サラマンダとの邂逅
◆火精霊との邂逅 ―契約の刻印―
岩が焼け、蒸気が鳴る。
ドワーフ鉱山の最奥。
そこに眠るは、火の理を宿す存在――
《火精霊》
ドレットが呟いた。
「……います。サラマンダ様が……!」
咆哮とともに、火の精霊がその姿を現した。
地鳴りと熱気、そして圧倒的な“魔の気配”。
アメリアが剣を構える。
「撤退しろ――!」
「待ったッ!!」
その声に、全員が一瞬だけ動きを止める。
バールの声が、ジョーの内側で静かに響いた。
『ジョーよ。交渉の時じゃ。相手は火の精霊――
だがな、“奴には好きなモノ”がある』
「……好きなモノ?」
『神の気配を帯びた“貨幣”。正確には、我らの世界で言う“神貨”。
つまり――お主の“ビットコイン”じゃ』
「……ビットコインが、好き?」
『そうじゃ。サラマンダ等の精霊は“神の気配を宿すモノ”を崇めておる。
あの神貨は、かつて神界で実際に使われていた貨幣の写し……精霊にとっては極上の供物よ』
ジョーのスマホ型魔導端末が、自動的に起動する。
画面に浮かぶのは、炎のマークと共に――
《サラマンダへの餌付け。1回/0.0001BTC》
「餌代1,500円! やすっ!!」
そしてジョーは端末を掲げ、赤き火の前に立った。
「火精霊サラマンダ――!」
『……人の子が、我に名を問うか』
「取引しよう。俺は"神貨"を持っている。
お前に、それを一部、贈与してもいい。
対価として、ミスリルを採掘させて欲しいんだ! 後、欲を言えば熱すぎるから温度もなんとかして欲しい!!」
『……神貨……?』
ジョーは、ウォレットを起動し、
“わずか0.0001BTC”を空間に提示する。
――黄金の六角形のコインが、空中で燦然と輝く。
その瞬間、サラマンダの動きが止まった。
『……間違いない。その“匂い”……この世ならざる“神の神気”……』
バールが小さく笑う。
『欲しがっとるのう、あのコインを』
『……取引、応じよう。代わりに――その"神貨"を我に渡せ』
「よし。交渉成立だ」
スマホの画面が更に赤く発光し、ビットコインがサラマンダの胸へと走る。
《P2P契約:火精霊サラマンダ/形式:対価交換契約》
・対象:ミスリル鉱脈の解放
・代価:神貨(BTC)×0.0001
・副次効果:火山活動制御/火属性魔法一部使用権限(低位)
一行はジョーの行動に驚愕しきりである。
「なっ……なにをしたの、今……?」
『くっく…ジョーが“精霊に課金”しただけの話よ。神貨でな』
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◆ミスリル採掘の奇跡 ―浪漫投資の果てに―
サラマンダがジョーのスマホに吸い込まれ、空気が静まり返る。
「ドレット! ベルダ!! いけるか!?」
「はい……あれ…?? 熱気が和らいできました……」
「任せて! 掘るだけなら、土魔法《掘削流脈》でガンガンいける!」
「俺は運ぶ係か……しゃーねぇな!」
「ジノは何もしなくて良いぞ!」
「ほげぇっ!?」
いきなりの役立たず宣言を、ジョーから告げられたジノは何を言われたのか理解できない様子だ。
アメリアはそんなやり取りに呆れながらも警戒を続ける。
ゴゴゴッ……!
ベルダの土魔法により地盤が震え、
地下から“銀の光”が漏れ始める。
「……出たぞッ!!」
ミスリル鉱脈。枯渇したとされていたドワーフ垂涎の銀白金属が、ついに姿を現した。
ジョーは叫ぶ。
「見たか!これが、俺の浪漫投資だぁっ!!」
バールは満足げに笑う。
『火の精霊さえ懐柔するとはな……フフ、次は――世界に通用するブランドの構築じゃな。
“ジョー印の鍛冶村”、始めるぞ』
「……無茶苦茶だわ…なんなのよ……もうっ…!」
アメリアは文句を言いつつも喜びを隠しきれていない。
その後ベルダの土魔法により、ジャンジャン出てくる魔鉱石の有り難みが薄れてきた頃に、ジョーがウォレットに全て収納したのを目撃した一行は更に度肝を抜かれたりした。
(ジョーさんは、やっぱり神様なんだ……!)
ドレットのジョーへの信仰心は厚くなるばかりである。
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◆精霊サラマンダの炎が静まりし後
一見するとは手ぶらな"浪漫投資採掘隊"はガンツロックへと戻ってきた。
手ぶらで戻ったジョー達を確認した"鋳王フラムゼルは、一行へと飛びかかってきたが、アメリアが床に捩じ伏せ、ドワーフ達に囲まれる事になった。
ジョーがウォレットから採掘出来た量の1割程度を出現させるとドワーフ達は狂喜乱舞し、喜びを爆発させた。
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◆鍛治師の復興と、再び生まれる雷刃
かつて栄華を極めた鍛冶都市は、長く沈黙していた。
だが今――
その中心、大鍛冶場に、かつてない熱気が戻っていた。
「……見事じゃ! こんなに清いミスリルを目にするのは、何年ぶりかっ!」
鋳王フラムゼルが興奮を顕に叫ぶ。
「ふんっ!! やるしかねぇなあ! ミスリルが儂を呼んでおるわっ!」
鋳王フラムゼルの瞳に宿る《匠》の光。
ベルダは初めて見る鍛治師長の様子に驚きつつも、ジョーのそばでそっと呟いた。
「……鋳王様、めちゃくちゃ気合い入ってる……」
「アメリアに業物を作ってもらわなきゃだしな!」
『ジョー。あの儂とキャラ被りしとる爺いに"神貨"を渡して、ミスリルと共に鍛える様にアドバイスしてやれ、良い"モノ"が色々と見れるぞぃ』
ジョーは思わずニヤリと笑う。
「……いいね、浪漫あるわ」
アメリアは古ぼけた剣を静かに両手で持ち、鋳王フラムゼルに差し出す。
「この剣を、もう一度……」
「任せておけ!! 素材はお主らが採ってきたんじゃ。それに久々の鍛造…腕の見せ所じゃ……代価は要らん。儂の全力でお主の剣を鍛えてやる…!」
「フラムゼルさんっ! このコインを混ぜてアメリアの剣を打ってやって欲しいんだ! お願いしますっ!!」
そう言ってジョーは、5BTCを鋳王へと手渡す。
フラムゼルはジョーからビットコインを受け取り、暫しジョーの目を見据えていたが…
「この金属はよくわからぬが……お主のいう事だ…信じよう」
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◆鍛造の儀式
大鍛冶場には、ドワーフたちが次々と集まってくる。
鋳王フラムゼルの《匠》の"技"が披露されるのだ、話題にならない訳がなかった。
炉に神精霊サラマンダの祝福を受けた炎がくべられる。
フラムゼルの槌とスキルが、リズムを刻むように、ミスリルとBTCを鍛える爆音と共に鳴り響く――
ゴォン……ッ!
ガァン……ッ!
一打ごとに、ドワーフたちの心が揺れた。
まるでその光景は
――魂の祭りようだった。
そして――
…完成した。
それは一振りの、“雷真の剣”
鋳王フラムゼルの乾坤一擲の大業物をアメリアが手にした。
『見事な剣じゃ、ジョー。まるで、古の英雄譚の再現のようだ』
「アメリア! 一度振ってみろよ!」
アメリアはジョーの声に応える様に魔力を少し込め、軽く振るった。
ただそれだけであるにも関わらず、
凄まじい紫電が剣より迸り、
風圧がそこに居合わせた者達の間を駆け抜けた。
「…なんだ…コレは…! 剣、なのか…?」
「こんな凄まじい圧力を発する剣は、儂ですら見た事もない…!
恐らくは坊主から渡された"金属"と"魔鉱石"が合わさった事で、全く異なる"金属"へと至った…
としか思えぬ…
雷の戦女神――貴殿にふさわしい一振りであろう…」
アメリアは目を細め、静かに鞘へと納めた。
「坊主。先程渡してくれた"金属じゃが、今後も融通してくれんじゃろうか?」
ジョー&バール(浪漫投資大成功っ)
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■ 雷真の剣
分類: 真合金製・特異級武器
素材: オリハルコン(ミスリル × ビットコイン=真合金)
製造者: 鋳王フラムゼル
所持者: アメリア・グレイスハルト(称号:雷の戦女神)
形状: 全長約135cm、刀身は薄紫に煌めく銀。鍔には雷光の紋章、柄は精霊文様が刻まれている。
攻撃力補正:+320
魔力伝導効率: 極
属性適応: 雷属性100%+/風属性60%+
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◆その夜、祝宴にて
ガンツロックの鍛冶場前には、酒と音楽が満ちていた。
フラムゼルは杯を掲げ、ジョーとアメリアを前に言う。
「……儂はお主らの事を軽んじすぎていた。
この都市は、お主らの手によって再び目を覚ました。
ゆえに……人材の移住許可と今後の友誼を約束しよう」
「“我ら、鍛冶都市ガンツロックは、人間の村と連携せしむ”」
周囲がどよめく。
「って事は…お互いに…?」
「無論だ。
条件はお主の"金属"を、融通して欲しい。もちろん代価も支払おう。
そして“交易の自由”、
後、絶対ではないんじゃが、"人間の作る酒"も少し飲みたいのぅ…
それらが守られる限り、我らも力を貸そう」
「お、おいおい……すげぇことになってんじゃねえか」
「悪くないだろ?ジノ。お前も来て良かったな、パシリ枠として」
「パシリって言うな!」
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