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静寂

 


 広間は水を打ったように静まりかえる。


 水を打ったように、って表現合ってる?

 ってゆーか、そんな言葉、存在する?


 この痛い、いたーい(しじま)を私は知っている。



 助けてーー!イカさん先生ー!



 割と当たり前な事を言ったつもりなのに、


 とんでもないKyが出たぞー!


 みたいな空気だよー!



 とある室内を想起させるよー、

 最早トラウマレベルだよー。



 みーんな、こっち見てるのー!



 うっうっ、そんなに二本足ヤローが珍しいですか。


 そんなに、あっしはトンチキな事言いやしたかね?


 そんなに口開いたらイカンのだったら、何だってあっしを招待しなすったんで?




 大層うずくまりたい衝動に耐えてると、ちょんちょんと肩をつつかれた。


 イカさん先生だった。


 ちょんちょん。

 大丈夫、大丈夫。


 優しい感情が、ちょんちょんやってくる。肩から。



 でも後ろを振り返れば、小魚さん達はヒョエー!という顔をしている。

 元からそういう顔かもしれないが。

 ……ずいぶんと愉快な顔してんな、それ。



 貝王様、実は独裁王者?

 そんなにアカン感じ?

 朕は生まれながらの、とか言っちゃう系?



 そりゃ、己深子(きみこ)さんは魔王なのに、この海域の一人レジスタンスだけどさ。


 田舎育ちで、親とかが「ウチの娘も結婚しないのよ、何もわからないうちにさせないと駄目ね」とか言っちゃう、こっちからしたら信じられないくらいに無神経な環境に長くいるとさ。


 考えを押し付けるもの、って何でも嫌になっちゃうんだよ。


 性格の違い、っちゃあそれまでだけど。


 貝王様が無理強いするのは、見たくないな。


 忌深子(きみこ)さんもアレレだけど、否定ばっかりしないで欲しい。


 ……鬼海子(きみこ)さんは否定以前の問題だけど。



 もうちょい他者の存在を受け入れようぜ。

 私の言える事じゃあないが。


 でも周りの存在を最初(はな)っから無視、ってのはいかがなものか。


 世界って多分、とてつもなく多くが関係し合いながら、巡り巡るんだよ。

 完全に、単独のもの、って厳密にはないんじゃないのかな?

 難しい事は何も、わかんないけどさ。


 魔王だって、私の最初の印象、産土神(うぶすながみ)かな?って思ったよ。

 あくまで私のイメージだけど。


 でもその土地のマナでしょ?親は。


 その土地に生まれて、その土地のマナを吸ったり吐いたり……してんのか知らないけど、まぁその土地のマナがあって()まれて()きて。


 魔王は何もしなくてもマナを安定させるのか、知らんけど。


 何っにもその土地とか、土地の生き物に関係ない、って事はないんじゃないの?


 土地ったって、ここ海だけどさ。


 貝王様と考えは違ってもさ、もうちょい、何かないかな?


 無理に結婚しろ、とは言わないけどさ。

 それ、駄目なやつ。



 悶々(もんもん)と悩んでたら、うつむいてた。


 息苦しい。

 息するの忘れてた。


 自分が趣味でやってる塗り絵の時も、本読んでる時も、集中してると息するの忘れてたりするわ。

 今回のとは、それはちょっと違うけど。


 下向いてばっかりって、良くないね。

 なんか間違えそうな気がする。


 倫理的とか常識とか、そうじゃなくて。

 自分が後悔する方に、自分で流れそうな気がする。


 はい、顔上げてー。

 吸ってー、吐いてー。



 お、白い。


 私の前に、イカさん先生が浮いている。


 私は深呼吸の時、気づかんのかーい。


 どんだけ周りが見えてないのだーい。



 私は、閉鎖的な村に現れた道化の気分だったけど、味方がいる。

 とても心強い。


 メンタル弱いもので。

 争い事も嫌いなのに、何故かいつも私は自分の考えと相容れない環境にいる。

 ホント、何でだろう。


 しょっちゅう、正しいとか当たり前が崩れるんだ。


 ガリバーみたいに。


 今はリアル異質人だな。

 異世界漂流中だもんな。


 でも味方がいる。


 一人大好きの私は、強く救われたと思うのは、一人じゃない時だ。

 我ながらめんどくさい。


 でも嬉しい。

 凄く嬉しい。

 実は泣きそう。






 わかりました






 え?

 突然、貝王様が宣言した。


 わかった、って何が?何で?






 お客様に失礼しました。

 在るがままが良い、そう、思います。







 貝王様が、私に、そう言ってくれてるのはわかる。

 でもロクデナシ宣言から、何故そうなったのか、わからない。


 今見てる白い貝は、イカさん先生とは別で、ただの映像らしい。

 幻覚を見せている、という方が、正確には近いかも。

 私にはどこが正面かもわからないから、下手したら映像が動いてもわからない。



 だから、話す相手が変わったのは魔力の流れと文脈で判断するしかない。

 貝王様は、本人の性格による魔法の熟練度が高くて、こっちで判断しなくても、すぐにわかるようにしてくれるけど。



 そして次に、貝王様は稀海子(きみこ)さんに話しかけた。






 すみません。

 今までの態度をお詫びします。






 全く、さっきまでの話し方とは違っていた。


 貝王様は怒って暴れる気味子(きみこ)さんにも、別に尊大な物言いはしなかったけど、まるで教師のように、上から目線ではあった。


 上から目線、ってちょっと感じ悪い表現だな。


 何というか、聞き分けのない子どもに諭してる、みたいな。


 それが完全に対等な謝罪だ。


 城の一部を破壊した危深子(きみこ)さんは謝ってないので、むしろ貝王様が下手に出ている。



 潔すぎるだろう。



 天上天下唯我独尊の己海子(きみこ)さんも、髪もヘタリと重力に従い、沈黙してしまった。


 驚きが漫然と流れ出るほどに。


 怒っても暴れたり大音出したりでも、魔力で感情を訴えなかったのに。



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