危険な能力者
鬼眼を開いた末那が、凄まじい思念力を発して家に染み付いた鳥島光流の残留思念を捉えると、彼女の頭に、鳥島目線の映像が浮かんできた。そして、彼の生活を早送りで追っていくうち、失踪当日の鳥島光流の行動が見えてきたのである。
これからが肝心なところだと、末那が更に神経を研ぎ澄ましたその途端、強烈な正体不明の思念が彼の中に入って来て、映像が大きく乱れた。
末那は一瞬顔を顰めたが、そのまま、強烈な思念に取り付かれた鳥島光流の残思念を追い続け、数分後に鬼眼を閉じて目を開いた。
「末那、さっき顔を顰めていたけど何かあったのか?」
彼女の顔の変化を見逃さなかった天良が、疲労した末那の身体を支えながら訊いた。鬼眼を開くと、超人的な力を発揮する反面、身体には大きな負担がかかるのだ。
「うん……」
何か話そうとした末那が口を噤んだ。ここでは話せない事なのだと察した天良は、話を変えた。
「それで、鳥島さんの行方は分かったのかい」
「何とかね。恐らく他の失踪者たちも同じ場所に居るはずよ」
末那の言葉に、これで事件は終わったも同然だと、六根警部の顔が綻んだ。
「ただね、今回の事件には、ある能力者が絡んでいるようなの。彼らはその能力者に心を操られているから、救出するのは簡単ではないと思うわ」
「その能力者は、どんな力を持っているんです?」
末那の意外な言葉に、六根警部が眉間に皺を寄た。
「詳しくは分からないけど、人を自在に操る以外に、戦闘力もありそうね」
「戦闘力? 強いのか?」
天良が、自分の得意分野と反応した。
「その能力者に会ってみなければ何とも言えないけど、今の私たちより強い力を持っている可能性は十分考えられるわ。とりあえず、星見室長に連絡して今後の対応を考えましょう」
天良と六根警部は、今回の事件が今までにない次元のものだと感じて、顔を強張らせた。
その日、末那たちは悪石島の旅館に泊まることになった。小さな旅館に入り一息つくと、パソコンのテレビ電話を使って、特捜室の星見室長と連絡を取った。
末那は、行方不明の十人が、心を乗っ取られた状態で無人島の臥蛇島にいて、それを操る能力者が、悪石島の月光神社の神子であることを、包み隠さず星見室長たちに伝えた。
「能力者が敵として現れたのは初めてですね。今回は、慎重に事を進めなければなりませんね。
一つ疑問なのは、臥蛇島を含む全ての無人島は捜索されたはずなのに、なぜ彼らは見つからなかったのでしょう」
「捜索と言っても、それほど厳格には行っていません。捜索の情報を知った能力者が、一時的に彼らを隠すことは、容易かったと思います」
「ありうる話ですね。それで今後の対応ですが、その能力者を逮捕することは可能ですか?」
星見室長が、末那の顔色を窺うように訊いた。
「それは難しいかも知れません。今回の犯人は、人を操ることができて、常人には考えられない戦闘能力を持っているかも知れません。仮に武装した警官隊や自衛隊を突入させたとしても、相手は人を操ることができますから、多くの犠牲者を出す可能性が、十分あります」
「その能力者は、あなた方でも手に負えないということでしょうか」
星見室長が、真剣な面持ちで重ねて訊いた。
「人を操ること以外の能力は、会ってみなければ分かりませんが、恐らく、今の私と夫の力では倒せないような気がします」
「では、失踪者の救出は難しいということですね」
「その通りです。失踪した十人は今、その能力者の軍団を増強するために、無人島で戦闘訓練を受けています。操られ、正気を失っている彼らは、平気で私達を攻撃してくるでしょう。こちらとしても、彼らを殺すわけにはいきませんから、迂闊には手が出せないのです」
「打つ手なしということですか……。それにしても、彼らは何のために軍団などを作ろうとしているのでしょう」
「……それは分かりませんが、今は、無暗に動かないほうがいいと思います。こちらの方で、月光神社の神子との接触を試みます」
「分かりました。くれぐれも注意してください。このことは、上司に報告しておきます。また、何かありましたら連絡ください」
「了解しました」
警視庁との連絡が終わり、自分たちの部屋に戻った天良と末那は、改めて顔を見合わせた。
「末那、月神神社の神子って、月神子の生まれ変わりなんじゃないのか?」
月神子と言うのは、末那が過去世で日神子だった時の宿敵である。
「そうよ、星見室長には言わなかったけど、神子が戦おうとしている相手は私だと思う」
「危険なやつだと言っていたが、会いに行って大丈夫なのか?」
「うん、過去世の記憶が戻っているなら、私に対して敵愾心を燃やしていることは確かだけど、人としての心は失っていないと思うから、話してみる余地はあると思うの。それに、鳥島さんの家で鬼眼を開いた時点で、既に私のことを感じ取っているはずよ」
「そうか、念のため襲撃に備えて、警戒しておいたほうがよさそうだな」
「ええ、彼女には守り人がついているはず、戦闘能力で言えば、そちらの方を警戒すべきね」
「守り人? 末那にとっての僕みたいなものか。僕の過去世の記憶は君とのことだけで、月神子や守り人のことははっきり憶えていないんだ。そいつの能力はどんなものか分かるか」
「過去世で月神子と戦った時は、あなた(藤原天良)と同じように武道に優れていて剣の達人だった。そして、あなたと互角に戦う力を持っていたわ。その時は女性だったけれど、今の守り人も、同じ人間である可能性が高いと思う」
「僕は剣なんて使えないけど、戦えるんだろうか」
天良が不安そうに言った。
「本来の力に完全に目覚めていないあなたでは、戦いにならないと思うわ。ただ、相手もどこまで力が目覚めているか分からないから、結局のところ、一か八か会ってみるしかないわね」
「……」
その夜、戦いのことが気になった天良は、なかなか寝付けなかった。




