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新参者の運命

◆辺境村にて


ガンツロックからの帰還後およそ3ヶ月の月日が流れた。


地下では、ドレットの“鉱脈探知”が幾度となく反応し、水脈と鉱脈の接合点が見つかっては、ベルダとジョーが話し合いながら、次々に上下水道の整備を進めていく。


ドレットの水魔法とジョーの現代知識が加わり、村にはこの世界では類を見ない、浄化と水圧制御による高度な上下水システム及び空調設備が常時供給されるようになった。



建築面でも進展は著しかった。


ベルダの提案によって開発された“魔レンガ”は、火魔法による高温焼成と土魔法による練り土の圧縮を組み合わせた革新的な建材だった。その強度と断熱性は従来の素材を遥かに凌ぎ、村ではこのレンガを用いた家屋が次々と建てられていく。


さらに、ジョーの「三角屋根と雨樋」の現代知識が加わることで、住環境は劇的に向上。季節や天候に左右されない快適な暮らしが、村人たちの中に希望を芽吹かせていった。


決定的だったのは、ジョーが火精霊サラマンダに対して“餌付け(BTC)”を行い、ベルダへ“火精霊の加護”を授けたことである。

この加護を受けた魔レンガは、建材としての性能を超え、結界としての力すら帯び始めた。結果、オルデンベア級の魔獣でさえも、その建造物には近づくことができない。


今や村の周囲は簡素な柵などではなく、“魔レンガ”による堅牢な防壁に覆われていた。


それはもはや、「村」という規模を超えた――


辺境の村は、静かに、小都市としての姿を形作り始めていた。



だが、真に変わったのは、人々の「顔つき」だった。


ジョーが力を注ぎ、アメリアが指示を与え、村人たちがそれに応えて汗を流す。この力の還流こそが、村の発展の土台となっていた。


そこへ――


王都および周辺都市から、移民団が到着する。


三十名を超える流民、開拓志願者、または職を失った元労働者たち。寄せ集めと侮るなかれ、彼らはある意味では「都会の荒波を生き抜いた者たち」であり、自信と自己主張に満ち溢れていた。


その先頭に立つのは、無精髭をたくわえ、身の丈をゆうに超える大剣を背負った筋骨隆々の男だった。


「おい、そこの枝野郎ッ!」


薪を運んでいたジョーが振り返る。


「うぉっ……ゴツい兄ちゃんだな……」


男は鼻息荒く、腕組みしたまま村を一瞥し、吠えた。


「聞いてるぞ! この村は“女の尻に敷かれてる”らしいな? だったら俺様が治めてやる! その雑魚騎士、呼んでこい!」


(あー、なんとなく展開が読めるなぁ)


ジョーは肩をすくめて笑い、芝居がかった口調で応じた。


「へいアニキ、承知しやした~! 少々お待ちを~!」



そして数分後――


村の広場には、移民団たちが輪を作り、その中心には仁王立ちするアメリアと、大剣を抜き臨戦体制のリーダー男。


リーダー男は高らかに叫んだ。


「真剣勝負だァ! 俺の刃に耐えられたら、アンタを認めてやるよォ!」


アメリアは軽く首をかしげ、肩を回す。


「ふむ…貴重な労働力だ、怪我をする前に、終わらせればいいということか」


ジョーが苦笑して呟いた。


「アメリアは天然で煽ってる自覚ないから怖ぇんだよな……」


次の瞬間――


音を置き去りにする速度でアメリアが踏み込み、男の剣が振り下ろされるより先に、懐へと潜り込む。そして――


ダァァァァンッ!!!


挿絵(By みてみん)


地を割るような音と共に、男の身体が宙を舞い、豪快に地面へと叩きつけられた。


「……かはッ!」


そのまま、目を白黒させながら天を仰ぎ見た男は、無言のまま意識を手放す。


アメリアはため息ひとつ。乱れた肩の埃を軽く払う仕草で締めくくった。


――剣を向けられた勝負で、徒手空拳のまま、かすり傷すら与えずに勝利する。

それは、相手を圧倒しながらも、あくまで“無傷で制圧する”という意思の表れだった。

まさしく、雷の戦女神(ヴァルクレス)の名に恥じぬ、鮮やかな“手加減”である。


「こんなものに付き合うとは、まったく……時間の無駄だ」


バールが鼻で笑い、ジョーの肩に囁いた。


『ほれ。労働者に仕立て上げよ、あれら』


「後でアメリアのとこに纏めて招集させるよ」





◆新たな従属者たち


投げられたリーダー男――名をスカルガンというらしい――が、寝床代わりに敷かれた藁の上で頭を抱えながら呻いていた。


「うぅ……あれ? 俺、さっき……何してたんだっけ……?」


「女騎士に喧嘩売って、空を見上げてたろ」


「嘘だろ!? 誰が……!?」


「お前だよ……」


他の移民団の面々が、苦笑しながら口々にそう返すと、スカルガンはぽかんと口を開けてから、唇を引き結んだ。


「……マジかあの女騎士……あんな細っこいのに……いや、すげぇや」



村の集会所に移民団が集められた。


壇上にはアメリアが立ち、背筋を伸ばして彼らを見下ろしていた。

その姿には凛とした威厳があり、先程の戦いを見ていた者たちは口をつぐんだまま、背筋を伸ばしている。


「私は、この村の監督官――アメリア・グレイスハルトだ」


アメリアが短く、だが芯のある声で告げる。


「この村では、力だけで上に立つことはできない。必要なのは、誠実さと努力だ。それを示してくれるなら、歓迎しよう。共にこの村を築き上げる者として」


その言葉を聞いたスカルガンが、ふらふらと立ち上がり、拳を胸に叩きつけた。


「了解です! アメリア姐さん! 命に代えてもついていきますぜ!!」


「……命を賭けるほどのことではない。働いてくれれば、それでいい」


アメリアは微笑もせずに言い放ち、すぐにジョーへと目をやる。


「……後の事はこのジョーに任せる。皆、この者の言う事を"素直"に聞く様に」


「あいよ、姐さん……いや、アメリア監督官殿」


ジョーは目を細め、移民団をじっと見渡した。

そして、自身の“目”――《勘定》のスキルを起動する。


目の前に浮かぶのは、名前、職能・魔法適性、健康状態、精神の安定度などを数値化したステータス群。


「ふーん……なるほどね……」


彼は呟きながら、スラスラと手元のスマホに指を滑らせ、振り分けを決定していく。


「まず……こっちの五人は木工班。手先が器用で、前の職歴もある。森から素材を確保して、家具や道具を作ってもらう」


「こっちの六人は農耕班。筋力と持久力、精神安定性も高め。荒地開拓と新しい畑作りを頼む」


「薬草の知識があるこの女性は診療所へ。今いる老婆と共に薬草の仕分けや調合補助を」


「魔法適性の高い奴は……訓練候補。アメリアに相談してから職を割り振るよ」


ひとり、またひとりと振り分けられ、次第に移民団の表情から緊張が解けていく。


「……そしてスカルガン」


「はっ、姐さんの弟子か!? 護衛か!? あるいは、騎士見習い!?」


「治癒師だ」


「はい?」


「いや、君、治癒魔法の才能が結構あるぞ? 気付いてなかったか? だからさっきの女性と一緒に診療所に行ってくれ」


「はいっ!」


素直に敬礼するスカルガン。

ジョーは思わず吹き出しそうになった。


「君の腕力なら患者の移動や世話も最適だろう。一緒に良い"街"にしていこう!!」


「はいっ! ジョーのアニキ!! ところでアニキ、この村に名前はねぇんですかい?」


「あー…そう言えば知らないな…後でアメリア様に聞いておく!」


「わかりやした! また教えてくだせぇ!」




こうして、移民団三十名は無事に村の一員として迎え入れられた。


その背後には、

ジョー → アメリア → 村民・移民団

という、新たな“経済と指揮系統”のピラミッドが築かれていくのであった。


そしてバールは、ジョーの肩に寄り添いながら小声で囁いた。


『ふぉっふぉ、ええ感じに人材が集まってきたのう……そろそろ“次のステージ”へ進めそうじゃな』


「爺ぃなのに気が早えぇ……まだ土台作り終わったばっかだろ……」


――次なる波乱を予感しつつ、村は街へと着実に拡大を続けていた。

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