私と彼女の距離
ビビり続けているくせに私はどうしたいんだろう。
考えても考えてもわからない。
でもサブリミナル効果、というか何と言うか、若干、愛着も湧いてきた。
海しか見えなくても絶望したかもしれないしね。
逆に言うと忌視子さんを避けていたから、海の青のありがたみがわかるというか。
いやそんなこと自覚したらもう、飽きるのかもしれないけど。
波の音しかしない、大海原。
虫どころか、全く鳥の声も聞こえない、見かけもしない。
近くに全然陸地もありそうにない。
人類なんて、結構何千年も前から海に漕ぎ出でているのに。
初めてカーサフクダから船を見たのが、自分が海賊に襲撃された時、なんて最悪だよ。
だからそれは、気味子さんが出てビビりはしたけど、何というか純粋な恐怖であって、先々の不安も、もちろん感じはしたけど。
多分この、何もない海と空だけに絶望したりするんじゃないかと思うんだ。
それがなかったらきっとね。
だから何て言うか、愛着を感じてしまっている。
はっきりと。
……友達って言えないくせにね。
でも友達って結構、曖昧なことだから。
学生時代、他クラスの子に、自分のクラスの子の話をする時「うちのクラスの」って言うとなんか、遠く聞こえるんだ。
友達って何か言っておかなきゃいけないみたいな。
実際に相手が友達だと思ってくれてるのかもしれないしね。
でも感情の面じゃなくて、何て言うか、社会的にそう言わなければいけない、みたいな。
そういう時代を過ごしてしまうと、友達ってどういう分類になるんだろう、ってなるんだよ。
働きだすと楽なんだよね。
会社の人、ってなるから。
同僚とか先輩とか。
仕事の上なんだから、友達とか軽々しく考えてんじゃねえよ、みたいな。
遊びに来てんのかみたいな空気になるしさ。
すごくそれって、楽な話だった。
だから友達って、難しいんだよね。
学生時代はそれでも友達っていたのかもしれないけど。
仕事に繋がりがある人に友達?とか確認したりしないし。
いや自然となってるから友達って言うのかもしれないけど、結構それ、難しいと思うんだな。
コミュニケーションが得意なリア充じゃないとね。
そう思うの、私だけ?
みんなそうなの?
気味子さんが嫌だとはっきり言えないのは私の弱さなのか。
それとも正義感ぶっているのか。
でも否定したくないという感情があるんだよね。
否定する、っていうのは何て言うか、どうしても『嫌なこと』というか。
危険のわざわざ近く居たくはないんだけど。
それは確かなんだけど。
でも奇深子さんは、ここ最近のほんの数日で、かなり成長した。
大きさはどうでもいいんだ。
世界に関心を持った事が大事なんだ。
希望的な憶測は意味ないかもしれないが、この先は、今までと違うかもしれないし。
自分で、自分の感情の中でわかっているのは『否定したくない』ということだけ。
でも感情って大事な気がする。
怖いと思ってるのも、感情だけど。
感情で間違った判断をしたら、その先もずっと後悔し続ける気がするんだ。
頭で考えてやったのに違ったらイライラするだけみたいな。
ま、先のことはそれこそ考えてもどうにもならないんだけどね。
でも否定はしたくないっていうのはホントにそう。
別に私が危深子さんにあんまり近くに寄らないで、って言ったって、魔王である貴海子さんの居場所がなくなるわけではないんだけれども。
でもそうだな。
やっぱり否定したくない。
いいじゃん別に。
結構楽しかったんじゃない?私。
いや、無理やりそう思ってるのかもしれないけど。
イカさん先生や、貝王様といると、とっても安らぐ。
尊重してくれて優しくしてくれて、自分よりもずっと様々なことに理解があり、教えてくれている。
気味子さんとは正反対だ。
でも精神年齢は私、どっちかと言うと奇味子さんに近いよね。
魔力の質も似てるって言うし。魔力の質がどんなもんなんだかよくわかってないんだけどさ。
うん。
私と彼女は友達じゃない。
でも友達になることは可能なんだ。
可能なはずだ。
私がビビりまくって何も見ようとしなかったり、彼女がやっぱり何しても無関心で、世界を拒絶するように自分自身のことしか見ないで居続けなければ。
別にいいじゃん。
後から袂を別ったって。
いつでも繋がれる携帯電話を手にしたって、結局学生時代の友達だって繋がってないじゃん。
同窓会の幹事やれ、って言われたらそれこそ絶望だよ。
もう絶対無理だしね。
どんなにこっちが誠意を尽くしたって、本物か偽物かわかんなくってビビられる世の中だしね。
そうじゃなかったらそもそも、俺俺詐欺とか存在しないし。卒アルが流出して騒いだりしないし。
卒アルの流出はあるあるすぎて何もみんな感じないのかもしれないけどさ。
まあそれを成功させるには、演技力が大事なんだろうけれど。
人間社会ってやっぱり演技力が大事だよね。
もう今この海で言うならば、演技力なんて使わなくても、魔王2人とイカさん先生には私、どうやったって魔力で感情が漏れてるみたいだからごまかしようがないけどね。
演技力が上だったこともないけどね。
そうね。
普通に人間相手にも、嘘下手くそすぎて私何にもごまかせなかったね。
『怪しすぎてもうスルーしようこいつ』みたいな態度取られてたしね。
いや、やめよう、なんか落ち込んできた。
今それどころじゃないんだ。
貝王様に答えなきゃいけないところなんだ。
えーーっと。
何だ?
何ってゆーんだ?
私と彼女は、これからトモダチです?
うん?これ、私が勝手に言う事?




