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ご褒美



 ドカーーーン!!!



 まだ闇夜の真っ只中、突然の爆発音によって目が覚めた。




 えっ?!?!今の何?!


 辺りを見回すとまだ真っ暗だ。


 私はただならぬ気配を感じて、部屋の外に飛び出した。

 そこには護衛中のカイルが驚いた顔をして立っている。


 この人っていつ寝てるんだろう。

 そんな小さな疑問も吹き飛び、私はカイルに尋ねた。


「い、今の何?!」


 カイルは分からないという風に頭を振りながら焦った様子で言う。


「音は多分、使用人棟の方からだと思いますが」



 使用人棟……?!


 それを聞いて心配になり、私は使用人棟のある方へ走り始めた。

 カイルもすかさず後ろをついてくる。


 みんな大丈夫なのだろうか。あんなに大きな音、只事ではない……!!



「こっちの方が近いです」


 必死に走っていこうとする私を、カイルは誘導してくれる。


 案内されるままに二階の私の部屋から一階に降り、庭園に出てからすぐに建物の裏に回った。



 遠くの方に明るい光が見える。


 何だろうと思う間もなく、それが炎だということに気づき二人で足を止め息を呑んだ。


 きっと、あれが使用人棟なんだよね……?

 あんな炎に包まれてるなんて……!!



 混乱する頭で考えるよりも体が先に動いた私は、再び走り出し建物に近寄る。


「ラン様、危ないです」


 あまり近づかないようにと、カイルに制止された。



 本棟で働いていた人々も集まってきてみんな必死で対応している。


 この時間なら大多数の人はベッドで休んでたはず。


 私は事態の緊急さにも関わらず驚きと恐怖で足がすくんでしまった。


 でも……私も何かしなくちゃ……!!そう思って建物に近寄ろうとした瞬間、後ろからガッと肩を押さえられる。




「君が何かしたのか?!?!」


 大声を出しながらそう掴みかかってきたのはザフリーだった。


 カイルが間に入り、慌ててザフリーに言う。


「ラン様は部屋で眠っていました」


 ザフリーはカイルを振り切り、尚も私に掴みかかる。


「だって、君が来たタイミングでこんなことが起こるなんておかしいじゃないか!!」


「違います! 私は何もしてません!」


「信じられるか!」



 私は瞬時に頭に血が昇る。今は決してそんなこと言ってる暇はないはず。


「そんなことよりみんなを助ける方が先でしょ!!!」


 私の怒鳴り声にハッとした表情を浮かべたザフリーは、慌てて建物に向き直った。


 その瞬間、私たちの横をクリフ様が勢いよく駆け抜けて行ったのが見えた。



 えっ?!



 驚いていると、無傷の使用人たちに指示を出しながら、業火に包まれている建物に飛び込んで行った。


 しばらくして、逃げ遅れたらしき人たちを抱えて外に連れてくる。



 私たちのいる場所まで連れて来ておろすと、また急いで建物に入った。




 そうだ、ぼーっとしてる場合じゃない!!私はみんなを治癒しなくちゃ。



「私が出て来た人を聖力で治癒しますから、立てるようになった人から順番にベッドへ案内してください! ザフリーはすぐに怪我人を寝かせられる場所を整えて!」


 私の声に反応するようにザフリーはカイルや数人の使用人と共に一目散に走り出して行く。




 ――――




 みんなの治癒に没頭している間に、一通りの救助が終わったようで、全ての人が外に避難できたようだった。


 無傷や軽傷の人たちが消火活動をしていたおかげで、火もほとんどが収まったようだ。




 避難できた最後の一人を治癒して見送ってから、辺りを最終点検していたクリフ様の傍へ行った。


 あれだけの業火の中に何度も飛び込んで行ったのだ。


 いくら水の魔法を使っていたとしても、あちらこちらに傷ができているはず。





 私が傍によると、クリフ様は無表情で言う。


「俺はいい」


 自分を大切にしないなげやりな態度に、私は思わず頭に血が上ってしまった。


「ダメです!! みんな無事じゃなくちゃいけません!」


 私の剣幕に驚いたのか、クリフ様はそれ以上何を言うこともなく、大人しく治癒を受けてくれた。


 火傷がほとんど治ったことを確認して治癒を終えると、彼は驚いたように自分の体を見回してから私に言った。


「助かった。あ、」


 クリフ様がそこまで言いかけたとき、私は思わず咳き込んでしまった。

 口に当てた手に違和感があって見てみると、真っ赤に染まっている。


 クリフ様は目を見開いて私を見ていた。



 一瞬、何かわからなかったが、これは血だ。



 そう感じた瞬間、咳が止まらず口からどんどん血が溢れてくる。そのまま私の意識は途切れた。





 ――――――――――





 なんだかふわふわする。


 あれ?なんか既視感。



 あ!!ここはこの前、来た場所だ!


 そう思った瞬間、見慣れた金髪の少年が見えた。



 彼は神様だっけ……?


 ……!そ、それじゃあ!

 

「えっ! 私、死んじゃったの?!」


 少年……もとい、神様はふうっと溜め息をついて言う。

「まだ死んでない」


「あっ、良かった〜」


 呑気な声を出した私に、神様は怒った表情で叫んだ。


「君はアホか?! あんなに急激に聖力を使えば魔力切れを起こすのは当たり前だろ!」


「へ? 魔力切れ?」


「そうだ。急激に大量の聖力を放出したから耐えきれず身体の中のエネルギーが逆流したんだ。血を吐いたのはそのせいだ!」



「でも、あれ以外に方法がなかったから……。あの状況で何もしないなんてできるわけないじゃない! 大体この世界の人を助けてほしいって言ったのは神様でしょ!」


「あ、うん、まあそうなんだが……」


 私が詰め寄ると、神様は項垂れた。


「でしょ! こうして治癒してなかったらみんな大変なことになってたんだから!」


 さらに詰め寄ると神様はコホンと咳払いをして言う。

「ま、まあとにかく、君の体も大切だということを言いたかったのだ」


「あ、うん……。ありがとうございます」


「これからも魔力切れになるような使い方には気をつけるんだ。どんなに大怪我を見ても焦ったりせずに、少しずつ聖力を流すことで治癒のパワーは働く。これはもう慣れて感覚を掴むしかない」


「少しずつ、ね。ふむ、それってどうすればいいの?」


「そう意識するだけでいい」


「うん、分かった」

 私はコクコクと頷いた。


「いいか、気をつけるんだぞ」


「はーい」


 そう返事をした瞬間に、私は急激な眠気が襲ってきて、また意識を失った。



 ――――――――――



 パッと目が覚めると、私は自分の部屋にいた。


 ベッドの傍らにはクリフ様とザフリーがいて、目を開けた私を驚いた顔をしながら見ている。


「大丈、」

 そう言いかけたクリフ様の言葉を遮って、私は二人に詰め寄った。


「みんなはどこ?!」


 私の勢いに圧倒されたのか、ザフリーが驚いたように答える。

「あ、えっと、1階の客間に寝かせているが……」


「ありがと! いま神様に聖力の扱い方を聞いたの! 今度は上手にできるから!」



 二人は目が点になっていたけれど、私はお構いなくベッドから飛び起きて1階の客間に駆け出した。


 そうして、神様のアドバイス通り、魔力切れにならない程度に少しずつ力を流しながら、みんなの治癒をした。



 それから数日の間、治癒をし続けたおかげで、重症だった人も食事が取れる位には回復していた。



 公城の専属医師の見立てもほぼ完治となり、これでやっとひと安心!



 綿密な調査の結果、あの火事の原因はキッチンの火の不始末によるもので、決して故意に起きた事件ではなかったことが判明した。



 ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、神様の叱責……もとい、助言により魔力切れこそ起こさなかったものの、疲労が溜まったせいか私は高熱を出して寝込んでしまったのだ。


 ああ、不覚……。



 起き上がることもできなくて、身体は寒いし震えるし、これだけの高熱を出すなんて生まれて初めてだったかもしれない。


 でも、使用人のみんなが心配してくれて、入れ替わり立ち替わり看病に来てくれたので心強かった。




 何よりも驚きだったのは、あのザフリーまでもが私を心配して看病してくれたのだ。


 これまであんなに胡散臭い顔で私を見ていたのに……!



「ザフリー、ありがとう」


 額のタオルを替えてくれたザフリーにお礼を言うが、まだ声が掠れてしまう。


 彼は少し呆れたような顔で言う。


「いいからちゃんと寝てろ」


 その言葉に甘えて、私はまた遠慮なく眠りについた。






 再び目を開けると、辺りは薄暗くぼんやりとしている。


 あ、また夢の中かな……。


 そう思いながら辺りを見回すと、ベッドの横に置いた椅子にクリフ様が座っているのが見えた。



 ああ、やっぱりこれは夢の中なんだ。


「今度はクリフ様の夢……?」


 掠れ声でそう言うと、クリフ様はハッとして私の顔を覗き込んだ。


「大丈夫か?」


 私は微かに頷く。


 こちらを心配そうに見ているクリフ様の横顔に窓から月明かりが差し、その美しさが心に沁みた。


 そんな姿に見惚れながら思わず呟く。


「少しはクリフ様の役に立てたかな……」


 彼は一瞬ハッと驚いた顔をしてから、私の頭をそっと撫でた。


「ああ、もちろんだ」


「よかった」


「でも、無理はするな」


 夢の中のクリフ様はとても優しい。これは神様からのご褒美なんだろうか。

 そういえばいつもの少年の姿が見えない。



「クリフ様の呪いも解いてあげられるといいな。あんなに辛いことを一人で背負ってるんだもの」


 これは今一番の願いだ。神様が見せてくれてる夢なら、こうしてお願い事を宣言しておけばまた助言をくれるかも。


 夢の中の自分もちゃっかりしているなと、熱を持ってぼんやりとする頭で思う。




 クリフ様は切ないような、泣きそうな顔で私を見つめながら言う。


「無理しないで、もう寝ろ」


 そう言ってポンと私の頭に触れて、優しく私の額にキスをした。



 ああ、やっぱり神様がご褒美をくれたんだ。


 そんな幸せな気持ちで、私は夢の中のクリフ様に笑顔で頷き、目を閉じた。


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