来襲?
イカさん先生が説明しているのを見ていると、貝王様が『あ。』という小さな驚きを発した。
え?
何?!
何かコワイ。
貝王様が、驚きはするけどわりとどうでもいい、みたいな事って何?
すると、向こうでイカさん先生がチラッと横を見た次の瞬間、毅満子さんが海から飛び出て来た。
他の人間は全員、正座しているので、白服だけがとっさに立ち上がったのが丸見えだ。
うん。 わかる。
かなう、かなわないの問題じゃなくってね。
イカさん先生だったら大丈夫だけど、忌見子さんに警戒する気持ち、わかるよ!
白服に、区別がついてんのかどうなのか、知らないけどね。
レベルについては何もわからなくても、醸し出す雰囲気というかオーラというか、イカさん先生や貝王様は文化的というか。
対して毅実子さんは原始のエネルギーというか、対話出来なそうというか。
出来ないんだけど。
原始ってゆーか、ほぼ生まれたままに近いのかもだけど。
成長したと思ったんだけどなー。
魔王として、他の生き物とは全くレベルが違うんだろうけれど、あまりにも無関心すぎて成長しない。
魔王の中では多分最弱なんだろう。
魔王の数自体が多くないんだろうけどね。
ま、白服が勝つ事はない。
主さんが心配でも。
で、何しに行ったんだ?
イカさん先生についてっちゃったのかな?
先生も止める気配がない。
バッシャーン!と出ては来たが、気味子さんは止まった。
映像の中なので、向こうから感情は漏れて来ないが、戸惑う様子だ。
人工物に慣れてないから、困惑したのかな?
海賊船と戦った時は、それどころじゃなかったもんね。
アレ?コレ、襲っちゃう?
一瞬、本気でまずいかと思ったが、貝王様はそれを察してくれたようだった。
魔王キミコ、止まりなさい。
頭の中に声が響いてくるのと同時に、映像の向こうでも同じ命令がされているのがわかった。
貝王様が教えてくれているんだろう。
どちらもにも同じように、貝王様の言葉が降る。
向こうの人たちはきっと、姿の見えない貝王様の声ならぬ声に、神のように畏れを感じているだろう。
固まってるように見える。
島全体から響くのと、イカさん先生のように姿を前に、身振り手振りをしてくれるのは大違いだろうから。
……多分、役割分担なんだね。
イカさん先生が、足先から何かを船に入れた。
何かと注視すると、映像の中の一部が手前に押し出され、画面が大、小の二枚重ねになる。
近い小さい画面に、イカさん先生が入れた物が、コロコロ転がる様子がわかった。
巻物?
紙か羊皮紙か、全然別物かはわからないが、巻いて赤いシール?蝋?か何かでとめてある。
アレが、お手紙か?
現物見もしないで、アホのスマ子の相手をしてしまった……。
ちょっと反省。
全く、あのアホスマ子が。
今は空気読んだのか黙ったから、わずかだけ許そう。
何人かが、このコロコロの為に立ち上がりかけ動いた。
誰が立つべきか、立っていいのか一瞬、躊躇している。
結局、1番端の人が立ったが、すぐちゃんと歩いているところを見ると、真面目に正座してはいなさそうだった。
だからというわけじゃないだろうが、ちょうどその時、貝王様は映像をたくさん増やした。
マンガやアニメの中みたいに、突然向こう側を映す映像が上下左右に現れる。
いろんなアングルから舟を映す、というような映像。
イカさん先生の視点に近い(多分)ものや、イカさん先生がいない側の、船の反対から人間たちの背中を見ているような映像。
様々なものが一瞬で映し出される。
まだ昼間で、部屋の中も明るいのに、映像がはっきり見えているという不思議。
アニメの中みたいだな。
こんなに映像がいっぱいあるなんて。
パソコンのパネルとかモニターみたいなものだったら、ドラマの中でもやってるんだろうけれど。
何もない空間に一気に映像が広がったもんだから。
凄い。
先程、色々教えていただきましたから。
アッサリ、貝王様が言う。
それはさっきの、テレビとかの話?
頭の中に何が流れてたのか知らないが、私のシドロモドロからこうなるの?
ホントに次元が違うわ〜。
あとちょっと思ったんだけど、こんなに凄い貝王様と忌海娘さんは、一応同じ魔王という分類なんだけど、その魔王相手に立ち上がる白服って、かなり気が強いよね?
予定もなかったし、最初から勝てそうにないけど、アイツと喧嘩しないようにしよう。
まぁ好きでもないが。
そもそも喧嘩しないように、会わなければ解決よね。
よし。
その時、私の平和な脳内と裏腹に、映像の中で誰かが刃物のようなものを背中で用意してるのが見えた。
え!と思った。
たくさん、多方面から映像が増えたのは、このせいか!
まさか、こういう行動を取ろうとしてるのをおびき寄せるために、イカさん先生は手紙を入れたのかな。
イカさん先生が持ってたって、海の水に濡らさないで保持出来るんだもんね。
カコド側も、何もせず主さんにもしもの事が……なんて訳にはいかないのだろうが、なんか評価瀑下がりである。
イカさん先生も忌海子さんも、これで怪我させられるのは嫌だ。




