彷徨い、路上での生活を強いられた、季節柄に雨に打たれ空腹と不安にかられる夜はあったが、自身が今いる街がサヴァロという街である認識を得ることから始め、電気があり、車があり、飛行機があること、文化や技術なら1940年代の先進国ぐらいにあること、しかし、"この世界"には魔法があり、あらゆるエネルギーの根源に魔法が根強く関与しており、魔王が魔物(モンスター)を率いてこの世界を支配しようとしている、それを救う勇者が必要とされているという非現実的な事実が存在しているということを知った、それは同時にこの世界から逆算式に見るに私は異世界転生者だという事実を知ることにもなった、そうなれば大抵の場合、自分は俗に言う"選ばれし者"なんぞになるのではないか、ここから全てが上手く行くのではないかと絵空を思うようになったが、さらにサヴァロで一ヶ月を過ごす上で多少の辛酸を知り、自己に突出した“ギフト”のようなものが無いこと確信した、そして、その代わりにこの世界の仕組みの様なものを学び、それに則った生活を試みようと苦心したのがこの一ヶ月でもあった、私は先ず路上での生活の限界を感じ、元手なる金のために仕事を求めた、路上での生活は路上でのルールがあり、それに則っりつつ際どく生活するにこの世界では一ヶ月は限界値に達してしまうとも感じていた、私は転生以前の職種からエンジニアとしての働き口を考えた、しかし、住所や出生証明書はおろか住民票も無い得たいの知れない男に街の工場らの扉は重たく閉ざされていた、私はカイエン通りの端にある街灯で再び行き倒れている所を再び警官に保護され「またお前か」と吐き捨てられた後に例の如く固いばかり大きいばかりのパンと野菜くずが入ったスープを与えられ翌朝には釈放されていた、私は憐憫の情にあてられつつもこの世界のこの街の人間の温情の基準のようなものに慣れていないことを知った、留置場のあった交番を後にしてカイエン通りを東に抜けて円形公園へと向かった、さらにそこからミナンショ区を北東に抜けて十八番通りを歩いた、既に日は暮れそうな夕焼け空だった。円形公園で先ほど拾った昨日の朝刊を早めに点いた街灯の下で読んだ、見出しには大きく「救世の勇者降臨」とあった、私はその日、その拾った新聞紙にくるまりながら見知らぬ通りのベンチで眠りについたのだった、死んだと思えば異世界で路上生活者をさせられるとは何処までも因果な人生であると思った。


 翌日の私は考えを改めた、どうも"そういったシステム"に関わらないことがこの世界での幸福や平穏の条件なのだと一時の私は妄信していた衒があったようだ、しかし、いよいよ食い扶持に困り果てた私は路上生活者の横の繋がりから得た情報を基に、手早く金を稼ぐのならと、ついに“ギルド”と呼ばれる場所のドアを叩くことを決意したのだった、結局行き着く先は“そういったシステム”のある場所だったらしく、私は魔法やら勇者やらのおとぎ話の登場人物にならなくてはいけないのだと軽く気持ちを落とすこととなった、それでも食い扶持を稼がなくてはいけない自分の底辺身分を呪いもした、徹底的に失うものも無くなり、心身共に弱りきった私の足取りは重く私はギルドなる場所へと向かったのだった。

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