表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/235

オジイ

 


 オジイはね、凄いのよ。

 魔力は持っていないんだけどね、ナガナガスクジラなんだけどね、人間の呼び名は僕知らないんだけどね。




 怖いのか照れ隠しなのか、足をブンブン縦に振りながら、勢いこんで話すイカさん先生。


 いつも穏やかで、誤解を招く事がないようにウーンウーン、と考え込んでから話す姿とは真逆だ。


 感情に揺れがあるからか、魔力の言葉が波になっていて、全部を丁寧に追いきれない。

 溢れ出てくるのを読み取りきろうとすると、すぐに次の魔力がきて、そのうち前の魔力の方は四散してしまう。




 うちのも小さい頃、オジイに教えてもらったのよ。魔法の知識とかね。

 でもね、すごいからね。

 どこからかオジイたちも驚かせるような魔法も、知ってきてね? 本当にすごいのよ。

 熱心なの、真面目なの。




 うちの、と言った時に貝王様が思い浮かんだ。

 ふむふむ。

 なんかこう、奥さんのことを喋ってる旦那みたいだね。

 まぁうちの魔王っていう意味なんだろうけどね。


 うちの、という言葉に魔力が乗って、自動で貝王様が浮かぶシステム。

 仲良し過ぎる。

 私の魔力が引き寄せたんじゃなく、わたわた話すイカさん先生の意志だ。

 うちの(イコール)貝王様。

 私が腐ってなくてよかったね。

 もしそうなら今、萌えたぎっていたところよ、これは。


 オジイの話から貝王様の話になっちゃってるし。



 でも魔王同士で海域とか地域とか、要は縄張りみたいのがあるよな~。

 魔力持ち同士の会話は、「うちの」と言うと自動で自分とこの魔王が相手の頭の中に浮かぶシステムなのかな?


 それ、一種の牽制か?


 縄張り境界では、魔力持ち同士が自分とこの大将の存在感のアピールから口喧嘩が始まる、みたいな?


 ちょっと、近くの公園のブランコの優先権を取り合う、幼稚園または保育園児の対抗合戦みたい。

 お前何才だ?オレはもう6才なんだぞ!とかやるやつ。

 決着がつかないと、お兄さんお姉さんの年齢を持ち出すんだよな。本人はなかなか登場しないのに。

 現代っ子はやらないのかな?




 魔力持ちでも、レベルは大雑把にしかわかんないし、そんな事はしないか。

 魔王を引っ張り出す戦争になったら大変だもんね。


 ちょーっと体が大きいだけの魔力持ちが通りまーす、とかって周辺を泳いで威圧するくらいなのかな?




 イカさん先生がきょとーん、とした目でこっちを見ていた。

 わちゃわちゃ動きは治まったようだ。


 いっけね、また脱線してた。



「すみません、海の中は不思議がいっぱいなので」


 いつもは、ウンウンと頷くのだろうが、まだ興奮が残っているのか「いいよいいよ」という感じに顔の前で高速で横に足をふる先生。


 黙って見てると、ピタと止まり、フーッと深く息を吐く。

 体の真ん中辺りに、ふっていた足を当て、吐いた息につられるように目をつぶり俯いた。

 いかにも『あー安心したー』という仕草だ。


 ……ホントに前世、人間じゃないの?


 実はこの海『転生したら異世界の海の中でした。魔力持ちみたいなので、生き延びて食っちゃ寝生活が出来る魔王クラス目指します!』の舞台とかじゃないよね?

 そんなタイトル(多分)読んだ事ないけど。


 イカさん先生が主人公ってどうなるんだろう?

 主人公って受難が降りかからないといけないよね。

 ストーリーが進まないから。


「先生は、黒歴史ってありますか?」


 興味津々(しんしん)です。


 ギョギョッと、目を見開きのけ反るイカさん先生。


 海に黒歴史なんて言葉があるのか、と思ったら、それに近い記憶があるようで、また頭に流れてきた。


 真っ黒の海。


 モヤモヤと煙のように見えているので、光の届かない本当に真っ暗な深海ではなさそう。


 じっと見てると、若き解放期のイカさん先生のイタズラだった。


 子育てが一段落して、集団で海域を移動する魚さんたちの群れに、イタズラで墨を吐く先生。

 移動中がもっとも狙われやすい為、とても緊張状態にあったタイミングでの襲撃。

 全く接近に気づかなかった、巨大なイカが現れたかのように見せて、混乱させている。

 散り散りになって逃げて、小さい子供を必死に追いかけるお母さん魚たち。


 それを隠れ見てキャッキャ笑うイカさん先生。


 炎と煙の関係ではないのだろうけれど、一度流れ出した魔力は、その後閉じたととしても、流れた分自体はもう回収できるものではないのだ。

 無理やり引き寄せたりすることも、貝王様ぐらい達者だったら出来るのかもしれないけどね。 そうすると他者の魔力も引っ張ってしまうかもしれない。

 私は出来ないけれど。


 やってみようと考えても、自分の周囲360度の空気を一気に全身に取り込むような、荒唐無稽なイメージしかない。無理。


 そう簡単なことじゃないのだ。


 墨汁が海に溶けていくように、どうすることも出来ない。


 つまりイカさん先生の頭から流れ出してしまって、キャー!と思って慌ててそれ以上は流れないようにストップしても、一度流れ出た魔力自体はどうにもならない。


 黒歴史と言ったら、本当に海底が真っ黒になったイカさん先生の若き日の歴史が出てきた。


 ヤンチャしてたのはもうわかったから、黒歴史という言葉は冗談だったのに。 

 本当にワルだね。


 元ワル本人(本イカ?)は、何で知ってるの?!どうして?と焦って体を揺らしている。


 まだ動揺が続いているようで、記憶は途切れず続く。


 イタズラされた魚さんの群れがいなくなるまで笑っていた先生だが、気付くと取り囲まれていた。


 当時でもかなりの大きさのイカさん先生よりも大きな、おそらくクジラだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ