新天地
え?
……え?
これ、私がやったの?
これを?
砂漠を?
鳥取砂丘にも行ったことないのに?
え?
呆然としてると、貝王様がこう切り出した。
お客様、この陸地はお客様の思い浮かべた土地ですか?
「違います」
むしろ真逆を思い浮かべた。
のに何故。
考え込んでいると何か、今までと違う異質な気配。
私に気配とかわかるわけないのに。
何だ?この違和感。
感覚を辿っていくと、自然体が動いていた。
体をくねらせて見ると、視線の先に白服がいる。
白服?
何故?
じっと見てるとわかった。
私が今日、魔力を感知出来るようになってずっと感じていたのは、圧倒的魔力の貝王様。
物理的に貝王様の魔力に包まれていた。
幾重にも。
本体の城にいたし。
それと同じくらいイカさん先生、奇身子さん。
イカさん先生は隣にいてくれて面倒をみてくれたし、鬼水子さんはこれでも魔王なので、魔力が凄い。
いろんな意味で一番は貝王様だろうけど、貝王様は小さな生き物に影響を与えない術があるからか、威圧感になりかねない魔力の感じ方をさせないのだ。
それも凄い。
この三者以外の魔力があった。
白服に。
そうか、こいつ魔力持ちか。
私に魔力がある、と聞いちゃいたが感知した事もないから、会った時に気づかなかったんだな。
私は新たに別人の魔力を感じて、その違和感からだったが、何故だか皆も白服を見ている。
何ぞ?
その人間の魔力持ちが介入したようです。
ん?
これ、お前がやったのか、白服?
「は?」
低めのは?が出た。
「お前~!」
駆け寄って思わず、胸ぐらを掴む。
人生初の体験である。
海の上に立つのも走るのも、人の胸ぐらを掴むのも。
「何してくれてんだーー!」
嫌がらせか、てめえ!
ここ、海の上なんだぞ!
風吹けばすぐに、全ての食べ物が、砂抜き失敗したアサリみたいにザリっザリになるだろうが!
陸地あっても外に洗濯物乾かせないだろうが!
あたしの緑ちゃんどーしてくれんだ!
「すまない、弁償する」
「どーやって!?」
動揺してるらしい白服が、私の怒りっぷりに押されてアホな回答をした。
声にも困惑が滲み出ているし、気まづそうな表情だ。
そりゃそうだろう。
まだ間に合います。
お客様、もう一度強く陸地を思い浮かべてください。
これから生きていく陸地を。
人間もこの陸地を否定し、お客様に魔力を明け渡しなさい。
おそらく次で終わるでしょう。
魔王キミコ、もう一度力を。
貝王様から指示される間にも、先程よりも強く光だす。
どんどん強くなる光に、本当に陸地が出来るんだな、と感動し始めた。
ファーストカーサフクダと、砂漠を見たからかな?
実感が湧いたというか、ドキドキしてきた。
私がこれから暮らす土地。
出来れば今まで通り暮らせますように。
いつも散歩していた道を出来るだけ思い浮かべ、必死に心身ともに健康な生活を祈る。
この際食べ物がなるかどうかわからないけれど木が生えますように。
果樹でもいいけど。
世話出来ないけど。
緑がいっぱいになりますように。
でも蚊にさされませんように。
ちゃんと水が豊富にありますように。
木々がいっぱいで海風を和らげてくれますように。
木漏れ日の下を散歩出来ますように。
草から低木から高木までたくさんの緑に溢れますように。
川や泉があってたくさんの生き物に溢れますように。
ついでに安全でキレイな山が見えたら良いな~?
いや、山登りとかアスリートみたいな事しないけど。
あ、あと毒なし灰汁弱めの山菜プリーズ。
自分で採取出来ないけど。
見分け方もわからんけど。
頑張って思い浮かべるはずが、つい妄想に走ってってしまう。
いやいや違う違うのはそっちに行くんじゃなくてもっと思い浮かべるように。
匂いとか風とか。
そのうち、懐かしいと感じるようになった。
何だ?
何が懐かしいんだ?
どれ? どれを懐かしいと思う?
スイカの匂い?
いやスイカの匂いしないな。
そう思うと耳にはっきりと聞こえてくる。
遠くから徐々に近寄るように。
そうだこれ……セミ!
海も暑いアツイ言っといて、セミがなかないことに違和感を覚えなかったなんて!
自分自身に驚くのと、セミが好きでもないのに懐かしさにちょっと泣きそうになる。
まるで日本に帰ってきたみたいな気分になるんだ。
嬉しくてどんどんリアルになる。
蝉があんまりにうるさくて、近くにいるのかと足を止めて凝視してみた木の幹の質感とか。
意外とその辺にゴロゴロある脱け殻とか。
猛暑なのに蝶がヒラヒラ飛んでてコイツら生命力強そうと思ったりだとか。
音は人工的な物に溢れてた気がするな。
24時間どこかで必ず車の音がしてた。
でもそれは今は、求めていない。
私は、人がいない事をもう受け入れているんだ。
何かカチッとはまった。
そうか。
人がいるかいないか考えはしたのに、貝王様に質問しようとした優先順位でいえば、気持ち的には高くなかった。
普通なら聞くだろう、くらいの感じだ。
海賊の後だからかな?
いた方が危険なんじゃないか、に少々傾いていた。
緑を思い浮かべらようとして、どこにたどり着いてんだ、私。
でも、もう終わり、と思い目を開ける。
何故人間は、祈ろうとすると目を閉じて両手を前で組むのだろう?
自然とやってるようで、慣習を刷り込まれているだけか?
視線を徐々に上げていくと、そこにはこんもりとした森の島があった。




