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悩む

 

 先生は海にお帰りになった。


 うちの中に元気よく入っていった、海の幸さん達は、全部探し出して引き渡せただろうか?


 大丈夫、居ないな。

 と、安心して眠った頃、シャキーンとハサミで足を切られたりしないだろうか。



 向こうの世界、つまり元の世界では、貝毒は結構な数の人類を死に至らしめてきたが、こちらの貝、いや、この貝は食べられるんだろうか?

 食べられる事は食べられるが、七時間後死亡しました、じゃ困るのだが。



 私の手のひらにギリギリ4つ乗るくらいの、白い巻き貝。

 サザエとか、知ってる物に近ければ食べやすいかと思い頂いたのだが、多分知ってる物に近くない。




 ただの白ではなく、柔らかく光を放っていた。


 そして、影かと思った暗い部分は、影ではなく深紫の濃い色の光を放っていた。



 外は相変わらずギンギンに晴れているので、光自体は強くない為、室内の手元でよく見るまで気づかなかった。


 わー、高貴な色合い。

 喰うの?これを。



 それに、昆布かな?と思ってもらった海藻(多分)


 これ、……昆布かな?


 知らねーよ、だって?


 そうだね。


 持って見てる私に訊かれてもね?


 わかんないよね。



 でも私もわかんない。




 写真とか動画で、海中の昆布は見た事はある。


 茶色かったり、結構緑にたなびいてキレイだったり。


 でもこの、昆布風海藻は、黄色から緑に色のグラデーションがある。

 葉脈、と海藻も呼ぶのか知らんが、茎とよぶのかもわからんが、とにかく中央にほとんど黄金の筋が通っている。

 それが時折、下(根元?何か太い方)から上に、上から下にとキラキラ光が走る。

 その筋に近くは黄色く、外側のフリルに向かって緑になっていく。


 縦にも太さが変わっていくし、横にもフリルと色の青みが加わっていくし。

 そもそもの色が派手だし。

 ……ぶっちゃけケバケバシイ。



 何故、これを出汁をとる地味な茶色のあのこと見間違えたのか、さっきの自分に是非とも聞いてみたい。


 これを食べんの?




 毒だったらわざわざ、イカさん先生も貝王様も渡さないと思うけど、二人にとっては毒は毒じゃないかもしれない。

 致死量じゃないだけ、という事もあり得るし。


 そもそも、貝王様は食べた事ないかもしれないし。


 美味しいよ、はイカさん先生しか言ってないもんな。



 それに前に、調理師免許持ってる同僚が「辛味というのは味ではなくただの舌への刺激であって、激辛が好きとかいう人はただのマゾ」と言っていた。

 専門知識と主観が入り交じってるように感じたが、辛いものが食べられるのかは訊かなかった。……多分、訊かなくても想像通りだろう。


 イカさん先生サイズにもなると、毒もピリッときてたまんない!とかだったらどうしましょう?これ。



 海産物すぐ悪くなるのよね?


 天日干しでもしてみる?


 毒あって凝縮されても困るな。


 お腹へったのに、私は何してんだ?




 とりあえず、手に持ったままの海産物を台所に置きにいく。


 んで忘れないうちに、靴をまず玄関に持っていこう。


 何かあって避難するとき、靴の有る無しは重要だからね。


 震度3くらいの地震だと、布団の上に何か軽めの物が落ちてきたくらいじゃ私は気付かず寝てるけどな。



 流しにオレンジ色のボールを取り出して、貝と、入りきっていないけど、昆布風を入れる。


 手を洗い、再び寝室へ。




 うーん、スマ子で食べ方調べるか?と考えていたら、目に入ったのは衝撃光景だった。


 出窓で、真っ黒く装甲ピカピカのカニさんが、何故か私のスニーカーを、窓から外へ落とそうとしている。


 逃げのびてたのか!


 いや、何で靴を?


「ストーップ!」


 フー。


 間一髪。


 窓閉めてったのに。

 開けたの?

 器用なカニさんだな。


 ってか何してんのさ。



 私が窓を閉め、スニーカーを掴んでいるのに、諦めずに全身で窓の方へ押しやろうとする。


 何故?

 この靴、あなたの親でも殺したかしら?


 うーん、動かない海鮮だけでも手一杯。


 こっから海に投げたら、海面でケガすんのかな?


 3メートルくらい、なのか?


 人間が飛び降りた時、下が水だから助かったとか、水面もコンクリートの固さで水面で死ぬんだとか、何か取り留めなく聞いた事あるな。


 どっち?


 ま、いっか。


 靴はちゃんとまだ両方あったが、すまぬ。


 カニさんの甲を後ろから掴み、窓を開けて海に投げた。


 達者で暮らせ。


 しかし。


 バッシャーン。


 海上にショーのように飛び出てきた、イルカなのかシャチなのか、なんか黒と白の大きな魚が美しい弧を描き、カニさんを丸飲みして一瞬で海に消えていった。


 ……達者でな。




 靴をもう、普通に出窓に置いてしまったので、そのままにしてスマ子を手に取る。


「おーい、スマ子。起きてる?」


 しかし。


 あれ?

 これ、普通のスマホ画面じゃない?


 アプリやらも、懐かしい本来の仕様に戻っている。


 え?


「スマ子?」


 いつまで経っても返事はない。

 試しにサイレントモードを解除しても、スマ子は喋り出さない。


「スマ子、返事しろ!スマ子」


 あぁ、凹太(ポコた)に涙目で話しかける(ひめ)ちゃんの気持ちが、今ならわかる。


 大地はいないが。

 島ならあるが。


 視線を感じたのか、前を向くと、静止してこちらを見ている伊勢海老(みたいな多分エビ)がいた。

 紫だ。


 ファイ!


 勝てそうにないので、とりあえずバスタオルで、胴?の辺りを持ち、隣の部屋に行く。


 あった!


 ガムテープでハサミをぐるぐる。


 ふー。

 一安心。


 デンジャラス、我が家。


 島が出来たのに、散歩までが遠いぜ。

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