戦女神は敵が多い
◆王都到着
アルシア王国王都、それは王国の中心にして、政治・軍事・交易の全てが集中する巨大都市だった。
白亜の城壁と高くそびえる王城。石畳を埋め尽くす人の波。
難民、商人、兵士、貴族、学者…無数の人々が行き交うその光景は、辺境の村とは別世界だった。
「……すげぇな」
思わず呟いたジョーに、ジノが苦笑する。
「だよな? 俺も初めて来た時は圧倒された」
アメリアは緊張感を漂わせながら馬を進める。
「二人には宿の手配と馬の世話を任せる。私は国王様へ謁見してくる」
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◆王城・謁見の間
玉座の間には、国王レオニス三世、重臣、貴族たちが居並んでいた。
国王は柔和な笑みを浮かべながらアメリアに告げる。
「よくぞ戻った! アメリア・グレイスハルト。 我がアルシア王国は、貴公の忠勤を高く評価しておる」
「はっ。国王陛下様からのお褒めのお言葉、有難き幸せで御座います。
では、僭越ながら、辺境村の現況をご報告いたします――」
アメリアは、魔獣討伐・村の復興・新たな移民受け入れ体制などを簡潔に報告した。
だが、彼女の報告が終わるや否や、貴族連中が意地悪く口を挟む。
「ほう、では優秀なグレイスハルト卿に、新たなる課題を与えねばなるまいな」
「辺境は発展著しいと聞く。ならば今後一年で、新たに千人の移民団を送り込もう」
「魔獣討伐の折、失った魔術師の人員も補充せねばな。だが優秀な者は王都で手一杯だ。よって――今年の目標士官学校の卒業者1名を派遣する」
「加えて、魔獣の増加が顕著との報告もある。現地にて、より本格的な調査を行い報告せよ」
貴族達は矢継ぎ早に決定事項を告げていく。
しかし、アメリアの表情は微動だにしない。
そんな重苦しい雰囲気の中、国王は苦しげに口を開く。
「……アメリアよ。過酷な任である事は承知しておる。だが、今は――貴族会議の総意として、これを命じざるを得ぬ」
「拝命致します」
低く短く返答したアメリアの背筋は、ただひたすらに真っ直ぐだったものの、雷の戦女神の背中は、謁見の間では小さく見えた…。
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◆王都、宿屋にて
王城での謁見を終えたアメリアは、重い足取りで指定の宿屋へ戻ってきた。
小奇麗な石造りの宿の一室で、ジョーとジノが待っていた。
「おかえりなさい、アメリア様」
「あぁ…」
アメリアは椅子に腰掛けると、軽く額を押さえ、深い息を吐いた。
「で? 王様は何て?」
ジョーが問いかける。アメリアは短く答えた。
「……無理難題を押し付けられた」
「どんな?」
アメリアは静かに目を閉じ、ひとつずつ告げていく。
「――今後一年で、千人の移民団を村へと追加で送り込むと決まった」
「せ、千人!?」
ジノが思わず身を乗り出す。
「……まだ続きがある。魔術師の補充は、一名のみ。しかも士官学校の今年の卒業者。
当然だが実戦経験なし」
「……」
ジョーも顔を曇らせた。
「最後に、魔獣の増加状況の現地調査命令。原因究明と報告を求められた」
「……は? そりゃ無茶苦茶だろ!」
思わず声を上げたジノが椅子から立ち上がる。
「村の人間も、物資も、戦闘要員も全然足りてないのに! それに千人だぞ? 今だってギリギリなのに!」
ジョーも腕を組み、難しい表情で俯く。
「……相当キツイな。千人送り込むって事は、そいつらの食い扶持も全部こっちで面倒見ろって話だろ? 魔術師も実質“素人一人”じゃ足りねぇよ」
しばし沈黙が流れる。
アメリアは静かに口を開いた。
「分かっている。これは――貴族たちの嫌がらせだ」
「嫌がらせ……?」
ジノが眉をひそめる。
「私が“目立ちすぎた”のだ。辺境で成果を上げ、魔獣を討伐し、王の耳目に入った。だが、王都の貴族たちはそれを快く思わない」
「成功させたくないってことか」
「そうだ。失敗させたいのだ、ジョー。背負いきれぬ負担を押し付け、潰れさせる。あるいは王命に背かせて失脚させる。どちらに転んでも奴らは得をするんだろう」
アメリアは苦笑した。
「お人好しの国王陛下は、反対の意をにじませておられた……だが、貴族会議に押し切られた。国王すら抗えぬ力が貴族たちにはある」
ジノは拳を握りしめた。
「なんつう汚ねぇ話だよ……!」
ジョーも苦い顔で呟いた。
「結局、偉い奴ってのはどの世界でも同じだな……」
沈黙が重く落ちる中で――
ジョーは、ふと顔を上げた。
「……でもまあ」
「?」
「無理だからやらない、じゃねぇだろ? 俺らはやるしかねぇ」
ジノも強く頷いた。
「そうだな。せっかく村が軌道に乗り始めたんだ。止めたくねぇ」
アメリアは、二人の言葉にわずかに目を細めた。
微かな微笑――それは、騎士長ではなく、一人の人間としての表情だった。
「ありがとう……二人とも。――だが、覚悟しておけ。ここから先は、本当に地獄になるぞ」
「望むところだ!」
「村は俺の故郷ですから!」
こうして三人は、改めてその覚悟を共有した。
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◆家畜調達
翌朝、アメリアはジョーとジノを伴い、王都北区にある石造りの商会屋敷を訪れていた。
「ここが……?」
ジョーが見上げたのは、威風漂う三階建ての立派な建物。扉の上には重厚な紋章が掲げられている。
「そうだ。代々、私の家とも取引がある老舗の商会だ」
アメリアが静かに説明した。
「ここなら……と思ったが、どうだろうな」
案内された奥の応接間には、初老の商会長が待っていた。
アメリアを見ると、立ち上がって軽く頭を下げる。
「ようこそ、アメリア様。まこと久しぶりでございますな」
「早速で悪いが家畜を相当数、用立てて欲しい。
正直に教えてくれ、融通できる家畜はどの程度だ?」
商会長は、深々とため息をついた。
「――正直、かなり厳しい状況です。流行り病で飼育頭数が激減しましてな。そこに急な需要の増加です。価格は以前の倍以上、いや……実際には周辺都市と比較すると、市場価格の三倍が王都の相場となっております」
ジョーが思わず眉をひそめた。
(なるほど……完全に市場が荒れてやがる)
商会長はさらに続ける。
「現在ご用意できるのは――豚が四頭、鶏が十五羽、馬が二頭。いずれも……状態は正直、芳しくありません。牛は……申し訳ありませんが、在庫ゼロです…」
アメリアはわずかに目を伏せたが、迷いなく答えた。
「……それでも構わない。無いよりマシだ。全て買い取る」
「もちろん可能でございます。ただ……」
「――代金は心配するな」
そう言って、ジョーの方をちらりと見る。
「……な? ジョー?」
ジョーは肩をすくめ、苦笑いしながらスマホを取り出した。
「あ、やっぱりそうなります? まぁ、いいんだけどさ」
バールの声が心の中に響く。
『今回はこちらが無理を言う立場。
値切りはちと厳しいのぅ』
「よし。全部でいくらですか?」
「0.75BTCになります」
代金の精算後、3人は畜舎へと案内された。
馬、豚、鶏を次々にウォレットに収納していくジョー。
こうして王都での仕入れは、一応の成果は上がった――だが、全く足りない。
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その日の夜、三人は宿屋で再び集まり、地図を広げて今後の相談を始めた。
「……結局、王都でもこの有様か」
「はい……ラネメルで買い足す他ありませんぜ」
「となると……ジョー、頼んだぞ。お前のウォレット、また酷使するぞ?」
「了解。まー何とかなるだろ」
だがこの時、まだ三人は知らなかった。
ラネメルでは既に家畜在庫が枯渇している事を――




