泣いているんですか。
「泣いているんですか。」
公園のベンチ。
うつむいて座る私を、女が見つめている。
大学を卒業して働き出した。
ワンルームで一人暮らしをはじめた。
新しい友達はいない。
同じ風景を進む通勤電車。
一人で食べるごはん。
たまの休日だからと外出して、気持ちを入れ替えようとした。
それが今朝の事。
たどり着いたのここだった。
書店、カフェ、美容室、ちょっとした買い物。
胸が高まる。
でも、歩いても歩いても、胸が高まる場所には行き着くことができなかった。
たどり着いたのがここだった。
「泣いているんですか。」
答えることが出来なかった。嘘になるから。
私は嘘をついてきた。
色々な人、色々な私に。
頬を何かが伝う。
視界が歪み、声が出そうになるのを必死にこらえ、硬く目を閉じた。
「泣いているんですか。」
私は答えようとした。でも、声はかすれてしまい、出たのは空気の雑音だった。
彼女は何も言わない。
私は彼女に聞いた。
「泣かないんですか。」
彼女は言った。
「今、泣いています。」
私は涙を拭うと立ち上がった。
遊具も、水飲み場も、目を休める花もない、草だけが雑然と生い茂る公園。
気付くと夕日が今日の終わりを支えて、赤く染まっている。
長く長く伸びる影法師。
見つめていると、ゆっくりと隣のマンションの壁にそって立ち上がる。
私は彼女に言った。
「もう、泣きません。」
日が落ち、虫の音が静寂を作りつつある。
私は家路につく。
のぼった月が明るく私を照らし、彼女が私を家まで送ってくれた。