島
あぁ!
やった、できた。
そう喜んでいると、鳥も飛んでいるのが見えた。
人工物がなく無人島に漂流したみたい。
あれ?と思って先ほどカーサフクダがあったはずの方向を見てみると、はっきり言って島の端っこだった。
白い建物が2つ
それが突然、島の壁のようにある。
他に人工物があったら、中世の要塞かなんかみたいな。
取り囲む壁の一部で城で要塞みたいな。
白いからちょっと違うけど、下手したら岩窟王気分を味わえるかもしれない。
ただし絶壁とかない。
岩肌はない。
ここは前と同じく、海の上にカーサフクダが浮いて見えるのと変わらなかった。
今いる位置からは、実はファーストカーサフクダで見えてないけど。
右手側の端っこにカーサフクダはあって、別に高くないから。
海抜低いな、この島。
あと岩窟王は読んだことがない。
島からは、貝王様の魔力が感じられない。
さっきまでの光には満ちていたのに。
私には感じ取れないだけだろうか?
さっきまで興奮していたが、いかにも無人島~という感じのビジュアルに少し冷静になってきた。
貝王様の魔力について考えたことも大きいのかもしれない。
疲れた。
ちょっとぼへーっとしていると、またそっと背中を押された。
イカさん先生の足で。
いつの間に横にいたイカさん先生は、くるくる回めた別の足の上に、そっと乗せたものを差し出してくれた。
スマホだ。
さっき白服の胸ぐら掴むために走った時に落としたんだ。
今着ているワンピースは甚平と違ってポケットはない。
手を使う時は脇に挟んでたんだ。
だからそれ以外の時はスマホをずっと手に持ってた。
とうとう海の上だっていうのに放り投げて走ってしまった。
ありがとうございます、イカさん先生。
なんかこの距離、物理的に人間側に近いな。
違和感はあるんだけど。
……自分で胸ぐら掴みに走り寄ったんだけどさ。
海性生物の側の方に私はいる気がする。
なんか変な立ち位置。
イカさん先生、ありがとうございます。隣に来てくれて。
ちゃんと必死になってたから色々気づいてなかったな。
回り見てなかった、と思ってみまわすと、貝王様は海上にいて、姿を現していた。
きみこさんは波の上に立っている感じだ。
あれ、どうやってんだろう?
まあほとんど顔と汚黒髪なんだけどね。
前までは完全に海の上、何メートルか上に浮き上がってたのに。
気分?
あの口、開いてるんだけど音出ねえし。
謎。
貝王様は海上に出ていると言っても、本来の大きさではない。
中途半端に大きな大きさだ。
やっぱり映像?多分。
いつの間に現れてたんだろう?
そう思ったら頭の中に浮かんできた。
どうも指示を出しながら、姿を表したみたい。
人間がいたからかな?
念のため舐められないように、ある程度のデカさを保ってるのかもしれない。
あくまで本来の巨大さとは程遠いけれど。
つーか、まぁ城ってあれさ、炭酸カルシウムだろうか?
けど一応、生き物だよね。
形作ってるだけじゃなく。
いや、ごくごく近くに忌視子さんがいるので、あまり生物に当てはめない方がいい気がする。
いやいや、気味子さんが近いから、じゃなく見えると改めて、表す形の生物そのものじゃないな、と引き戻されるというか。
神と魔の中間のような。
一緒くたのようなものだ。
まあ、そのまま魔王だけどね。
感無量で、ともすれば泣きそうになるせいか、気を紛らわせようとして余所事ばかり考える。
なんでこんな今じゃなくてもいいこと考えて?
それとも貝王様の体が砕けやすかったら、この島もすぐなくなるとでも思ってんのかな?私。
いやいやいや。
これなんか違うよね?
いやいや。
感無量でなんかこう、何かがこみ上げてくるようで、押し迫って息が止まるようで。
行っていい?
この汚れなき大地に私が足を踏み入れていいの?
(いや、大地とは呼ばないのか?)
汚されたとか怒らない?
ていうか海の魔王とかって、上陸できんのかな?
自分で産み出した陸地なのに。
どうなんだろう。
あのバリアはどうなったんだろうか?
融合って言ってたしな。
でもこれ以上、貝王様に力を使え、なんて言えない。
もともとは海の生き物のために使う力なんだから。
お客様、今まで使わなかった状態から、いきなり大量に魔力を使ったのでお疲れだと思います。
使うために頭も使ったはずでしょうから、今日はもう、いつものあの白い箱の中に入ってお休みください。
またお話しいたしましょう。
これからのこともございますから。
この陸地自体はこちらの世界のものです。
あの白い箱には、まだわずかに壁が残っています。
どうも先ほどまであった壁が、世界が反発しあっていたためか強固だったので、その名残があるようです。
この陸地にも壁を作っておりますが、そのさらに内側にあの白い箱がありますので、あの中が今まで通り安全だと思います。
魔王キミコ、不満でも壁を絶対破らないように。
お客様の安全に関わります。
貝王様の言葉に、私が返事するより先に毅深子さんが吠えた。
全身をスピーカーみたいに震わしながら。
口はカパッと元々開いてた。
……口の、意味。
……指、一本ずつ出来た時は、ちゃんと指だったのに。
んで気味(悪)子さん、壁破るとは何ぞや?
さっきの声は、ゴジラの声みたいなちょっと高めだった。
イカさん先生とかに吠えたり、城の中の音はもっと低かった。
一部は汽笛みたいにも聞こえたし。
大きすぎて他に似る音がなかっただけかもしれないけど。
でも魔力で聞こうとしても意味は“怒り”
これだけ。
音の高低は結構あるから、もしや音程に意味があるんだろうか?
鳥じゃあるまいし。
嘴は鳥か。
異世界の海にはカモノハシでもいるのか?
どこ目指してんだ?




