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御免被る

 


 むか~し昔、私がまだ中学生だった頃。



 当然、その頃は実家に住んでいて、友達とウチでクッキーを一緒に作る事になった。


 なんでクッキーを作ったかは忘れた。




 ただ、思った。


 私がこんな、女子っぽい事をするもんじゃない、と。





 友達の梨衣(りえ)が言った。


 バターと砂糖をジャリジャリ混ぜる作業の時に。


亜梨実(ありみ)って人の男とるの上手いよね。杉田と席前後だからって仲いいよね」


 泡立て器は、くるーんくるん、と、バターの溶けそうな速度だった。


 思い出した。


 あれは冬だ。


 東北の冬なのに私は、このままクッキーは順当に出来上がらない事を予感して、ストーブを止めにいった。


 一方の亜梨実(ありみ)も固い声で答えた。


「え、別に仲良くないよ。梨衣(りえ)ちゃんの手紙渡してるだけじゃん」


 3週間前に梨衣と杉田がケンカした事が、そもそも亜梨実が杉田にしょっちゅう話しかける事になるキッカケだった。


 梨衣が仲直りをしたいけど、杉田の許せない部分もあって、ちゃんと話したいと手紙をいっぱい書いてたのだ。



 今の若い子は多分、皆携帯のアプリとかで連絡をとるのだろうけど、私等は手紙だった。


 言っておくが昭和じゃなくて平成の出来事だからな?


 高校生はピッチと呼ばれた携帯っぽいものを持ってたりしたが、中学生はだいたい持ってなかった。


 手紙といっても、家で読んで返事を書いてくる用と、授業中に読んで返事を書く用があった。


 厳しい先生の時には、返事までの余裕はなく、内容は読んで把握しておく暗黙のルールだ。


 女子はちゃんとかわいい便箋と、シールを隠し持っていた。


 ……私は基本持ってなくて、ノートを1ページ丸々切り取ってたけど。

 ……その手紙の降り方も、女子はハート型に折れて当たり前みたいな空気で、私はハートを折れなかったけど。


 ……長方形がハートになるって何だよ。



 それはともかく、彼女からの手紙を彼氏に渡すのだから「ちゃんと返事書きなよ」とか言うものだ。


 男子は面倒がる。


 せかす。


 一応、人を巻き込んでるのだから、彼女への返事は書かなければと書く。

 短い。


 また手紙がくる。


 返事。


 また倍量の手紙がくる。


 返事がだんだん、へのへの茂平爺になる。


 そして、折りたたみもしなくなって、宛先に届くまえに

「ちょっと何コレ〜」

 とか

 キャッキャ、ウフフが始まる。


 それを席は遠いけど、同じクラスの彼女が見ている。



 誰がどう悪いとかじゃないんだけど、キツイ。


 早くクッキー作り終わって帰ってほしい。


 しかしクッキーは全然作り終わらない。



 引き離そうにも、私一人の家でもなければ、私の部屋というものも存在しなかった。


 協力しあわなければならない作業なら、ちゃんと作業に集中するかと、二人にクッキー作りのメイン作業を任せ、私は洗い物をした。


 東北の冬に、ストーブをつけてない部屋で、落ちないバターと水で格闘する。

 これだけの為にボイラーつけるのもな、と。



 必死にボールを洗ってるのに、隣から声がする。


「杉田って絶対、亜梨実のこと好きだよね〜」


「え?違うと思うよ。私も何とも思ってないし」


 クッキー型とはいえ、間違って指でも挟んで力入れると危ないから集中しなさい。


「絶対好きだよ〜。亜梨実(ありみ)も満更でもないでしょ〜」


「いや私好きじゃないから」


 打ち粉用に小麦粉持ってるんでしょ?握りしめないで。こっちに粉の風が漂ってんだけど。


「正直に言ったらいいじゃん、私に遠慮してるみたいな態度してさー。最近ずっと二人の世界じゃん」


「だから違うって言ってんじゃん!」


 しかもなんかジャリジャリいってんじゃん!これ砂糖まともに混ざってないんじゃないの?

 どうなんの?クッキー。


 こんなに耐えて、可哀想な小麦粉の成れの果てになるの?


 この冷たさと苛立ち、どうしたらいいの?



 散々だった。


 ボールを洗って進捗を確認したら、ぺったんぺったんしていた型抜き作業は、ちゃんと抜けてなくて。


 しかも下に粉が足りなくてくっついていて。


 テレビでも見てろ、と台所から追い出して、一人でやり直した。


 焼き上がっても微妙だった。


 でもそれ以上どうしようもなく、持たせて帰した。



 あいつらマジで何しに来たの?嫌がらせ?


 何も真っ当な作業しなかったけど。


 やった事ないくせに、理想を基準にして勝手にキレんなよ、とか言わないでください。


 梨衣は普段、クッキーとかマドレーヌとか作ってます。

 まともなの。


 亜梨実は……謎だったけど。








 何故、私はこんな暗くて冷たい思い出に迷い出してるのか。



 ……それは。




 花嫁、我がままはいけない。



 浮いてる貝の言い分に。


 音を出すのを止められたので、ビターンビターン!と髪を、美しい貝の細工の床に叩きつける鬼海子(きみこ)さん。

 どのみち音自体は出てる。


 忌御子(きみこ)さんは怒っている!


 貝さんがただのストーカーなのか、鬼魅子さんが我がままなのか。


 っつーかただの痴話喧嘩?


 私が気味子さんを巻き込んだんじゃなく、コレ、私が巻き込まれたんじゃない?


 何この、帰っていいですか感。


 これ絶対、この間に入りたくない。

 終わったら声かけて。イコール終わるまで絶対こっちに話振るな。



 花嫁って事は夫婦?


 貝さん、何?

 魔王の夫って。


 やっぱり自称か?



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