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富豪の娘

「さあどうぞ、お嬢様もお待ちかねです」


 見た事もないような豪邸に驚く天良を、渡世は家の中へと案内していった。


 そこは、豪華な作りの広い応接間で、開放感のある大きな窓からは見事な庭園が見通せた。


「お呼び立てしてすみません、良くいらっしゃいました」


 少しハスキーな声で、笑みを浮かべ出迎えたのは例の彼女だった。彼女は、庭の景色が一番綺麗に見えるソファーに天良を座らせた。落ち着いてみれば、吸い込まれるような黒い瞳が印象的な二十代くらいの美人で、今日はブルーのワンピースを着し、胸元には大粒の真珠のネックレスが輝いている。

 

「何かお飲みになる?」


「すみません、アイスコーヒーなどあればお願いします」


 天良は、緊張の為か額にうっすらと汗を掻き、喉が渇いていた。


「小百合さんお願いします」


「かしこまりました」


 紺のスーツに身を包んだその女性は、数分でアイスコーヒーを天良の前に置くと、彼に笑顔を向けお辞儀した後、部屋の隅で待機した。

 天良は、そのコーヒーを、ストローを使わずにゴクゴクと飲み干した。そんな天良を、彼女は微笑んで見ている。


「お代わりをお持ちするわね」


 彼女は小百合にお代わりを頼むと、天良の斜め前のソファーに座り、熱い眼差しを彼に向けた。


「先日は、命を助けて頂き本当に有難うございました。あの時、私はあなたを見て運命を感じたのです。それで、あんな我を忘れた行動をとってしまいました。申し訳ありません」


 彼女は、深々と頭を下げた。


「運命……ですか? 私がどなたかに似ていたとかですか?」


「そのようなものです」


「それで……、まだお名前を伺っていませんが」


「あ、申し遅れました。私は日神摩那ひかみまなと申します」


 彼女は、居住まいを正して名乗った。


「ヒカミって、あの日神財閥の?」


 日神と聞いて天良は、令嬢が婿探しをしているという、週刊誌の記事を思い出していた。 

「そうです。父が商社などを経営しています」


「そうでしたか。それで、いいお婿さんは見つかりましたか」


「えっ、あぁ、週刊誌を見たんですね。私も二十五になりましたので、お父様が早く結婚しろと煩いんです。でも、もう見つけました」


「貴女のような綺麗でお金持ちの人を、嫁に出来る人は幸せものですね」


 天良が、心にもないお世辞をつい口走る。


「さあ、それはどうでしょう。お金も美貌も、幸せの絶対条件ではありませんから」


「それはそうですが、私たち庶民にとっては夢のような話ではあります」


 天良は、この娘は金持ちのバカ娘ではないなと感じながら、お代わりのアイスコーヒーをストローで吸った。


「ともかく、あなたを助けたのは単なる行きがかりですので、恩義に感ずることはありません。ほかに御用が無ければ失礼したいのですが……」


 天良が、摩那の反応を見るように言うと、彼女は一瞬悲しそうな顔をしたが、直ぐに笑顔に戻り、意を決したように口を開いた。


「では、今日おいで頂いた要件を率直に言わせてもらいます。先ほどあなたを見て運命を感じたと申しましたが、私はあなたと、結婚を前提としたお付き合いをしたいと思っています。不躾で一方的な話で申し訳ないのですが、お付き合いしていただけないでしょうか」


「え、いや、ちょっと待ってください。先ほど、相手は決まったと言ったじゃないですか」


「それは、あなたの事です。勝手にすみません」


「一目見ただけで、結婚を前提のお付き合いと言われても、私には返答の仕様もありません。……申し訳ありませんが、断らせていただきます」


 青天の霹靂のような話に、人付き合いの苦手な天良は、当然のように拒否するしかなかった。


「そうですよね。それが、普通の反応ですわね。……では、友達としてならどうですか?」


「友達ですか……」


「そう友達です。私も、人付き合いがあまり上手くありません。真に友達と言える人がいないんです。ですから、私をもう一度助けると思って、お願いします!」


 いつしか、彼女の澄んだ瞳は、有無を言わせぬ強き光を放っていた。


「……そこまで仰るなら、少しだけ付き合ってもいいですが、私は詰まらない人間です。私を知れば知るほど、嫌になると思いますが、それでもいいんですね」


 天良は、事の成り行きが、自分の思いとは違う方向に向かっていると感じながらも、何故か断ることは出来なかった。


「有難うございます。嬉しいです」


 彼女は、笑顔に戻ると深々とお辞儀をした。


「……」




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