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第48話「“引き渡し”のための検査――構造図とのズレ」

「神原、明日構造検査入るからな。今日中に、図面と現場の整合、全部チェックしとけよ」


朝の事務所。課長の丸山が書類を片手に言う。

いつものように、唐突かつ無慈悲な業務の指示だ。


「了解です」


匠はすぐに資料棚から構造図と躯体図、打設記録、写真帳、検査報告を引っ張り出し、図面台へ並べた。

すでに現場は仕上げ工事が進行中。今さらズレが発覚すれば、大規模な手戻りになりかねない。


「高槻、午前中はフロア回って、寸法チェック頼む。

2階の梁成と壁厚、設計寸法通りか見てきてくれ」


「了解っす」


構造検査とは、建物が設計図通りに造られているか、第三者が確認する最終関門。

鉄筋・コンクリートの仕様、柱・梁・壁の位置やサイズ、アンカーの施工状態――

ひとつでも基準を外れれば、補修か最悪やり直しになる。


現場監督にとって、緊張感のピークともいえる工程だ。


午前中いっぱい、匠と高槻は実測データを図面と照らし合わせていった。


「梁成600のところ、598ですね」


「2ミリなら許容範囲。鉄筋かぶりも写真で問題なし……OK」


「階段、15段目だけ蹴上寸法が10ミリ低いです」


「写真確認。打設時の天候は……あの日、気温が急に下がったな。保温材を入れてた記録がある」


「あ、それで型枠の底が少し沈んでた可能性ありますね」


「そうだな。沈下の要因も報告書に記録しとこう。意図的じゃない、施工上の対応だったって」


午後、躯体と設備スリーブの整合確認。


「このスリーブ、図面より100ミリ右に寄ってますね」


「図面の修正が追いついてないな。現場判断で移設してる。指示記録、日付ごとにまとめておこう」


匠はスマホを開き、エルに問いかける。


「この写真、撮影時のスリーブ座標、記録残ってるか?」


《はい。撮影位置の空間情報と照合して、施工位置を数値化できます》


「頼む。記録図にその数値を追記しておいてくれ」


《完了しました。誤差±3ミリ以内です》


こうした“微修正”を繰り返すことで、現場は図面に近づけられていく。

魔法はあくまで補助。現実を作るのは、監督と職人の判断と手作業だ。


夕方、全チェックが終わった。


「今日中に終わるか不安だったけど……なんとかなったな」


「エルが“ちょいアシスト”してくれるから助かってますよね」


「バレてんじゃん」


「まぁ……ちょっとだけです」


「秘密守れよ」


「もちろんです」


ふと、匠は天井を見上げた。

過去にあった“異界の階層”の記録も、検査に向けて削除済み。

現場は、あくまで“今の地上”に属する空間として完成していた。


「さて。明日は“俺たちの答え合わせ”だな」


《はい。施工者としての責任を、試される日です》


神原匠は、ひと息ついた。


「この図面通り、ちゃんと“建ってる”からな。明日はそれを証明するだけだ」

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