初
あー、美味しかった美味しかった。
と、ご飯を食べて満足した。
酒とかなー。
魔法で出せるようにならないかなー?
ちょっとずつ増えるってどうなんだろう?
酒買っとけば良かったな。
あるにはあるんだけど、甘い酒はご飯には合わないよね。
でもなんだかんだ言って甘い酒大好きだけどね。
他の酒が欲しくなるんだよ。
ウォッカとか買っとけばよかった。
冷えたマルガリータとかいきなりシュって出せるような魔法が使えたらいいんだけどねー。
私はそんなの体得するまでに、とんでもない時間が流れそうだね。
困った。
贅沢海鮮を堪能してしょうもないことを考えていると、片付け終わってふと外を見たら、明るいには明るいがどうも日が傾きかけているような気がする。
え?
いくら漂流生活って言ったって(今はもう陸はあるけれど)文明の力を借りたのに。
一食作るので1日終わって精一杯だと?
そんなバカな!?
自分の能力が低さに受け止めきれずに、呆然としてしまった。
まだ昼間のうちに、きらめく木漏れ日の下を散歩なんて無理だった。
どうする?
今から出る?
どうしようどうしよう、そう思って。
迷っててもしょうがないから、海側じゃない方に出ればいいんだと思って外に出ることにした。
カーサフクダの階段を降り切って、畑以外は1階まで降りたらあとはもう、海面でいつもどうすることができなかった。
今日からは、いや昨日からはもう地面があるんだ。
そもそも長距離をお散歩どころか、ファーストカーサフクダだって、私別に入ったことないしね。
アスファルトの地面に降り立つ。
1階の階段の下はアスファルトだ。
それでファーストカーサフクダとも繋がっている。
ちなみに2号室3号室がある、隣の階段へは今まで行けなかった。
海の上は歩けないからね。
つまりカーサフクダの中で動き回れたのは、同じ階段の部屋だけだったのだ。
お向かいさんとその下と上。
それとウチの下、要は畑の部屋。それだけ。
カーサフクダ自体、全部回れるようになるのは、今が初めてだったな。
そう思って、人生で散々歩き慣れたはずのアスファルトの上を、感動を持って歩く。
そしてうろうろして、やっぱり日が暮れかけてるなと思った頃、違和感を感じた。
何だこの違和感は。
何かとてもイライラするような不快さで。
ふと気がついた。
めちゃくちゃ、蚊に刺されていた。
久々のかゆみは我慢出来ず、狂ったようにまだくっついてる気がして叩きまくった。
自分の体を。
かゆみを紛らわしたいのか、蚊を潰したいのか、自分でもわからん。
でも蚊は本っ当に忌々しい。
叩き過ぎて、いや強く叩き過ぎて?手も叩いた所も痛くなってきた。
魔王パワーを受けたからか、蚊もバージョンアップしてるのか、一部少量流血していた。
蚊!
ある意味、ゴキより嫌い。
かゆすぎて逆戻り。
一体どんな理由?
全く!
せっかく森ができたのに。
夕方はダメだな、やっぱり。
でも森の中っていうことは、日が差さなければ蚊が飛んでんのか?
あの連中は暗いところとか好きだからな。
影とかな、涼しい所とかな。
背景が黒だと何でもいいんだよな。
自分たちがそうやって潜めることを知っているんだ。
あんなちびっこいくせにどんな知能持ってんの、ちくしょうめ本当に見失うしよ、背景黒いと。
家へ帰ってまずはシャワーを浴びる。
それでもかゆい場合、痒み止めを塗り塗り。
刺されてかゆいところは、水で洗ったり、石鹸とかをつけて洗うと治まったりする。
蚊が血を吸った上に弱い弱い毒を流す、って言うけれど、それがちょうど流されるのかな。
どうなんだろう。
滅びろ、と思うが、滅ぼせる気はしない。
それに、あいつらはあれで貴重な生態系の一部なんだろうしな。
人類には何もありがたさがないけどさ。
まあ、もう戻ってきちゃって散歩どころじゃないし。
スマホいじってみるか。
スマ子を手に取る。
私どっか押したかな?
どうなってんだろう。
マットレスに寝っ転がってユルユルモードで。
さっきは驚いたけど、悲しみ薄いな。
スマホかスマ子かどっちかが必要だったんだ。
いや、やっぱりこの世界ではスマ子か?
この世界バージョンだもんね。
でもスマホは必要だったんだけどね。
もうスマホは残ったしね。
スマ子は腹立つのさね。
位置情報とかどうなってんだろう。
ここはどうなってんだろう。
天気が表示されてる画面までシュッシュ移動する。
とりあえずパッと見えたのは今日の天気、晴れ、海の上。
ってここ、何々島とかじゃないんだ。
名前はまだない、というやつか。
初、リアル『名前はまだない』
ほうほう。
日本語とアルファベットだけで表示される、慣れた感じが楽しくて意味なくスマホを触っている。
その時、アプリが開いた。
たまたまタップしてしまっただけなんだろう。
そこに出てきたアプリ、起動されたアプリで 私は完全に心を奪われた。
読書救助アプリ『図書館の住人たち』
あぁ!
これよ!これが必要だったのよ、私には。
思い出しもしなかったのに、もう頭の中はこれ一色。
ある日たまたま、本の感想が世間の評価と一致しなかったので、同じ感想の人いないかな?と検索した時に見かけたブロガーさんが紹介していたのだ。
よくある、あなたへのおすすめ、みたいなやつ。
私にとって重要なのは、これは苦手なんだよ、というのを除いてもずーっとおすすめが無限に湧いてでるところ。
このアプリがそれなんだ。
始めにアバターを選ぶのだけれど、そんなんどうでもいい、と一瞬思ったら、アバターは本だった。笑った。
青が好きで、青い本にしたが、アバターなのに外見はこれしか選べなかった。
有料なのに。




