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畑を耕すモノ

霧が揺れた。


咆哮の余韻が森を満たし、空気そのものが重くなる。


アメリアは手を掲げ、静かに隊の動きを制した。

その先に、いた。


――オルデンベア。


森を割って現れたその巨体は、立ち上がった瞬間に木々の頭上を越えた。

およそ7メートルの体長。剥き出しの筋肉に覆われた漆黒の毛皮、

凶器のような爪、牙は大蛇の牙にも匹敵する大きさで、

その目は、まるで“人”を識別する知性を帯びていた。


挿絵(By みてみん)


「……間違いない、魔獣化してる…

オルデンベア――災厄の獣」


アメリアはすぐに命令を飛ばした。


「隊列展開、第二陣形!

左右に分かれて視界を取れ! 後衛は魔術支援!盾にバフを!」


「おおおっ……!」


部下の一人が叫んだ瞬間、オルデンベアが動いた。


――速い。


その巨体からは想像できない加速で、地面をえぐり、

一気に突進してきた。


「盾、受けろッ!!」


前衛の盾兵が両腕で構えた大盾ごと吹き飛ばされ、

木に叩きつけられるようにして地面を転がる。


「グッ……がっ……!」


即死は免れたが、体が動かない。


「攻撃魔法、急げ!」


アメリアは斜めに跳び、敵の横腹へ一閃。

だが、斬撃は毛皮を裂いたのみで、致命傷にはならない。


「く……硬い……! 通らない!」


後衛の魔術士が詠唱を完了。


「《炎槍・イグニス》!」


火の槍が放たれ、オルデンベアの側頭部に炸裂する。


だが――


爆煙が晴れると、そいつは、燃えた毛皮を振り払うように頭を振っただけだった。


「効いて……ない……!」


オルデンベアの牙が光る。


そのまま反転し、魔術士に向かって跳躍――


「――させるか!」


アメリアが間に入り、剣で軌道を逸らす。

肉と金属が衝突する音。空気が割れる。


(馬鹿げた重さと早さだ……! しかも魔術士を狙ったな…知性がある…)


アメリアは冷静に動きを見極めながら、叫んだ。


「全員、連携を崩すな!一撃では倒せない。隙を作れ! 殺し切るぞ!!」


人と獣。

理性と本能。

刃と牙が交差する、死の舞踏が幕を開けた。





一方その頃、祠の中では…


「ふぅ……少し落ち着いたな」

ジョーは焚き火の近くに腰を下ろし、傷ついたハンター・ジノの額の汗を拭った。バールはいつの間にか焚き火の上に座るように浮かび、じっとこちらを見ている。


「お主、いい加減、自分のことを把握しておいた方がいいじゃろ」


「……自分のこと?」


「スキルとステータスじゃよ。そもそもその身、ただの転生者ではないんじゃろう。少しは期待しておる」


「スキル、ねぇ……」


ジョーは目を閉じるようにして、意識を内へ沈める――

すると、視界に情報が浮かび上がった。


《年齢:30歳/レベル:1》

《成長限界:?》

《職業:畑を耕すモノ》

《体力:44/46/魔力:0/0/精神:51/62》

《技能:BTC自動変換/ウォレット生成/ビット乗率(成長補正)/P2P契約書/勘定/デジタル記憶保持/交渉術(詐欺耐性+30%)》

《適性:財政管理A/商人B+/経営戦略A》

《魔法適性:契約S/攻撃F/回復・支援F/精神F》

《現在状態:健康/士気:中》


---


BTC自動変換パッシブ

 保有するBTCを“神貨”としてこの世界で使用可能

 ※通用範囲は一部国家および商人ギルドに限る


•ウォレット生成ユニーク

 デジタル資産を“魔法的ウォレット”として所持・管理・送金可能


•成長補正(ビット乗率)

 保有BTCに応じて、経験値取得・交渉成功率などの各種効率が向上


•P2P契約書アクティブ

 他者との雇用・取引契約を魔法的拘束力をもって生成可能


勘定カンジョウ

 対象の成長性・損得勘定・適性・配置最適化などを“視覚化”する力


•デジタル記憶保持

 前世の知識(金融・IT・法律・契約論など)を完全保持


•交渉術(詐欺耐性+30%)

 商取引・交渉・契約時に有利な判断と防御反応を得る


---


「……これ、スキルというか、もう職業詐欺師みたいなんだけど?」


「詐欺師ではなく商人じゃな、悪徳商人には天敵じゃが。ふぉっふぉっふぉ」


「ていうか、俺、攻撃魔法は?」


「期待するだけムダじゃ。マナも小さすぎて火球のひとつも出んじゃろ。見てみい、“契約魔法以外F評価”となっておる」


「うわー……腕力もダメ、魔法もダメ、どうしろと……」


「そのかわり、その“契約”の適性は正真正銘、世界級じゃよ。そもそも、魔法というのはな、形じゃなくて“結びつき”の力。お主は“縁”を束ねる魔法の使い手なのじゃ」


「……よくわかんねぇけど、要は向いてる方向が違うってこと…か?」


「うむ。“人を使う者”としては最強クラス。育てがいがあるのう、ジョーよ」


「って言ってもどうやって使うんだよ?」


と、そのとき――


祠の外から、地鳴りのような咆哮が轟いた。


ジノが肩を震わせる。


「あ……あの声……オルデンベアだ……!」


ジョーも耳をふさぎたくなるような重低音の叫びが、鼓膜を揺らした。


「ッ、近い!?」


ジョーは思わず立ち上がった。


「バール!今の、ヤバくないか!?」


「うむ……どうやら本命の魔獣、怒りを爆発させたようじゃな……!」





木々の間を疾駆する獣の咆哮が、再び森を揺らす。


「――盾が飛ばされた! 魔術士!カバー!」


咄嗟に距離を取った魔術士が、倒れた盾兵に駆け寄り、詠唱を始める。


 「《生命の環・ヒーリオール》!」

 「《鉄壁強化・バストレア》!」


白と青の魔法陣の光が"盾"の全身を包み、癒しを与え、肉体を強化する。


盾兵は苦しげに息を吐きながらも、力強く地を踏みしめ、戦線へ戻る。


「俺は……まだ、動けます……!」


アメリアの声が飛ぶ。


「良く戻った!魔術士の防衛を任せる! 絶対に通すな!」


オルデンベアが咆哮とともに前脚を振り上げる。

その動きに合わせて、アメリアが怒声を放つ。


「弓組は両翼へ散開! 射撃で気を引け!魔術士は"灼陽爆破"詠唱開始!!」


「了解っ!!」


森林を滑るように駆け、左右に散る弓兵たち。

狙いすました矢が、獣の肩や顔面へと突き刺さる。


「おらぁッ!」


ガルドが太めの矢を二連装で撃ち込み、オルデンベアが一瞬だけそちらを向いた。


「今だ!」


アメリアが地を蹴る。


剣を逆手に構え、獣の左脚に深く切り込む。

筋肉が裂け、血飛沫が吹き上がるも――


「ギィアアアアアァァァアッ!!」


それは、痛みではなく怒りの咆哮だった。


反射的に爪が横薙ぎに振るわれる。

アメリアは身を低くし、回避。


「今だ、魔術士!! ――叩き込め!!」


「了解ッ……!」


魔術士の両手に、熱量が凝縮する。

周囲の空気が歪み、赤熱する魔法陣が展開される。


 「《灼陽爆破・インフェルナブラスト》!!」


轟音と共に放たれた火球は、灼熱の太陽のような輝きを放ち、

オルデンベアの右肩から胴体にかけて直撃した。


ドォォン!!


爆風が吹き荒れ、獣が巨体を後ろに仰け反らせる。


「効いた……!? いや……まだ……!」


炎の中から現れた獣の輪郭。

毛皮は焼け焦げ、皮膚が裂けてもなお、その目は爛々と光を放っていた。


アメリアは汗をぬぐい、剣を構え直す。


「……まだだ!油断するな!」


次の一撃で決める。

その覚悟が、彼女の背をさらに強く押した。

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