殿下!私に拘るのは辞めて下さい!
「おはよう。私のレイラ」
目が覚めると隣に王子がいた。
「殿下!いい加減にして下さい!!」
「何をそんなに、怒っているんだい?」
「そりゃ、怒りますよ…」
何故なら、第一王子であるニア・ルキウスが毎朝ベッドに侵入しているからだ。
「毎朝毎朝…良く飽きませんね…」
「レイラの寝顔は、見ていて飽きないからな」
「また、そんなセリフを恥ずかしげもなく…もう、怒るのも疲れました…」
レイラがそんなことを言うと、ニアはニコニコとしていた。
「何をそんなに、ニヤついているんですか?」
「怒っているレイラも可愛いなって」
「私は真剣に言ってるんです!」
「レイラ、私はね」
「なんですか?」
「他の何処の馬の骨かも知らない男に、君の寝顔を見せたくはないんだよ。だから、私の妃にならないか?」
「何度も申し上げてますが、なりませんから!」
そう、ニアは何回もレイラに「妃にならないか」と告げているのだ。
その度に、レイラは断り続けている。
「この際だから、ハッキリ言います!私は、殿下の妃にはなりませんから!なので、諦めて下さい!」
「レイラ…」
これだけ、ハッキリと言ったのだから殿下も分かってくれるだろうと思っていたのだが…
「分かった!」
「殿下、やっと分かってくれたのですね?」
「ううん!またチャレンジするよ!」
この殿下が、やめろと言ってもレイラの想いは届かなかった。
何故なら、ニアは何年もレイラに恋をしていたからである。
時は巻き戻り、レイラとニアの幼少期時代のこと
「殿下、そんな高い所まで登ったら危ないですよ!」
「大丈夫だよ、ほら!」
「殿下、危ない!」
「一歩遅れていたら、ケガをしていましたよ!殿下!」
「ごめん…なさい…」
「謝れて偉いですね、殿下!」
「うん…」
この幼少期のことがきっかけでレイラに一目惚れをしていたのだった。
そして、今に至るのである。
「はぁ…」
「どうされましたか?殿下」
そう言ったのは、殿下直属の従者だった。
「いや、レイラは昔のことを覚えているのかなと思ってね」
「ああ、あの木登り事件の…」
「そうそう!」
「…」
従者は黙って、ニアをじっと見る。
「なに?」
「いや、忘れてるんじゃないですか?あの感じですと」
「だよねぇ」
「あの時から、レイラのことが好きなんだけどなぁ…」
「殿下…」
「それにしても、カッコよかったなぁ!あの時のレイラ!」
「殿下?」
「落ちた私を、必死に受け止めて…流石、私のレイラだ!早く、私のものにしたい!私だけの妃にしたい!こんなに、アプローチしているのに気付かないなんて…そんなレイラもとても可愛いけど!はぁ…好きだよ…レイラ…大好き…愛してる…」
「殿下、お気を確かに…と言っても無駄ですよね…」
「何か、言ったかい?」
「いえ、何も」
「いっそのこと、木登り事件のことを覚えているか本人に聞いてみては?」
「それで、覚えてなかった時悲しいよね…私が」
「それは、そうですが…」
こんなにアピールしているのに、気付かないとは…そう思った従者 レイは言った。
「レイラ様、もしかしたら鈍いんじゃないんですか?」
「確かに!じゃあ、もっと気付いてもらえるようにアピールしなきゃ!」
「そうか!」
「何か、思い付いたんですか?」
「素の私を、レイラに見せればいいんだ!」
「それは、逆効果ですので絶対にやめて下さい。」
「そうか…」
そんなことを色々と考えていたら、部屋の扉が鳴った。
「ほら、誰か来ましたよ。」
「そうだな!」
ニアはそう言い、少し身なりを整えた。
「誰だ?」
「えっと…レイラです…」
まさかの客人に、ニアはサイレントで慌てていた。
レイに口パクで(どうする!本人が来たぞ!)と伝えた。
それに応えるようにレイも(殿下、取り敢えず部屋に招き入れましょう。自分は部屋を出ていくので。)とニアに伝えた。
コクコクと殿下は頷いた。
「いいぞ。入れ。」
「こんな夜分に申し訳ありません。」
「どうした?レイラ」
「あ、あの…殿下が先ほど仰っていたのは事実ですか?」
ニアはポカンとした表情をしていた。
まさか、さっきの会話がレイラに聞かれていたなんて思いもしなかったからだ。
「あ…えっと…」
パクパクとしながら、ニアはレイの方を見た。
レイは、そのニアを見てやれやれというようなポーズをしていた。
「なんか…申し訳ありません…殿下…」
「いや、レイラは悪くてないよ。」
「それで?何か、話があって来たんじゃないのかい?」
「あ、そうでした!」
「もしかして、私の妃になると宣言をしに…」
「それは、違います!」
レイラがそう告げると、ニアはしゅんとした。
「違くて、その…幼少期のことを話に来たんです…」
「え…?」
「私、ちゃんと覚えていますから。あの時のこと…」
「レ、レイラ!!」
そう言い、ニアはレイラを抱きしめようとしたがレイラは「それだけです!おやすみなさい!」と言って部屋を出て行った。
「…」
「レイ、そのような目で私を見るな…」
「いつか、その恋が報われる日が来るといいですね」
「そうだな…」
そして、レイラがニアの妃になる日が来たという話が本人の耳に入ったのはまた別のお話…