それぞれの星
何っていうか、己深子さんでも驚くのね。
悪いけどそんな感情らしいもの、あると思わなかったよ。
貝王様の方はもう、すっかり頭が切り替わったようで、またこちらに向けて話し始めた。
お客様、わざわざ来ていただいたのに失礼しました。
改めて歓迎します。
あなたには大変ご迷惑をおかけしました。
でも元のお家へ帰してあげられないので、これから先、なんとか暮らしていけるようにお力添えをしたいと思います。
今日はそのお話をしたかったのです。
貝王様、
めちゃくちゃナイスなタイミングでした。
毅海子さんも助けてくれましたけどね。
イカさん先生が来てくださって助かりましたよ。
一体全体何だって、海賊襲撃の日だったんでしょうね。
こういうのも、巡り合わせて言うんでしょうか。
まぁどっちにしても何て言うか、ありがたいことです。
別にこっちの世界に来たかったわけではありませんけどね。
そうした下手に出られると、
おうおうおうおう、オイラの生活どうしてくれんでい、オタクなのにオタクが出来ねえじゃねぇか!
みたいなことはできねえな。
自分の権利を主張した方がいいんだろうけれど。
こういう交渉ごと、苦手。
相手が優しい人で良かった。
人じゃないけど。
貝だけど。
魔王だけど。
「ええまあ、困ってるちゃ困ってます。」
私はこれからどうなるんでしょう。
どうするんだろう。
釣りとかできないよ、食料がなくなってっても。
人生で1回しか釣り堀、行ったことないけどね。
貝とかはさ、海底にいるものでしょう。
海上から取れるもんなの?道具もないけどさ。
街に行くのもね、怖いからね。
何があるんだか、ていうか、本当はもっといっぱい色々あるんだけど、海賊で全部吹っ飛んだ。
完全に吹っ飛んだ。
どうしたらいい?助けて。
貝王様が言った。
お客様、お話し合いのために星の鑑定をしてもよろしいでしょうか?
私にあるの?
こっちの生まれじゃないけど。
まぁ向こうで生まれ育った私にも『レシピ通り作ったのにちょいマズなものが出来上がる』っていう星があるんですけどね。
冗談はさておき。
イカさん先生は、私の胸元の方に浮いていたが、貝王様に向かって一つ頷くと、くるりと私に振り返った。
顔まで上がってきて、また端の足で私の頬に触れた。
するとそれはどうも、カーサフクダがこちらに来た日のことみたい。
私に星が付与されている。
こちらの生き物には皆、星が与えられるのかな?
不思議だね。
次に広がったのはこの広間の映像だった。
どうして?私ここにいるのに。
すると上の方の壁の一部が、よく見たら青かった。
淡いパステルの壁の中。
真っ青。
ただし、ちっちゃい。
よーく、よく見ると、壁の高い方に青い小さなカニさんがいた。
そのカニさんが、星を鑑定できるらしい。
どんな小さな生き物にも、本当に星が与えられてるんだね。
イカさん先生から見せられているのは、そこまでのようだった。
なので、さっきのカニさんはどこかな?と思って一生懸命に壁の後方、いや上の方を見回した。
すると、正直、カニかどうか見てわからないくらい ちっちゃい青を見つけた。
まあ、距離があるからかね。
一生懸命、ハサミを振り上げて跳ね上がっていた。
危ないからやめなさい。
何だってそんなちっちゃいのに、そんな高いところにいるの。
危ないよと思ったらこけた。
つるっと。
どうも落ちるような構造にはなっていないみたい。
よかったね。
カニさんを見ていると、貝王様が話し出した。
わかりました。
体で向き直ったら告げられる。
お客様の星は、自分は消費したものを少しずつ増やせるという能力です。
素敵なお力ですね。
使ったら増やせる。
実は少し心当たりがあった。
シャンプーリンスが散々風呂に入ってるのに、なくならない。
食べ終わったと思ったものも、よーく見たらちょっと残っていたりする。
はじめのうちに食べて放置していたものが、なんか記憶にあるより増えてる気がする。
そういうこともちょいちょいあって、私は引きこもっていられたのだ。
魔王キミコと同じ星ですね。
お客様は魔力の質が似ています。
だから私よりも、彼女に近い方に落ちてきたのかもしれません。
魔王様がすごいことを言った。
すいません、貝の魔王様。
魔王キミコとはもしや?
彼女はあなたがつけた名前を気にいって、キミコと自称しています。
鬼海子さぁーーーん!!




