解放期
先生~!
違うのよ、違うのよ、みーんな通る道なのよ、と必死のイカさん先生。
たくさんの足をもっと高く四方に上げてわちゃわちゃ。
魔力持ちといえど海の中。
生き残らなくては話にならない。
自然の生き物は生まれ落ちた瞬間からだいたいは餌になってしまう運命だから。
海の中は食べたり食べられたりが基本。
生まれ落ちて、同じ種類の同じく生まれた子達より完全に生き残りやすいかと言われると、魔力持ちでも特別そうではない。
成長が早く、生き残りやすくはなるんだけれども、だからと言って魔力持ちがそうして生き残ったところで、同じく魔力持ちが魔力持ちを食べようとするのだから、格段に生存率が上がるというほどでもない。
魔力の方が知能が高くなる傾向があるからね。
情報が入ってくるし、知恵もつきやすい。
そういうわけで、ある程度、魔力持ちの子が育つ頃になるまで持っていたりもするらしいんだ。
怖い話だね。育てた肉を食べてる人類に言われたくないだろうけどね。
絶対に、というほどではないけれども、それが 開放期にまで達してくると、食うか食われるかというのはある程度減ってくる。
自分と同レベル以上の魔力持ちに遭遇しなければ食われる確率が減るし、自分より高レベル以上だと食べる確率が少ないからだ。
やったーーー!!
と喜びにあふれる時期になるらしい。
自分がその開放期に入ると、いや解放期っていうのは別に成長用語じゃなくて、なんかこう心理的な用語みたいなんだけどね。
そうか中二病みたいなやつか?
それかパリピになる時期みたいなやつか。
高校デビューみたいな、そういう感じのやつか。
受験生が解放されて、やったーーー!
遊びまくってやるーー!
ってなるような感じだったのかな?
今までの分を取り戻そうとして。
箸が転がっても楽しい時期に差し掛かるわけか。
石で遊んでただけと見えなくもないから、ちょっとどうかな?と思ったんだが、先生ははぐれて食べられた魚さんを見て、キャッキャッキャッとお腹に足を当てて……(お腹かどうかはわかんないけど)大笑いしている。
……先生、これね、昨今の私の向こうの世界でも流れで言うとね、完全に復讐が始まる流れのやつだ、です。
えーっ!?とグリグリもっと目を丸くしてビビり上がる先生。
ビビるんかい?
今のあなただったら、魔力も持っていないお魚さんとか、圧倒的にちっちゃな存在でしょ。
体当たりしたって向こうが死んじゃうでしょ?
でもちょっと面白い。
ちゃんと命を尊重する感じがね。
私の世界ではね、人間の中では昔から言うんですよ。
なぜか物語の始まりは
「昔々あるところにおじいさんとおばあさんがありました」
って。
何でおじいさんとおばあさんなの?お母さんとお父さんじゃダメなの、と私は小さい頃聞いていました。
でもその答えはね、残酷なもので、
「お父さんとお母さんというのは生き物の父親と母親という意味であって、おじいさんとおばあさんから変われることはない。
なぜならおじいさんとおばあさんっていうのは 労働者が年をとって、もうこの先に何の希望もない金もない、面倒も見てくれる子供もない」
という意味なんだって。
怖いね。
昔はね、特権階級じゃないと子供が持てなかったんだって。
なぜなら子供の世話に追われるし、子供の分も食うものも着せるものも金がかかるから。
だから労働者は子供が持てなかったんだって。
そういえば、うちの地方も幕末だか明治の飢饉の時、生まれた赤ん坊を殺害しようとした女性にある男が殺す理由をきくと「食べさせるだけならなんとかなるけど着せる事が出来ないから」と答えた郷土史があったな。
日本人の優先順位、衣食住だもんね。
1時間腹減っても死なないけど、1時間冷え続けたら病気にもなるだろし、風呂にすぐ入れる時代になったのは最近だけだろうしね、薬なんて高額で金持ちしか買えないだろうしね。
私だって風呂に入れはするけど、生活費しか稼げないからか、結婚とかそれどこじゃなかったもんな。
モテないだけとか言わないで。
違うから。
これでもちゃんと、ナンパされた事あるから!
後ろで明らかに賭けしてる相手とか見えてたけど。
いや、こんな話はいらん。
先生、今のは削除。
金持ちの子供は長男だけに財産を相続させて、後の子供は全部労働者になることで人口が 抑えられ、なおかつ特権階級は特権を維持し続けてたんだって。
だから私が知っている、昔からある話は全部「あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。」から始まるんだよ。
それで、だいたい人間じゃない力がね、超常現象的なものが日常に入ってくるんです。
向こうには星も魔力もないからね。
そうやって、自分より上の環境を打ち倒してね、金と幸せに恵まれる話ばっかりなんだよ。
昔からそれがね、向こうの世界の人物では語り継がれてきたの。
それだけ必死に生きてる生き物にとっては悲願と言ってもいいんだよ。
上の存在、上の生き物を打ち倒す!っていうことが。
だから、ね、先生?これからも大変かもしれないよ?
先生、向こうの世界には輪廻転生というものがありましてね。
イカさん先生はこの海で多くの世代交代を見てきたかもしれないけれどもね、そうして食べたり食べられたり食べられて死んじゃった生き物たちが生まれ変わって、この海にまたきっと戻ってくるんだよ。
そしたら先生に集団で向かってきたりしたら、そんだけ大きな魔力と体がある先生でもかなわないかもしれないよ。
上司に対して「ちょっとやばいんじゃないんですか〜」という感覚で喋っていたんだが、なんだか本当にやばい話になってきたのでやめる。
先生、物語です。物語の話ですからね!
こっちで輪廻転生あるか知らないですからね。
向こうでも宗教のうちの1つにそういう考えがあった、って言うだけですから。
宗教っていうのは、えー、えーっとただ、ただ 自分たちがどの神様を信じるかな〜?って選んでるだけなんで大丈夫ですよ。
しかしイカさん先生、見るとピロピロ震えている。
さっきは恥ずかしがっている時に、ちょっと目元が赤くなってるかなと思ったんだけども、今はなんか青くなってる気がする。
純白だからわからないけど。
赤くなってる時も、わちゃわちゃしてたからちゃんと見えなかったけど。
あれ、これ……やばい?
先生、物語です!物語だよ、作り話だよ、ただの想像だからね。
しかしイカさん先生、聞いてない。
きゃー、オジイの言った通りだったーー!
どーしよー!
誰か知らんけどオジイ凄いな。




