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お稲荷さんちのアライグマ  作者: 右中桂示


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15/15

アライグマと迷惑客

 正月を迎えた稲荷神社。清々しい冬空が晴れ渡り、鎮守の杜の緑寂しい木々が乾いた風に揺れる。

 早朝から初詣の参拝客でいっぱいだ。屋台も立ち、鮮やかな晴れ着で賑わう。昨年より人が増えているのは何の影響だろうか。


 薄墨は今年も巫女服を着ておみくじの係だ。


「ようこそお参りくださいました」


 去年よりも堂に入った挨拶。仕事も慣れて手際は良い。これなら言葉遣いに厳しい神使も文句は言えないと胸を張る。


 ふわふわしたグレーのショートヘア、ココアブラウンの瞳。そして参拝客から見えない最大の特徴が、縞模様の尻尾。

 薄墨は人間ではない。人の姿に変わったアライグマだ。


 日常的な神社の仕事とは異なる、特別な仕事。しかも忙しくて凄く疲れる。

 その分神使からの報酬も良かった。終わった後は友達と合流して屋台で豪遊する予定。それを楽しみに頑張っている。


 忙しいが、それ以外は困る事もなく進む。

 何度も繰り返すおみくじ好きの常連の顔が赤いのが心配になる程度。

 だったのだが。


「ウェーイ。可愛い巫女さんじゃん?」


 妙に馴れ馴れしい参拝客が声をかけてきた。やたらと派手で手にはスマホ、撮影しているらしい。


「おみくじ引かない……んですか」

「それよりオレと遊びに行かね?」

「おみくじ……」

「そんなんいいからいいから」


 ムッとしつつ身を引く。

 話を聞かずに勝手に喋るのが苦手だった。


 と、そこでふと思う。ノリがアライグマ仲間の一匹に似ているんだと。ピンと来た薄墨は顔を突き出す。


「もしかしてキツネに変えられた?」

「は? キツネ? なに、不思議ちゃん?」


 鼻を近づけ、スンスンと匂いを確認。

 何処かから甲高い悲鳴みたいな声が聞こえた気がしたが構う時間はない。

 念入りに嗅いでも特有の嫌な匂いは感じられず、薄墨は首をかしげた。


「あれ、違う?」

「あー、なになに? 気を引きたいってコト? 巫女さんもオレに興味あるんだ?」


 都合の良い事を言って更に近寄ってくる男。どうやらアライグマではないらしいが、似たようなものだ。最早ほとんど同じ。

 二つの顔が重なってイライラが更に増す。


「ちょっ」

「もー!! いい加減にしてー!」


 我慢の限界だった薄墨は両手を高く突き上げ、うがーと威嚇する。参拝客ではなく例の同族と同じ扱いだ。

 直前に誰かが何かを言いかけた気もしたが、その程度で止まらない。


「邪魔だから出てって!」

「お、おい! そんな態度でいいのかよ!? ネットに晒すぞ!」

「それはアンタだ! 通報するぞ!」

「その通り! 悪いのはそっちだろ!」


 周りの参拝客も援護してくれた。聞き慣れた声もある。

 男は一人。それでも見苦しく足掻く。


「オレは悪くねえだろうがよ!」

「はい。彼女は確かに巫女にあるまじき態度でした」


 暴言に、神使が清らかな声で応えた。

 整った顔立ちで神職らしき服装の男性。その正体は稲荷神社の神使たるキツネ。神社を荒らしたアライグマに薄墨と名を付けて人の姿に変えた張本人だ。


 男は形勢逆転とばかりに神使へ詰め寄る。


「だったら……」

「しかしあなたも敬意に欠けた振る舞いをしたのは事実。こちらも厳しい対応を取らねばなりません」

「ああん?」

「お引き取りください。それとも警察を呼びましょうか」


 美形が丁寧に凄めば圧がかかる。男の血の気が引いていく。単なる気迫か、なにかの術かは分からない。

 最後には見苦しい姿で逃げ帰っていった。


 平穏が戻った境内。神使は次に薄墨を冷めた目で見てくる。


「薄墨。どんな場合も怒鳴ってはいけませんよ」

「だって仕方なかったし」

「はい。確かにあの方には問題がありました」

「じゃ、いーよね」

「いいえ、いけません。次似たような事があれば速やかに私を呼ぶようにしてください」

「……はーい」


 ふてくされた顔で頷く薄墨。怒られはしないものの、いまいち納得がいかなかった。


 そうしてモヤモヤを抱えたまま仕事は終わる。

 普段着に着替えて友達と合流。

 甘酒、タコ焼き、グレープ、などなど。屋台グルメをやけ食いのように味わうのだった。

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