出前
『はい、こちら――警察署です。どうされましたか?』
「あの、ピザの出前をお願いしたいんですけど……」
『はい? こちらは警察ですよ』
「ええ、わかってます……」
『じゃあ、どうして電話をかけてきたんですか? 悪戯電話なら切りますよ』
「待って! えっと、マルゲリータとガーリックマスターのハーフをお願いします」
『いや、うち、ピザ屋の仲介はやってないんですよ』
「そうじゃなくて、えっと……クーポンがあるんですけど、期限が少し切れていて、これ、使えませんよね? でもお願いします。クーポンが使えないと、夫がすごく怒るんです……」
『旦那さんが怒る……? あなたに?』
「はい! そうです! そうなんです!」
『なるほど……』
「はい!」
『でも、ピザの代金は旦那さんが支払うんですよね?』
「はい……?」
『安く済むなら、そうしたいですよねえ。うーん、わかるなあ』
「えっと、あの……察して」
『ええ、お気持ちはわかります。自分もこの前、店でクーポン券を出したんですけど、いやあ、期限切れで使えないって言われちゃいましてね。普通に支払ったんですけど、すごく損した気分になっちゃいましたよ。クーポンはうまく使いたいですよね』
「いや、そっちじゃなくてこっち! あたしの状況を察してよ!」
『んー、女性ってそういうところありますよねえ。言わずに気持ちを察してほしいって。うちの妻もそうで、たまに困っちゃいますよ。ははは』
「いや、違うから! 今、あたしがどんな状況にいるか察してって言ってんの! ピザ屋に電話しているふりをして、実は警察に通報してんのよ! わかるでしょ!」
『んー……ウミガメのスープ的なクイズですか?』
「違……わないけど! もうわかるでしょ! 夫から暴力を受けて、家に軟禁状態なのよ! すぐに助けに来てほしいの!」
『あー、そういうことでしたか。でも、そんなに大声で話して大丈夫ですか?』
「え、あ……あ……」
『ちなみに、私は察してましたよ。じゃあ、どうして取り合わなかったのでしょうか? それはね……ん? おお、奥さんから代わったのか。よう、電話に出たのが俺でよかったな、相棒』