確認
お客様が安全に暮らせるように、今は異界の壁と海との壁の間に、私共も壁を入れております。
それで外敵に脅かされることはないでしょう。
侵入者はないものと思いますが、もし何かありましたらお呼びください。
それからお食事ですが、お客様の星が自分の利用したものを増やせる能力である為、特に食べた物が増えるように、壁の内側へ多くマナを流しております。
実りが豊かになるはずです。
お客様に、食べるものは足りるかどうか確認してまいりましょう。
お客様、お住まいに侵入できるかどうかは、少なくとも我々、魔王も招かれなければ入れません。
私よりもずっと力の強い魔王が参りましたら、その限りではないかもしれませんが、お呼びくださればお守りいたします。
その他ご不便がありましたらお申し付けください。
本当にごめんなさい。
貝王様は、一つ一つ丁寧に説明してくれた。
時々意味だけではなく、頭の中に映像も思い浮かぶ。
マナが流れて変化した過程までをもが伝わってくるのだ。
例えば畑。
あれはどうも、食べたものは単純に増えるだけというよりも、私が食べた食品関係の原材料にマナが集中したことにより、土に植えられているものらしい。
誰が植えた、というのではなく、勝手にそう変化した。
それでもしかしたら、そういう私の星なのでは、と予測していたそうだ。
私自身より先に、海のお詫びチームで、異世界人にも星が与えられる事を確認していたらしい。
いや、確認は今か。
でも予想通り。
完全に土がなかったらどうなってたかわからないが、ウチには少なくとも百均で買ったちっさい鉢植えの観葉植物と、姉ちゃんが置いてった苔玉があった。
陸の食品については正直わからないから、どうなるかは分からなかったらしい。
その時は星は確定ではなかったから、とりあえず死なないようにマナをいっぱい流し込んで、様子を見ていた。
理由までは全て説明できるわけではないが、結果としてマナは畑になった。
しかも海のマナを流したせいか、何故か、地下……正確には海中に増殖していった。
増える途中だったせいか、穴があって奇見子さんが、せっかくできた指でつついてたらしい。
魔王自らが望んで大量のマナを流し込んだから可能なんだろうか?
わからないけれど。
私と会話しようにも、魔力を当てて死んだら元も子もない。
結果としてはそんなことをしなくても、毅実子さんが出没してマナはたっぷり流れたし、私が魔力持ちだったこともあって、おそらくは死ななかっただろうということだけれども。
まあ、心配してもらうほど積極的に考えたり、冒険したりしてなかったんだけどね。
いやはや、どうもすいません。
どうも私よりも、私を図らずも異世界召還した、原因の人たちの方がよっぽど真剣に私の生活の心配をしていた。
ごめんなさい、食っちゃ寝してました。
私も知らなかったよ。
消費した物が増える、が食べたから食品が畑として実る、なんて。
貝王様によると、異世界から来た客人というのは、過去に世界の中には例があったようだが、自分自身は初めて会うという。
どうしたらいいか、困っていたということだった。
私も困った。
責任持ってくれるのが貝王様でよかった。
ん?
貝王様だから責任持ってくれるのか。
貝王様が原因でよかった?
変な感じだ。
まぁでも恨んでない。
今、家賃も税金も仕事もないから。
飢えないけど、暇になる心配でもしたほうが良さそう。
陸に行くのはちょっとね。
しかも、魔王も入って来れないと言われると、ヒャッホー!だよ。
いや、貝王様が入ってくると思っているんじゃないだ。
貝王様が入って来れないと言うんだったら、妃深子さんも入ってこれない。
よし!
あの指は怖かったよ。
今朝は鬼水児さん助けてくれたんだけどね。
いいんだけどね。
でも私、メンヘラ慣れしてないんだ。
何でそんなに私の事好き?
こんな少女マンガみたいなセリフを1つ目さんに向かって言う日がくるなんて。
口に出してないけど。
お客様よろしいですか。
ちょっと苦笑する風の貝王様。
さっきまで凄く誠実な空気ばっかり感じていたが、なんとなく主さんぽい喋り方になってきた気がする。
人間との会話に慣れてきたのかな。
でも、いろんな面で私より遥かに全ての実力が上、っていうのは確かに2人に共通する点かもしれない。
その点はね、すいません。
だらだら生きてきた人間です。
お世話になっております。
貝王様は少しどうしようか迷ったようだったが、私に見せてくれた。
頭の中に浮かぶのは己見子さん。
海に浮かぶ。
生まれつき大抵のことは知っている。特にこの海のことは。
大概のことに興味はないので、陸のことを知らなくても、もちろん何とも思わない。
貝王様の城計画も、もちろん知らない。
ところかがそこに異世界の異物が現れる。
さすがに何の事かわからない。
自分の知らないことが自分の海域に起こる。
魔王である自分にも何なのかがわからない。
それが不思議で不思議でカーサフクダを見つめる飢身子さん。
ずっとずっと見つめて、私と魔力の性質が似てる事に気がついた。
けれども異質のもの。
一体 これは何?
人生で初めて、興味を持った己海子さん。
人じゃないけど。
それによって、私だけが強烈に心に染み付いたようだ。
カーサフクダ、イコール私じゃないんだけど。
私にはそんなに実力はないんだけど。
私もビビっても、シャイだなあと思ってる危深子さん。
自信のありすぎて、私の気持ちが全くわからないらしい。
私ら本当に友達なのかな。
いや、友達じゃねえよな。
まず無理だよな。いろんな意味で。




