名
稀海子さん、薄々思ってたけど、私の事好き過ぎない?
わかりたくなかった!
しかし前と違い、魔力の流れがわかってしまうと、正々堂々、お気に入りである感情をぶつけられた。
今までもそうだったのかは謎だ。
永遠に謎だ。
知りたくない。
テレビで芸人が、体より大きなボールに斜面で追い回されてぶつかって潰されてるのはこのくらいだろう、くらいの衝撃だった。
……やっぱ貝王様の方に行ってくんねえかな?
別にさ、稀海子さんの事は嫌いまではもういかないんだけど、怖いことは怖いんだけど。
ていうかね、メンヘラな気するんだけど。
そっちが怖い。
貝王様、よろしくお願いしま〜す。
そういうのも奇見子さんに聞こえるのかな。
貝王様にだけ伝えられないのかな?
っていうか危海子さんにさえ聞こえなきゃいいんだけど。
怖いんだけど。
どうしたらいいの?
お客様
私の名は貝王ですか?
貝王様が言う。
はい?
「お名前ですか?」
どゆコト?
お客様は私をカイオウと呼んでいますから
へーい!それは頭の中!
ってー、これも垂れ流し?!
ちょいと!そんなに魔力ですぐ垂れ流しになるの?
そんなに眠らない街東京の電波塔みたいに常に発信し続けてるの?!
これでもけっこう頑張ってたのに、ひっそりと!
これでも、これでも頭の半分で外にいくな〜と念じながら魔力を感知し続けてたつもりだったのに。
まだ足りないの?
そんなデブに生きる限り腹引っこめとけ、みたいな難易度を常に維持しろと?
私、初心者なのに!
お客様がキミコと呼んで名となるなら、私の名もカイオウとなります。
魔王の、名付け親。
私には重すぎます!
ビビリ上がってるのに、半分は呆然として言葉で出てこない。
しかし、これに反応したのは私ではなかった。
黙ってても大きな魔力が、蠢き始め、見ると危深子さんが、突撃前のように身を屈めている。
見えている貝王様は映像だろうに。
いや、城本体だから逃げようもないか、逆に。
えー?
「鬼魅子さん、何で怒ってるの?」
マジでわからん。
ご長寿チビ探偵マンガで、アシークレット……何か女は謎で美しくなる、みたいな言葉を言ってたが、危魅子さんに限って言えば、目ン玉1つの頃から常に謎と驚きの引き出しが豊富である。
美醜については黙秘する。
目玉は今も1つだが。
何故?どこに怒る。
カイオウが海の王、って訳されたのかな?
私の海でデカいツラしおって!みたいな?
海の生き物達に王と認識されてるのは、同じ魔王でも圧倒的に貝王様だけど。
私はさっきのように奇深子さんをなだめようと思ったが、距離があった。
体の向きこそ会話のために貝王様の方に向いたが、立ってる場所は、イカさん先生と移動した隅っこだったから。
でもそんな悠長な事は危味子さんの側では言ってられない。
薄々気づいてはいたが、彼女は気が短い。
ビュッと、退避する野生のウサギのような早さで、忌御子さんは視界から消えた。
驚いたが半ば予想してたというか、貝王様の方を見る。
貝王様の姿は消えていて、己海子さんは丸い光に包まれて浮いていた。
白く輝き、キラッとオーロラや虹のように光る。
時々、黒っぽく動くものが見えるので、危深子さんが脱出しようと暴れているのだろう。
汚黒髪で内部から刺激する度に、キラッキラッと輝く。
時々黒く見えなければ、シャボン玉に靄を閉じ込めたか、彩雲を入れたビー玉みたいだ。
彼女が己の力だけで出るのは困難です。
仮のお話だけして、不安があれば彼女と話してから、お約束しましょう。
貝王様はさっきよりもずっと小さな姿でいた。
危深子さんシャボン玉との間に。
イカさん先生と同じくらいか、それより小さい。
映像だから何でもいいのかな。
海の生き物さん達がたくさん集まる時は、皆によく見えるように大きい方がいいんだろう。
まあ実際、本体がとんでもなく大きいからね。
まぁ仮でも大丈夫だろうけれど。
ところで気味子さん、大丈夫かな?
いや危深子さんは死にそう、とか思わないけど。
圧倒的に経験値とか知識とかスキルとか、いろんな熟練度とか実力差が有りすぎだから。
わざわざ殺したりはもちろんしないと思うけど。
危深子子さんも気が短いから、カッとなって無茶するかして、大きなことを引き起こすんじゃないかと。
本気で心配してるというよりは、今朝助けてもらったばかりだから見捨てるのはちょっと、っていう感じ。
そうなったらさすがに罪悪感がね。
大丈夫だとは思うけど。




