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帰還

◆死闘の後に


「……隊長は……無事、か……」


呻くような声が聞こえた。

振り返れば、巨体の陰から這い出してくる盾兵――両足は折れ曲がり、鎧も砕けていたが、命の灯火はまだあった。


「無理すんなよ、あんた……!」


ジョーが駆け寄ると、その男は薄く笑って言った。


「俺より……あんたがよく分かんねぇよ……なんで、あんたがこんなところに……隊長の横で……」


「……それは、こっちが聞きてぇよ……」


そこへ、弓兵の青年と、ハンターのリーダー格である中年男――ガルドが現れた。


「おい……ジョー、だったな?」


「……あ、ああ!」


「……アメリア様、すげぇ戦いだったな……」


ガルドは信じられないものを見たというような目で、倒れた巨獣を見上げていた。


「もう駄目かと思ったが……あの一撃、見たか……? 雷が走って、風が裂けて……あれが、本物の“騎士”なんだな……」


「あぁ……」


ジョーは何も言えなかった。

そもそも、巨大な熊魔獣にしろ、剣だの魔法だのは、ジョーにしてみればアニメやゲームの世界でしか無い。


それに、この男達にはジョーから発した魔法?が見えていなかったのかもしれない。


――その真実は契約当事者間にしか見えない。あの金色の魔法陣も、光も――



「ジョー、頼みがある」


弓兵が言った。


「村に行って……救援を呼んで来てくれ。魔術士は……もう、駄目だ……。盾のヤツもマトモに動けないだろう……俺とガルドで警戒を続け、隊長と盾のヤツを祠へ移す」


「……わかった!」


ジョーはアメリアへ視線を戻す。

彼女はまだ気を失ったままだが、呼吸はある――小さく、しかし確かに。


「俺、すぐ戻る! あんたらだけで祠に移動できるか!?」


「なんとかする。お前も、無理すんなよ」


ガルドがそう言って、ジョーの肩を軽く叩いた。


ジョーはうなずき、駆け出す。



「ジノーッ!! 祠から出ろー! 一緒に村まで行くぞー!!」


祠に隠れていたジノが、おずおずと顔を出す。


「じょ、ジョー……い、生きてたのか!?」


「説明はあと! 村まで走るぞ!!」


「ま、待ってくれ…!走れねぇよ…!傷がまだ、痛ぇんだ!」


2人の背中が消えていく。


静まり返った戦場に、崩れた巨獣と、横たわる女騎士。

その姿は、まるで英雄譚の幕間のように


――風に、ただ静かに揺れていた。




終幕 ――そして、始まり


村の朝は、燦々と輝く太陽とともに静かに訪れた。


祠から走って戻ったジョーとジノによって、村人達はすぐさま救援へと動き出した。


担架に乗せられた盾兵とアメリア、そしてジノは、村の片隅にある「治療院」――という名の、くたびれた民家へと運び込まれた。


戦闘に参加した魔術士は惜しくも帰らぬ人に…恐らくジノ以外のハンター達も…それ以外の者達は、命を落とすことなく“生還”した。


アメリアは深い昏睡にあり、

ジョーは“彼女の横で過ごすべきか”と悩んだが、

"働かざる者食うべからず"

結局、畑仕事の手伝いをすることにした。


「違う!そうじゃないと言うておろうが!!その角度では鍬が土に入らん!!」


「い、いや今入ってましたって!たぶん!!」


「“たぶん”で畑が耕せるか!!」


森の騒動から数日、今日も朝から、ジョーの怒鳴られる声が村に響いていた。


――そして。


アメリア・グレイスハルトは、まどろみの中でふと瞼を開いた。


「……う……あ、あれ……? ここは……」


古びた天井と、乾いた草の匂いが鼻腔をくすぐる。


(……私、生きてる……?)


だが、すぐにまどろみは怒鳴るような緊張感に変わった。


「っ! 魔獣は!? 村は無事なのか!?」


がばっと身体を起こした瞬間、思わず痛みに顔を歪める。


「動いちゃダメですっ!」


少女の声とともに、修道服をまとった見習いシスターが慌てて駆け寄ってきた。


「アメリア様、大丈夫です! もう全部終わりました……っ! 魔獣も……村の皆さんも……!」


「……ほんと、に……?」


「はいっ……!アメリア様が村を……私たちを守ってくださったんです……!」


ぽろぽろと涙をこぼしながら、シスターはその手を握ってきた。

アメリアはその熱に少し驚きながらも、静かに頷いた。


「……そう、か。……良かった……」


痛む体を引きずりながら、アメリアはゆっくりと起き上がった。

窓の外に広がる村の風景――そこには、いつもと変わらぬ穏やかな時間が流れていた。


着替えを終え、治療院の扉をそっと開く。


優しい陽光と、どこか賑やかな声が耳に届いてきた。


「だから違うって言ってんじゃんか! こっちの畝は……」


「この阿呆者!口答えするな!!働けぇッ!!」


そう怒鳴るのは、老人農夫。

鍬を握って土まみれになっているのは、他ならぬジョーだった。


――その姿に、アメリアはふっと口元を緩めた。


まだ不安は山ほどある。

今回の事後調査、王都への報告に村の復興、そして"あの時"の不思議な力の正体…

何一つ明確ではない。


それでも――


「……あいつを見ていると、何とかなる気がしてくるな……」


小さく、けれど確かに。


アメリアはそう呟いた。


風が、静かにその金髪を撫でる。

アメリア(被雇用者)ジョー(雇用主)――

ふたりの冒険譚は、まだ始まったばかりだった。

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