浪漫投資採掘隊
『ドワーフの住処』ガンツロックより
◆火山の奥へ、浪漫投資採掘隊、結成―
ジョーがP2P契約魔法を展開し、ドレットとベルダが金色の術式環の中に包まれた瞬間――
彼の胸に、“浪漫投資”という熱が再び宿った。
アメリア以来の契約。
ジョーの精神枠が逼迫するほどのステータスではなかったが、それでも手応えはあった。
「君たちには未来がある。……俺の、浪漫がある!」
そう口にしたジョーに、ドレットは思わず膝をついて手を合わせる。
「か、神だ……! ジョー様は、神様だったんだ……!!」
「いやいや、そこまでは言ってないからな!? 落ち着いて、ドレット!」
一方、ベルダはぽけっとした顔で手のひらを眺めている。
「ほぇ~……不思議な魔法だね。人間は、こういう魔法って誰でも使えるのかい?」
「……たぶん使えないと思うな」
ジョーが苦笑いを浮かべる横で、バールの声が響く。
『ふぉっふぉっ、浪漫投資の成果が早速見えるかもしれんな。ジョーよ、まずはドレットに探らせてみい』
「だな、行こうか。ドレット、ミスリル鉱脈……探してみてくれるか?」
「わ、わかりましたっ!」
ドレットは祈るように両手を地にかざすと、静かに詠唱した。
「……《アクア・リーチ》――水よ、導け……」
周囲にほの青い波紋が広がる。目に見えぬ脈流が、ドレットの掌へと集中していく。
そして数十秒後――彼の瞳が驚愕に見開かれた。
「……あった、あります! ミスリルです! ですが、すごく……すごく深い場所です!」
「どこだ?」
「この街の裏手の山……ガンツロック山系のひとつ、火山の直下。まだマグマ活動が活発なエリアです!」
報告を受けたジョーは、即座に鋳王へ直談判を申し出た。
──
「……なに!? ミスリルの鉱脈が、“ある”じゃと!?」
アメリアは無言で隣に立っていたが、鋳王は驚愕を隠せていない。
「確かにある。ただ、かなりの深部。しかも現在も火山活動中のゾーンです」
「ふん。そこは高熱で近づけん、それにな、我らの祖よりの言い伝えがある。火精霊・サラマンダ様の怒りを買ってはならんのじゃ」
「だからこそ、です!」
ジョーは一歩踏み出すと、にやりと笑った。
「ドレットの水魔法で、超高温地帯でも耐熱バリアを張れます。
ベルダの土魔法があれば、採掘の効率も段違いでしょう。
現場には、ジノの怪力もある。
指揮官のアメリアもいる。
そして俺がいる――浪漫がある!」
アメリアが眉をひそめて振り返る。
「おい、それ最後いらんだろ」
「いや、一番大事なとこだから」
バールの声が吹き込む。
『そうじゃとも。ビジネスとは浪漫、そして筋書きのない冒険じゃ~!』
──数分後。
鋳王フラムゼルは渋々ながら頷いた。
「……ふむ。ならば、手伝い(見張り)に我が部下二人をつけよう。
お主らの採掘が本物ならば、我らとしても無下にはせん」
「取引成立だな」
ジョーは笑った。
『ふぉっふぉっ、お主は策もなくようやった。しかし邪魔者はちと鬱陶しいのぅ…』
ジノが肩に荷物を担ぐ。
⸻
「準備できましたぜ、アメリア様」
──こうして、
ジョー、アメリア、ジノ、ドレット、ベルダ、そしてモブドワーフ2名による
《ミスリル採掘遠征隊》が結成された。
目指すは――伝承に封じられし火山の地下。
ジョーの"炉"回避、村の未来を懸けた“浪漫”の挑戦が、幕を開けた。
⸻
◆火山、そして沈黙する赤い地底へ―
ミスリルを求め、浪漫投資遠征隊は山を登っていた。
朝靄に包まれた岩肌の斜面。空気には硫黄の気配が混じり、時折、山肌からは微かに蒸気が漏れていた。
ドレットが先導し、ジノが黙々と荷物を運ぶ。モブドワーフたちは無言だが、緊張がその背中に滲んでいた。
アメリアは斜面を歩きながら、背後のジョーに言った。
「……まさか、火山に突入することになるとはな。ここ、魔獣は出るか?」
「ドワーフの話じゃ、火精霊の領域で魔獣は近寄らないらしい。……それが本当ならだけど…」
「お前、よくこんな無茶を通せたな。いや、無茶しか通してないか」
「まあ前世じゃ、色々な営業や交渉をしてきたからなあ…それにアメリアなら、
俺が"炉"に投げられる前になんとかしてくれただろ? …あと浪漫」
「浪漫で火山に入るな。"炉"に放り込まれる前に死ぬぞ」
その横でバールがクックと笑う。
『なぁに、死ななきゃ冒険じゃ。さて、そろそろ妙案を出す時かのう……』
ジョーが小声で訊く。
「……なんかあるのか?」
『あるとも。問題は、モブドワーフじゃ。上手い事魔鉱石を採掘出来そうなんじゃ。ネコババしたいじゃろ?』
ジョーは半笑いで、バールに同意する、
「さらっと盗もうとするんだな、だけど…賛成だ」
その時、ドレットが立ち止まった。
「……ここです。この先の断層の地下に、ミスリルがあります!」
一同が足を止める。熱気が足元から伝わってくる。
ジノが額の汗を拭って言った。
「ここを……掘るのか?」
「違うよ。ドレット、ベルダ。ここから“降りられるルート”はあるか?」
「……あります! 自然の空洞が、下へ続いてます。かなり深いですけど……水魔法の耐熱バリアで突破できます!」
ベルダも頷く。
「土の流れも、悪くはない。今なら崩れずに掘れると思うよ」
ジョーがバールに囁く。
「で、妙案って?」
『ドワーフは採掘に術具を使うのじゃ。
古くから火山探索用の“呼気面”や“冷却杭”を使っておる。
そして何より、ミスリルの気配を“強める術”がある。火精霊の祝詞の一種……』
「それ、使えるのか?」
『使わせるのじゃ』
ジョーはうなずき、モブドワーフに言った。
「おい。お前ら、鋳王様から『ミスリル祈祷印』、"呼気面"と“冷却杭”を預かってきたか?」
「え? い、いえ、そんなものは持って……」
「なにぃ!? アメリア聞いたか!?
前線に突入するのに最低限の装備もねえってどういうことだ!? これは人命軽視だろ!!」
アメリアは突然の言葉に驚く。
「ジョー。お前が突入計画を立てたんだろうが」
「違う、俺は突入“許可”をもらっただけで、“物資の準備”はしていない!!
それは軍部、つまりドワーフの責任範囲だろうがあああ!!」
ドワーフのモブ2名が顔を青くする。
「……す、すぐに戻って取ってきます!!」
ジョーが小声で呟く。
「バールの知識。たまには役に立つじゃん」
『当然じゃ。"交渉"は物語のように進めねばならん。主導権は渡すでない』
そうこうしているうちに、隊は火山地下の“自然空洞”へと突入した。
最初の数十メートルは、比較的緩やかだった。
だが、徐々に――異変が起きる。
「……っ、熱い……!」
ジノが汗を滴らせ、顔をしかめる。
アメリアも眉をしかめている。
「耐熱バリアがあってもこれか…」
ジョーも顔を歪める。
「熱すぎるっ! ドレット、もうちょっとなんとかしてくれっ!」
ドレットの瞳が震えた。
「ま、まさか……サラマンダ様が……!?」
突如、足元が揺れた。
「ッ!!」
爆音とともに、地鳴りが発生し、岩盤の一部が崩落。
採掘隊の前方で通路が塞がれた。
――そして、地下の深部から聞こえたのは……ナニカの唸り声。
「……おい、ジョー。これは、どういうことだ……?」
「いや、想定外だよ。バール!
どうすればいい!?」
『……ふむ。精霊の気配が濃いのぅ。サラマンダが目覚めかけておる。だが……チャンスでもあるぞ? ジョー』
ジョーが、手にしていたスマホのような“魔導端末”を握る。
「……なるほど。"なんとかなる"って事だな……じゃあ、行くしかねぇだろ。“浪漫”の回収に!!」
そして彼らは、火精霊の棲まう、真紅の地底へと挑む。
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