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走馬灯

 


 うっかり今までの人生が、走馬灯のように流れる。


 走馬灯のように、って言っても、走馬灯がどんなものかは知らない。

 例えだ。


 そして、脳内を駆け巡った走馬灯は、ぼへ〜っとして歩く私だった。

 ……人生を振り返るんじゃ、ないんだ。


 ……でも。


 1人で歩くの、小学生から好きだったもんね。


 1人ですぐさま妄想に走るせいか、通学路とか苦痛だった。


 人がいるし、1人で妄想して、えへえへ笑ってられないし。


 自分の部屋、ってものも存在しなかったから、妄想の中にしか居場所がなかったんだろうか?

 ……いや、多分関係ないな、それ。


 人間って絶対、自分1人の場所か時間がいるよね。

 少なくとも絶対、1人の時間は必要。

 なきゃ死ぬ。私の場合。


 姉貴ですら、一緒に暮らしてると、頭おかしくなりそうだもん。

 別々のとこで働いてるから、起きてる時間の大部分は会わないのに。



 こうして、薄っすら考えてる間にも、頭の根底では、さっき浮かんだ自分の姿が歩き続ける。


 ……私、病んできてるの?


 無駄に、歩く背景の緑がまばゆい。


 そうだね。

 元が田舎者だったせいか、緑が少ないとやたらストレスらしい。私は。


 高いお金を出してキラキラなランチを食べに行くよりも、蚊に刺されるのは大嫌いなのに、ぼーっと公園を歩いてる方が癒されたりするんだ。

 物悲しい。


 自分じゃそこまで自覚がないが、キラキラと木漏れ日が降り注ぐのとか、風の音といっても実際は木葉(このは)が揺れてる音とか、そういうのに癒されるみたいだ。


  癒されはするんだけど、キラキラを見る方ももちろんテンションは上がるんだが。

 元が疲れてる状態だと、だからってエネルギーを補充されない。

 どうも緑にたっぷり癒されてからじゃないと、テンションが上がるという現象にならないんだ。



 緑が欲しい。

 緑。



 今すぐ出ようとして攻撃しているようで、白い光る球体からひび割れてきている。

 忌視子(きみこ)さんが汚黒髪でピシピシやっているのも見える。


 あれ、爆発したら危なくないのかな。


 なんとなく、ぼんやり薄暗い気持ちで見ていたら、貝王様がくりん、と振り返った。





 お客様、土地が欲しいですか?





 土地!?


 すごい言葉だ。

 めったに聞かない。

 しかも海で土地って。


 まあ他の人の部屋にはさすがにあんまり入ってないから、歩く事すらあんまないけどさ。


 いや、畑を見に行ってるけど。


 どういう意味だろう?


「貝王様は土地があるんですか?」


 どさくさに紛れて、とうとう貝王様って口に出して呼んでしまった。


 どこからがオッケーなんだろう?

 まあ一応、敬意として呼んでるわけだから。


 でも名って言われたな。

 名前はないのかな?

 勝手に呼んでやばかったかな。


 でも気味子さんが出る直前のせいか、そんなに余裕がない。

 お互い。

 いや、多分あるのかもしれないけど。


 貝王様は全然平気かもしれないけど。 


 危海子(きみこ)さんを容易く押さえつけてるし。


 人権、いやなんつうの?プライバシーって言うの?

 そういうのを尊重しようとしてあんまりやらなかっただけなんだろう。

 多分。



 実はマナを流し込みすぎたせいか、たまり始めています。

  どんな結果になるかは分かりませんので、お客様の希望に沿う形にお話し合いしましょう。






 その時、どっかーんと音がして、気味子さんが出てきたらしかった。


 振り返ると、弾け飛んだ元は球体であったろう光が、キラキラと白く上から降り注ぐ。


 危深子(きみこ)さんが白の広間の中央に浮いている。


 なんかこう、魔王降臨って感じ。

 悪役の意味ね、魔王は魔王でも。


 悪ってほどでもないけどね。


 でもほとんどそのままだよね。



 ま、隣に今、白い魔王がいるけど。


 白い悪魔系はやめてね。

 それガチで怖いやつね

 今、完全に世話になってるけど違う、疑ってないから。大丈夫だから。




 毅実子(きみこ)さんは怒っているのか、球体が浮いてた場所にとどまって浮いたまま、こちらに向きを変えて睨みつけた。


 ていうか目が1個しかないから、表情がわかんないけど。

 顔の大部分が目だけど。

 睨みつけたって言ってもある意味いつも通りだから、よくわかんないけど。



 言いたいことでもあるのか、どうも顔の、……顔つってもほぼ目なんだけど、その目の下に魔力を溜め込み始めた。


 何してるか、何考えてるか、ずっとわかんなかった。

 けど、少なくとも魔力の流れが少しはわかるようになったこれからは、もう少し、何してるんだろうっていう疑問が減るかも。

 今、どっちにしてもわかんないけど。


 忌視子(きみこ)さんの考えが垂れ流しでもわかんないけど。


 特に何考えてるって事じゃないかもしれないけど。


 ま、とりあえず魔力を顔に集中させて何してるのかと思ったら、ほとんど目ばっかりだった顔に、ちょっと暗く穴が開いた。

 かと思うと逆に穴を覆うように、白く皮膚……皮膚だよね?……なんていうか伸びてきた。



 そして誕生したのは……鳥のくちばし、だった。



 なんでだよ!


 海の魔王だろ、っていうか私はこの海で鳥を見たことないけど。


 きみこさん、この辺に漂ってて、鳥を見たことあるの?

 っていうか何で手に水掻きがついてんのに、口は鳥なの?


 おかしくない?

 どこ目指してんの?


 それとも海性生物に、ちゃんとくちばしあるの?

 あの鳥みたいなやつが。


 遠いからそこまでどんな感じかは見えないけれど。


 ほぼ汚黒いか、青白いかの中に、妙に遠目からは 金属のような光沢に見える、くちばし。


 それをかぱーっと開いたかと思うと、本日何度だかやっているように、ボーっと音を出した。


 ……今までと同じだった。


 口の意味は?


 言いたいことあって、口つけたんじゃないの?気味子さん。


 ま、今までは、ただ魔力で怒りしか流れてこなかったので、考えと言えるほどはわかんなかった。

  ……魔力の流れがわかんなくても、あの音を聞いてたら怒ってるのぐらいはわかってたけどね。


 相変わらずだな。


 ただの怒りで、それ以外に何もない。


 ある意味 純粋な感情。

 まあ、閉じ込めてた怒りだろうけど。


 評価くださった方、ありがとうございます。

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