ジョーのターン
◆交渉の行方
鎮痛な表情を浮かべるドワーフ達を目を光らせて観察していたジョーは、何か交渉に使える材料が無いかと、鋳王のステータスを確認した。
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《名前:フラムゼル》
《年齢:183歳/レベル:3》
《称号:《鋳王/鉱山の守人》
《成長限界:AA》
《職業:鍛治師長/ガンツロック統治者》
《体力:204/204/魔力:192/192/精神:220/268》
《技能:精密錬/匠/真創設計/乾坤一擲/封魔刻》
《適性:鍛治S+/王A/鉱兵指揮BB+/地政学B》
《魔法適性:土AA+/火S》
《現在状態:憔悴・焦燥》
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ジョーと共にステータスを確認したバールがくっくっと笑いながら、ジョーに囁いた。
『来たのう……“商機”じゃな、ジョー?』
「強がってる…って事だよな…?」
ジョーの口元には、わずかに“投資家”の笑みが浮かんでいた。
『いけ、言うだけタダじゃ』
「……ねえ、ドワーフさん。ミスリルが採れなくて困ってるんだって?」
鋳王が初めてジョーへ視線を向ける。
「ああ?」
「ミスリルが取れなくて困ってるんですよね?」
鋳王フラムゼルが眉をひそめる。
「……そうじゃが、それが何か?」
「もし、枯渇の原因が分かって、鉱脈がまた見つかるとしたら……どうします?」
一斉にドワーフたちの視線がジョーへと集まる。
「……本気で言っておるのか?」
「もちろん! 但し無償というのは…条件としてこちらは、技術者として数人、村に移住をお願いしたいのです。その代わり俺が鉱脈の在り処、ばっちり見つけ出します」
ドワーフたちがざわめく。アメリアとジノは驚きで言葉を失い、バールはニヤニヤしている。
鋳王フラムゼルは少し沈黙した後、目を細めた。
「……ハッタリなら、炉に放り込むぞ」
「はは…冗談キツイですよ。でも、まぁ……任せてくださいよ!」
――このとき、ジョーにプランは一切無く、純度100%のハッタリであった。
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◆数時間後:ガンツロックの酒場にて
「なんだと…!? まさかとは思ったが、なんの策も無かったのか!?」
アメリアが凄む。
ジノは口に含んだ酒を吹き出し、顔を引き攣らせている。
「ない!!」
「はぁああ!? バカかお前は!? どうするつもりなんだ……!」
「で、でもまぁ! 何とかなるかなって! あと、なんか妙に焦ってたんだよ、あの王様!」
「……はぁ。呆れた……どこまでもノリと勢いの男だな……」
そのとき、店内で店主が怒鳴る。
「ドレット! またグラス割ったなこの役立たずが!」
「す、すぃませんっ……!」
客たちも笑う。
「火も扱えねえどころか給仕も出来ねえのか! お前は本当にドワーフなのか!? ぶわっはははははっ」
その言葉に、ジョーはふと振り向く。
そこには、小柄で気弱そうなドワーフが、しゅんと肩をすぼめていた。
(あー……わかる。社畜時代の俺だ……)
何となく気になって、ジョーは馬鹿にされているドワーフ(ドレット?)のステータスを確認した。
――表示されたのは、
《名前:ドレット》
《年齢:26歳/レベル:1》
《称号:なし》
《成長限界:BB+》
《職業:酒場の水樽番》
《体力:89/93/魔力:138/138/精神:54/65》
《技能:鉱脈探知/水流制御/解析》
《適性:地脈感応S/治水設計B+/鍛治F》
《魔法適性:水魔法AA+/火魔法E/土魔法F》
《現在状態:萎縮・怯懦》
「バール……おい!!」
『見つけたのう、お主の“浪漫投資先”を!』
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◆ 化け物みぃつけた
「はい!ご注文はなんでしょぶっ……か?」
――カタン。
ドレットは見事に足元の桶につまづき、舌を噛んでテーブルに手を突いた。
ジノがじっと見ている。その眼差しは、まるで飢えた野良犬を見た時のような“憐れみ”だった。
ジョーは、そんな空気をまるで気にせず口を開く。
「君、名前は?」
「ど、ドレットです……」
「ドレットくん、人間の村に来てみない?」
「は……?」
「俺なら君が“大活躍できる場所”を用意できるよ」
ドレットがぽかんとする。アメリアが、不思議そうな視線を向けていた。
「……ほんとうですか?」
「ほんとうさ。あとで話だけでも聞いてくれないかな?」
「い、いいですよ……話だけなら……」
その夜、ドレットの家を訪ねる約束が交わされた。
◆ ドレットの家
街外れのやや古びた木造家屋。けれど暖かみのある灯りが灯っていた。
迎えてくれたのは、優しげな母と、無口だが落ち着きのある父、そして――
「おいおいドレ、客か? あんた、ドレに借金でもあるのかい?」
現れたのは、陽気な笑みと赤い三つ編みを揺らす、姉のドワーフ娘だった。
「いえ、スカウトに来ました」
ジョーはにっこり笑って言った。
――しかし、次の瞬間、ジョーとバールの“目”が反応する。
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《名前:ベルダ》
《年齢:28歳/レベル:2》
《称号:名工の卵/金床の乙女》
《成長限界:A》
《職業:鍛造士見習い》
《体力:128/128/魔力:117/117/精神:145/145》
《技能:精鍛/魔装設計/熔融制御/精霊同調》
《適性:鍛治AA+/構造設計BB/魔装理解A-》
《魔法適性:土A-/火AA》
《現在状態:警戒少》
ピピーーッ!!
(ジョーとバールの頭の中にアラーム音)
ジョーは内心で叫ぶ。
(やばい!姉ちゃんも金脈だった!)
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◆ スカウトタイム!
家族団欒のテーブルで、ジョーは熱く語り始める。
「ドレットくん、ベルダさん。この街を救う英雄になってみない?」
「……は?」
「いやいや、マジで。君たちの力を使ってこの街の英雄になってほしいんだよ!
そして、人間の村に行って、広い世界に2人の名を轟かせよう!! 君たちはそれ程の"力"を秘めている! 俺が約束する!」
「で、でも……どうやって?」
「簡単さ。俺に着いて村に行くって、ここで宣言してくれればいい!」
「……へ? そんだけかい?」
ベルダが眉をひそめ、ちょっと怪訝そうに聞く。
「ちなみにさ、人間の村には、美味い酒はあんのけ?」
ジョーがバッとアメリアを指さした。
「今はないけど! この女騎士長で村の監督官、
オルデンベアを討伐した英雄、雷の戦女神ことアメリア・グレイスハルトが、
必ずや美味い酒を生産する体制を整えてくれる!!」
「は……?」
アメリアは突然の無茶振りに愕然とする。目が点になるとはまさにこのこと。
しかしジョーは食い気味に畳みかけた。
「なぁ!? そうだよな!? アメリア!!」
アメリアは言葉に詰まり、しばらく口を開いたまま沈黙した。が――
「……あ、あぁ……ま、任せておけ……」
「よっしゃぁああ!」
ジョーはガッツポーズ。
ベルダが豪快に笑った。
「よし! 美味い酒が飲めるなら行くぞ!
ドレット、荷物まとめな!」
「わ、わかりました……が、頑張ります!!」
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